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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

リアクション

 昼時を過ぎ、1日の中で1番温かな時間が訪れた。それは気温だけでなくこの大聖堂に参列している全ての人が感じる気持ち。たくさんの知人友人に囲まれ、ガートナの結婚式がいよいよ執り行われる。
 新郎が聖壇右手の通路から静かに入場し、バージンロードの正面で新婦を待とうとする直前、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)が贈り物を手にガートナを引き止めた。
「こんなときにすみません、今日出席出来ない友人からお守りを預かっているので、式が始まる前に渡したくて」
 本当はこうして入場してくる前に挨拶へ行ければ良かったのだが、遅れてくると言っていた椎名 真(しいな・まこと)双葉 京子(ふたば・きょうこ)を式場の外でギリギリまで待っていたリュースには届けることが出来なかった、親友からの贈り物。サードオニキスの揃いのお守りを手渡し、片方はガートナの手から渡してもらおうと席に戻りかけたリュースを、今度はガートナが呼び止めた。
「そちらの袋は?」
「こっちは、真たちからの預かり物です。ぬいぐるみなので、披露宴のときにでも渡そうかと……」
 手作りの白いウエディングベアと親友からの手紙が入った紙袋を揺らしてリュースが答える。これから神の前で誓いを行う2人の言葉をお守りも聞き届けてくれたらと渡すのを急いだが、さすがに式の最中にぬいぐるみを抱えるわけにはいかないだろうと引っ込めた。
「椎名殿たちの……では、代わりに参列してもらおう」
 司祭に軽く確認を取り、ぬいぐるみは祭壇に飾られることとなった。手作りだと聞いていたので、本人が見れば嬉しくも恥ずかしいんだろうなと、リュースは土産話の1つにしてやろうと席に戻る。
 そうこうしているうちに、漸麗が共に楽器を構える。新婦の入場が近いことを知らせる2人の準備に、会場の中も外も緊張が走った。
 綺麗なドレスを着て、少し俯き加減の幸の隣に並ぶカガチは、袴姿の自分とはやっぱりちぐはぐだなと苦笑を漏らす。いつもは下ろしている前髪を上げ、見た目だけなら父役としての貫禄もあるかもしれないが、眩しすぎる彼女を目を細めて見つめてしまうのは、きっと役に入りすぎてしまったのだろう。
「結婚、おめでとう」
 想像以上に綺麗だったから、つい控え室へ迎えに行ったときは言いそびれてしまった言葉。改めての言葉にはにかんで、幸はそっと腕を組んできた。そこから自分の体が熱くなるようで、カガチはスタッフが開こうとするドアをじっと見つめる。
(緊張なんて、さっちゃんの方が何倍もしてるんだ。父役らしく、堂々としないとなぁ)
 開かれた大聖堂の扉。そこから門扉までのスペースに構えていた黎と漸麗が幸へ一礼すると合奏を始める。互いに扱うのが弦楽器なので相性は良いが、叩きと擦りという奏法違いを活かした旋律で新婦入場の場に相応しい場を作り上げる。門扉も開き、まずはリングガールであるなぎこが入場し、その後をメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がフラワーガールを務め花を捲き花嫁を導く。流れの説明のときにリハーサルはしたけれど、どこを見ても友人の顔が見える今と緊張の度合いは違う。幸とカガチは足を揃えてゆっくりと入場し、そのあとをベールガールであるミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が1人できちんと持てるように大きく腕を広げて2人のペースに合わせて歩いていた。主役より目立ちすぎないようにと選んだクリーム色のドレス、腰にリボンをつけて。髪も軽く上に結い上げいるから、どことなく清楚で落ち着いた印象を与える。
 ゆっくり、ゆっくりと祭壇に近づく。それは新郎に幸を預ける時間が迫っているということ。やっぱりこの人は、ここで出会った最初の、そしてこれからも変わらない大切な友人なんだな、とカガチはガートナの前で足を止めた。
「さっちゃんを、宜しくお願いします」
 本当の父親じゃないんだから、そんなことを言わなくて良いのに。なのについ、深々と頭を下げてしまってほんの少し心が痛む。大切な人が大切な人を見付けた、喜ばしいのに置いて行かれるような寂しさは、きっとこの瞬間だけの物だろう。
