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リアクション
見張りから人数を聞き出す予定もあったが、思いの他内部からの合図は早く届いた。
開耶から、大和に届いたのは着信だけであり、通話が出来る状態にはないらしい。
「行くぞ」
忍が光精の指輪2個から呼び出してあった光の精を窓から侵入させ光度を上げる。同時に雷術を電線に向けて打ち放った。
組織のメンバー達が気を取られ、軽い衝撃を受けた次の瞬間にバイク音が響き、3台のバイクが扉と裏口から建物の中に突っ込む。
「ヒャッハー!」
「ばきゅーんばきゅーん!」
「ばっ……ばァ〜ん!」
ナガンとパートナーのクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)、サイコロ ヘッド(さいころ・へっど)の3人だった。
バイクを止めて、ナガンが機関銃を乱射する。
クラウンはバイクで移動しながら、ハンドガンで威嚇射撃。
サイコロもバイクを走らせながらアーミーショットガンで、威嚇射撃をする。
「綾お姉ちゃんを連れて、脱出して!」
神狼が走りこみ、ハンドガンを撃つ。崩れた扉の向こうに、男達に体をつかまれている百合園生の姿が見えた。
神狼が放った弾丸が、ミルディアの腕を掴んでいる男の腕にヒットした。男が手を放した途端、ミルディアは男に体当たりをして突破し、綾に手を伸ばす。
「綾ちゃん出よう! ここに、いちゃダメだよ……っ」
「ダメ、ダメよ、私は組織の仲間、仲間なんだから。なんで、皆こんなこと……!」
綾は動揺して、とにかく後退していく。
この場のリーダーのような男が、機関銃を掴むと周囲に弾丸を乱射する。
バイクを走らせ混乱させるナガン、クラウン、サイコロの体が朱色に染まっていく。
「早く!」
「帰りますわよ!」
麻紀とアディアノがぐいっと綾の手をそれぞれ引っ張って、ドアの方へと向かわせる。
「行って下さいーっ」
メイベルは襲い来る敵の前に立ちふさがった。……その彼女に、銃が向けられる。
「ダメ! 私は組織の仲間なの、やめて、やめてーーーーーっ!」
弾丸がメイベルの体を貫き、彼女の百合園の制服が赤く染まった。
「やめて、やめて、やめてーーーーっ!」
「綾さん!」
激しい悲鳴を上げて抵抗をする綾の元に、空飛ぶ箒を携えた大和がつっこみ、彼女の体を抱き上げて箒で浮上する。
「てめぇら!」
「させないよ!」
綾に向けられた銃を神狼が撃ち落とす。
「皆殺しだ」
弾が切れた機関銃を捨てたリーダーの男は、細く鋭い短刀を抜いた。
「あ……っ」
皆を庇うために前に立ったメイベルの肌を深く斬り裂く。
「おぬしは、こっちじゃ!」
忍はミズバに手を伸ばし、大和と同じように空飛ぶ箒に乗せて、飛び立つ。
「メイベルさんも早く!」
「逃げますわよ」
麻紀とアディアノがメイベルに声をかけて、外へと走る。
「……っ」
鋭い刃を受けたメイベルは、動くことが出来ずにいた。
「メイベル無茶しすぎーっ!」
声と共にバイクで突っ込んできたセシリアが手を伸ばす、メイベルはその手を掴んで背に乗り、全ての力を込めてセシリアの体を抱きしめ目を閉じた。
「こちらへ!」
フィリッパは連絡役を担っていた開耶を背に乗せる。
「真奈をお願い。大丈夫! あたしにはこの鍛えた足があるしっ!」
ミルディアは、ナガンの方に負傷した真奈を突き飛ばすと、自分は壊れた扉から飛び出していく。その彼女の背にも、いくつも弾丸が浴びせられた。
悲壮な目を向けながら、真奈はナガンに片手で抱き上げれ、バイクの背に乗せられると男達を突き飛ばしながら突破し外へ飛び出す。
「早く乗れ……」
真奈に向けられた銃を打ち落とした神狼に富士丸がバイクを寄せた。
神狼は組織の男達に銃を放ちながら、牽制しつつ、バイクの背に飛び乗る。
即座に富士丸はその場から走り去る。
「ばきゅーん、ばっきゅーん! ばばばん」
「ばっ……ばァ〜ん! バっ、〜ん」
クラウンとサイコロは銃を撃ちながらナガン後に続く。