(この美しく可愛らしい人が、この人の愛する人とずっとずっと……幸せであるように)
 幸せそうに笑った揃いの笑顔にそんな願いを託して、カガチは新婦側の席へと座る。
 そうして、厳かに勧められる挙式。賛美歌にはメイベルやセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)も混ざり、宗教じみた曲よりも2人に届けるメッセージが込められた曲を選び、今までもこれからも変わらず、多くの苦楽を共にすることが出来るようにと祝いの気持ちを込めて希望の歌を歌い上げる。
 聖書が朗読されるとき、落ち着いた視線で新郎新婦を見守る白波 理沙(しらなみ・りさ)に気がつき、隣に座るリュースはそっと手を握る。確かに小さな子供ではないから、式の最中にはしゃぐこともないだろうけれど、女の子は誰しも憧れる物なんじゃないかと思っていたので、自分が子供っぽいだけだろうか。
「理沙がウェディングドレスを着る時、隣に立つ男、オレは誰にも譲らないから」
 プロポーズにも取れる言葉だが、まさか式の最中に話しかけると思われてなかったのか、それとも大人な態度に見えたのは本当に興味が無かったのか……握られた手をもう片方の手で握り返すのに、その返事はいつもの彼女とは違った雰囲気だった。
「……恋愛と結婚って、同じものなのかな」
 恋人として過ごす時間と、家族として過ごす時間。似ているようで全く異なるそれに、恋愛の延長上に結婚があるとは思えない。リュースのことは確かに好きだし、一緒に居たいと思う。だから無意識に手を握りかえしてみたけれど、心の中では疑問や不安が渦巻いて、それを上手く説明することは出来ない。
「……オレ、理沙の隣に立つ男であり続けるから」
 静かに新郎新婦を眺める彼女は何処か儚げに見えて、もしかしたら自分が気付いていない何かを抱えているのかも知れない。それを無責任に癒してやるだなんて言葉は言えないけれど、どんなことがあっても隣で支えたい、それに相応しい男になりたいという思いは変わらない。そんなリュースを見て少し苦笑を浮かべるけれど、やはり理沙は遠くを見ていた。
 互いにこの場に相応しい服装をしているのに、黒と赤と混ざり合わず主張しあうスーツとドレスのように噛み合わない。喧嘩したわけでもなく嫌いになったわけもなく、仲の良い恋人同士であることは間違いないのに、何かが欠けたような違和感。
(私には関係ないことだと思う。だけど……リュースはそう思ってないのかもしれないな)
 この価値観が同じとは思わない。だから理解してほしいだなんて言わないし、合わせて欲しいとも思わない。ただ1つの願いをこめて、理沙は式を眺めているのだった。
 新郎新婦は丁度指輪の交換をしていたようで、ガートナにはめてもらった光精の指輪を眺めて幸も彼の分を手に取った。
「約束して、ガートナ。私を残して死なないで……私も貴方を残して死なないから、最後まで共にいて下さい」
 先程も神に対する誓約をしたばかりなのに、神ではなく自分に誓って欲しいと言うように幸は約束をねだる。耳には彼女のお気に入りの青薔薇のピアス、手には新しい刺繍の手袋。歌菜からはリボンを借りたと聞いたが、結局どこに結んだのかガートナは教えて貰えなかった。そうして、1つ1つ彼女を幸せにするサムシングフォーのおまじないがかけられている中で、4つ目は自分から贈った母のネックレス。とても愛らしいこの人が男性に間違えられるというのだから、世の男性はもう少し目利きになるべきだと思う。
 最も、彼女の魅力は自分だけが知っていれば良いのだから、どこかでこの光景を悔しく思う人がいるかもしれない。
「約束致しますぞ、幸。私が死ぬ時は君を連れて逝きますとも、ナラカまで」
「簡単には死なせませんけどね。最後の瞬間までも、貴方を見つめるのは私だけです。他人に殺されるなど、許しません……絶対に」
 普通の人が聞けば、背筋がぞくりとするようなその言葉も、ガートナにとっては自分に甘えたいようにしか聞こえないらしく、指輪をはめてもらって幸せそうに誓いのキスをする。2人の指輪からくるくると精霊が踊り出すようにまわり、精霊同士も口づけ合うように光が重なる。大聖堂は、参列者からの大きな拍手で包まれた。
 それを見届けるようにして、天 黒龍(てぃえん・へいろん)が席を立つ。何やら外に向かう友人たちが多いのでそれに混ざるのかと思っていた紫煙 葛葉(しえん・くずは)が、お姫様抱っこをされて大聖堂を出て行く幸を見送ってから外に出ると、そこには黒龍の姿はなかった。
(……どこだ?)
 こうも人が多くては探せない。丁度近くの門扉のところで人が賑わっている様子を聞いている漸麗に声をかけた。
「ガートナさん達が退場する時に黒龍くんを探したんだけど……やっぱりそうか」
 心配いらないよ、と笑う漸麗には何か思い当たることでもあるのだろう。この人混みでは目が不自由な彼の手を引くのも危ないので、もう少し落ち着いたら2人で探しに行こうと葛葉は思いながら、何度かけても繋がらない携帯を何度もかけ直してみるのだった。
 トラブルに見回れたミサも式に間に合い、白が目立たぬようにストールに生花のコサージュを付けて参列した。外に出てきた2人に祝辞を述べ、何やら仕掛けをするつもりの大和歌菜の合図を待つ。
(俺もいつかこんな風に……って、相手がいないよね。相手が……)
 ふと幸せそうな2人を前にそんなことを考えたミサと、何の気なしにそちらを見た巽。結婚式に間に合って良かったねと言う意味をこめてにこりと微笑めば、なんだか考えを見透かされたような気持ちになって、ミサは恥ずかしさのあまり挨拶をそこそこに立ち去ってしまった。どうして彼女が戸惑っているのかわからない巽もまた、大和の合図が見えて2人から離れた。
 大聖堂で見るよりも、日差し溢れる外で見た方が映える純白のウェディングドレス。花のように広がる裾がまるで幸自身を1輪の花のように見せ、この花を誰にも手折らせまいとガートナは強く思う。
 そんな2人を祝福するように撒かれるライスシャワーに対して、大和と歌菜はスキルや光精の指輪を駆使して単なるライスシャワーを浴びる二人の周囲だけ色の花びらのように染め上げ、ふわりと舞上げていく。そんな幻想的な空間に包まれながら大聖堂からガーデンへの階段を下りきって幸を下ろすと、ガーデンの端を少し通るように作られている通路を2人で並んで歩く。ブーケを届けたい赤いドレスの少女が階段を駆け下りてきたのを見付け、幸はガートナに目配せした。
 同時に投げられた白薔薇のブーケと同じ花のブートニア。次の幸せを届けたい者への気持ちを込めて高く投げれば、友人以外の参列者もこぞってそれらを取り合った。
「恋愛運ゲッート! ……って、ホントに? ホントに取っちゃった?」
 がっつきすぎたかなと照れ笑いを浮かべながら、離れたところで見守っているリュースに報告するようにブーケを振り、そして同じようにブートニアを受け取った黎はまじまじと花を見つめる。
「ん? 式場のパンフでも貰っておくかね?」
 悪戯に笑いながらゴードンが声をかけてくるものだから、慌てて花を後ろ手に隠すが今さら遅い。
「み、見るだけなら……構わないと……」
 残念、とまた笑い、この後の手はずを確認しようとポケットに折りたたんでおいたメモを取り出した。いついかなるときも黎をサポートしようと、準備は万端もはずだ。
「ゴードン、その……式場のパンフより、もっと大切なことがあります。この後、少し時間をもらえないでしょうか」
「式場より……いつでも呼びなさい」
 もう一言からかおうかと思った彼の表情は真剣だったので、何も言わず頭を一撫でして去ってしまう。撫でられたところに手をやり、自分のしようとしていることは急ぎすぎているのだろうかと心配になりながら、黎は次の準備を進めるのだった。
 そうして、ライスシャワーを浴びながら小さな橋を渡り、幸とガートナは友人達が待ち構えるところまでやってきた。馬車を使って式場を後にするので、最後は友人に見送られたいという2人の希望で、ここには知り合い以外は誰もいない。