最後に窓からナガンがスプレーショットを放つ。
「ギャハハ! 引っ掛かったな馬鹿が! 全部綾に騙されたんだよお前ら!」
笑い声を残して走り去るナガンに向けて、銃が放たれる。弾丸は真奈とナガンの体を掠めるも、バイクは辛うじて無事だった。
「準備しろ、百合園をぶっ壊す!」
男の怒声が響いた。
柚子も姿を消しており、皆酷い怪我を追うも、綾を連れての逃走は成し得た、が……。
「放して、降ろして下さい! 早く、早く戻って、謝罪しないと、ダメなの、早く、降ろして、お願い!! 早くーーーっ!」
「綾さん、落ち着いて下さい。皆大丈夫ですから!」
叫び声を上げながら、綾はいつまでも大和の腕の中で抵抗していた。真直ぐに飛ぶことが出来ず、建物に衝突しそうになる。
やむなく大和は、組織の拠点が見えなくなった地点で、一旦地上に降りた。
「白百合団です。早河綾の引渡しを要求いたします」
「団員より話は団に届いております。早急に連れて帰ります」
途端、厳しい声が響いた。
現れたのは氷川 陽子(ひかわ・ようこ)と、ベアトリス・ラザフォード(べあとりす・らざふぉーど)だった。
綾に厳しい対応をしていた2人は、綾から直接誘われることはなかったのだが、フィリッパが入れた団長への連絡により、団からここに派遣されたのだ。
「戻らないと、戻らないと……っ!」
綾は大和に掴まれた手を引っ張って、組織の方へと向かおうとする。
陽子とベアトリスが綾の前に立ちふさがる。
「どいてーっ!!」
途端、陽子は光精の指輪を綾の目の前で使い、彼女の目を眩ませるとベアトリス2人で暴れる彼女を取り押さえる。
「引き渡していただけますね?」
綾を後から拘束しながら、ベアトリスが大和に目を向けると、大和は複雑な表情で綾から手を放した……。
「放して、放してーっ!」
「あなたが本当に謝るべきは家族、学校そして自分達白百合団であり、組織に謝る必要は全くありませんでした」
暴れ続ける綾を、陽子は冷静に諭そうとする。
「この手の組織は、謝ったりして一度下手に出れば、どんどん付け上がります。断固とした態度をとるべきです。パラ実ならまだしも、このような組織ならヴァイシャリー軍だって動いてくれるはずですわ」
「無理よ!!」
綾が絶叫する。
「ヴァイシャリー軍は、ヴァイシャリーの軍。でも、組織はパラミタ全土に拠点のある組織だから! 小さい組織じゃないのッ。私には、こうするしか、戻るしか、家族を、皆を失わない方法はない――あ……」
突如、綾は目を見開いた。
彼女の体から力が抜けることをベアトリスと陽子は感じ取った。
「お、とうさん、お、か、あさん……みん、な……サー……ナ、ごめ……」
涙を溢れさせて、綾は痙攣をすると2人の手の中で意識を失った。
「綾さ……」
手を伸ばした大和の携帯が音を立てた。
反射的に通話ボタンを押し、耳に当てた大和の耳に、ヴァイシャリーの警備隊に連絡を入れていたはずのラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)の慌てふためく声が届いた。
「大和ちゃん、綾ちゃんの家に、機関銃を乱射した人がいたの」
「……被害、状況は」
頭の中が真っ白になっていきながらも、大和はラキシスに尋ねた。
「家の人達は無事だよ。だけど、メイドが1人即死だったみたい。ご両親は軍が守ってくれるみたいだから、大丈夫だから!」
「お願いします」
それだけ言って、大和は力なく電話を切った……。
「綾ちゃん……とも、だち……」
たくさんたくさん怪我をして。ボロボロになって、血を流しながら、ミルディアはキマクの荒野を走っていた。
会話全てを録音した小型レコーダーを胸に抱きしめながら、ミルディアはただひたすら走り続ける。
何故だか解らない。
決して、傷が痛いからじゃない。
何故だか解らないのに、涙が溢れて溢れて、止まらなかった――。
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