 その中には蒼也ジーナの姿もあって、急遽大和たちのお手伝いをしているようだから、ガイアスは気付かないフリをして幸へ声をかける。
「この絆の輝きは光条兵器の煌めきをも超えておるな。末永く幸せにの」
 1人1人仲間の顔を確認するように歩く2人を次に迎えてくれたのは、とても元気な声。
「姉様、結婚おめでとうございます!」
 緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)が、声を揃えて花びらで出迎えてくれる。けれど、フラワーシャワーだと思ったそれは舞い降りることなく遥遠がスキルを使うことでトンネルのように舞い上がったままだ。仲間がフラワーシャワーを撒く度に舞い上がる花びらは馬車まで続き、それを見送るように遙遠が呟いた。
「ほんと幸せそうでしたね……遙遠も、いつかはあんな幸せを得られるんでしょうか」
 歌菜たちが何か準備をしているのがみえるので、準備が終わるまで手を緩めることが出来ないと遥遠が視線だけ向けると、遙遠は頑張ってくださいと応援しつつ仲間に祝福されている幸を見た。
「遙遠が隣に居て欲しいと思うのは遥遠だけです。少なくとも今はそう思ってますし、今の所その思いが変わるとは思えません」
 小さく呟かれた言葉は仲間達の声に掻き消されてしまいそうだったけれど、思わず遥遠は手を止めた。丁度その頃、歌菜と大和が2人がかりで庭園の手入れにつかう大型の噴霧器で虹をかけていたので、ひらひらと舞い降りはじめた花びらには誰も気に留めなかったようだ。
「遙遠と一緒に居ると居心地良くて幸せです。でも、結局遥遠は遥遠の中に見える自分自身……紫桜遥遠を映しているんじゃないかって」
 いろんな部分が似すぎていて、この居心地がいいのも好きだと思うのも、そうだと思うことで幸せを得ようとしている気がして、陶酔しているような自分自身が嫌になる。そしてそれは、連鎖的に遙遠も嫌いになってしまいそうで、この関係が壊れるんじゃないかと不安になる。
「……遙遠は、遙遠であることを変えられません。それは、遥遠も同じです。でも、少しだけなら変われる部分があると思います」
 生まれ変わることは出来ないから、見た目や自分たちを作る根本的な物は変えられない。だから、遥遠の不安は拭いきれるかは分からないけれど、今を変えていける気がする。
「永遠って言うのは言いすぎかもしれませんが、一緒に居られればいいと思います。遥遠はどうですか?」
「遥遠も同じです。……いつかはあんな幸せを掴みたいですね」
 目を細めている方を向けば、幸と歌菜が抱き合って喜びを分かち合っている姿で、あんな風に友人に祝われて幸せを掴みたいと願う。
「出来ますよ、2人なら」
 優しく笑う遙遠の隣で、遥遠も優しく微笑み返すのだった。
「幸姐さん、本当に綺麗なのです……」
「次は貴方の番ですね」
 靴に忍ばせた6ペンスコイン。幸せを分けて貰った歌菜は、嬉しそうに微笑み返す。そうして、式場から借りた馬車に乗り込む2人が窓から手を振るときに、七枷 陣(ななかせ・じん)がニッと笑って空を指さした。
「セット!」
 仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)と揃ってかけ声を出せば、空には蒼紫色の炎が何かを描くように走る。
 ――Happy Marriage! Sachi&Gartner!
 2人の表情が驚きに変わったのを見て、伝わったのを確認すると更に炎を操作する。
 ――幸さん、ガートナさん。本当におめでとう! 絶対幸せになれよ!
 そのメッセージを見届けて大きく手を振ってくれる幸たちに、蓮見 朱里(はすみ・しゅり)も同じように振り替えし、何か思うところがあるのかずっとアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)の手を握りしめたままだった。
 遠目でその様子を見ていた瀬島 壮太(せじま・そうた)遠鳴 真希(とおなり・まき)。幸せそうに去っていく花嫁の姿に羨ましげな顔をする真希を見て、立ち寄って良かったなと壮太は思いつつそんな服装をさせてやるかと軽く彼女の頭を撫でる。
「ほら、次は真希が花嫁さんになる番だろ」
「え、あ、あたし?」
 真っ赤になって見上げてくる彼女に小さく笑って、目線を合わすように屈んでやった。
「オレにタキシード着ろっつってドレスの試着、申し込んだんじゃなかったっけ?」
「あ、あぁ……うん、そういうこと……だよね」
 何気ないことのように振る舞おうとしている彼女に背を向けて、笑いを堪えたように歩き出す。
「ほら、行くぞ」
 ピンクのPコートにスニーカーというカジュアルな装いが何処まで化けるやらと楽しみにしつつ、久しぶりのデートを満喫しようと2人は仲良くザンスカールのエリアへと向かうのだった。
 こうして、式は無事に終わった。あとは記念撮影も込みでカタログ用の写真などを撮るということだったから、披露宴に2人が顔を出すまでまだ時間はあるだろう。陣が一仕事終わったような顔をして伸びをするので、磁楠は少し興味ありげに問いかけた。
「お前は、この先、誰かと結ばれるのか?」
「ぶはっ、なんやそれ! 結婚式やからって、ちょっと直結しすぎ。だいたい磁楠だって感慨深げに見てたけど?」
 見れる物を見れたので驚いた、なんて正直に言えば自分の大切な友達をバカにしているのかと彼は怒るだろう。けれど、祝福する気持ちはあるからこそそう思うだなんて言ったら、きっと納得いくまで根掘り葉掘り聞いてくるのだろう。
「……結婚式、とはそういう物だろう。そんなことで私を誤魔化すな。彼女たちをどうするつもりだ?」
 名前こそ出されなかったけれど、意識的に遠ざけていたことだから誰のことかはすぐに気付いた。自分が一生の相手を選ぶとき、そのどちらを選ぶのだろう。
(別に今日決めろって言われてるわけじゃない。でも、このままずるずるしていたら……)
 どうなるかなんて分からないけど、色々踏み出さなきゃならないことはわかってる。彼女たちのどちたかを選ぶのか、他の誰かを選ぶのか……それとも彼女たち両方なのかはわからない。わからないからこそ何かしなければならないと思うのに、どうすればいいだなんてわからない。
 その不安定さに気付いたのか、磁楠は無理矢理聞き出そうとせずにスタッフを手伝い後片付けをする仲間たちへ混ざるように去っていく。
「夢の続きはお前に任せる……ただ、今の時間は有限じゃない。それを忘れるな」
「夢ってそんな適当な気持ちじゃ……っつーかなんやそれ!」
 始まりがあるなら終わりもあって、幸せな時間ばかりが続かないことぐらいわかってる。なのにどうして磁楠はわざわざ釘を刺すようにそんなことを言うのか。陣は言われた言葉の意味も、2人をどう思っているのかも答えが出せないまま、今日という日は終わりを告げるのだった。