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砂上楼閣 第二部 【前編】

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砂上楼閣 第二部 【前編】

リアクション

こうして、平和に文化祭が続けられる中でも、
酒杜 陽一(さかもり・よういち)と、
パートナーのフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)は、
警戒を怠らない。
(さすがに、ぱっと見た感じ武器を持ち込んでいる者はいないが……。
 文化祭を楽しむタシガンの民の中に紛れて、
 テロリストが紛れ込んでいるかもしれない)
陽一は、一般の参加者の避難経路をきちんと確保できるよう、入念に確認を行っていた。
フリーレも、一般参加者の中に不審者がいないか、警戒を続ける。
不審者を発見したら、すぐに害意の判別能力のある人に確かめてもらい、
雷術で気絶させるつもりであった。
(学生の中にもテロリストに抱きこまれたものがいるかもしれない。
 注意しなくてはな)
陽一とフリーレは、遺跡で発見された剣の花嫁達への襲撃が起こらないように、
注意を続ける。

北条 御影(ほうじょう・みかげ)は、妨害行為が起きないように、会場を巡回する。
(俺がパラミタに来た時は、
エリート揃いっつう薔薇の学舎の中で
自分の能力向上に身を入れられればってな考えだけで、
現地の住民と軋轢が生じる事までは考えて無かったな……。
学舎の場所云々は別としても、
やっぱりタシガンの民の反感を買ってる状況ってのは好ましく無ぇし、
この場に滞在させて貰ってる身としては負担を掛けっぱなしってのも気になる。
何か返せるものでもありゃいいんだが)
「とにかく、まずはこういう歩み寄りの機会を大事にしてかねぇとな」
御影は独りごちる。
来客者には丁寧な対応を行い、困っている人にも率先して声をかけていた。
「えー、烏龍茶にお菓子、我のマスコットストラップ、
 特製薔薇学ガイドはいかがアルかー。
 薔薇学ガイドにはジェイダス校長の男性遍歴もばっちり網羅してるアル!」
白茶のパンダのゆる族マルクス・ブルータス(まるくす・ぶるーたす)は、来客者を相手に商売をしていた。
「マルクス、何をやっておるのじゃ、
 わしらは御影殿に手柄を立てていただくため、
 真面目に警備を……むむっ、あちらにきれいなおなごがっ!」
猿にしか見えない英霊の豊臣 秀吉(とよとみ・ひでよし)は、真面目に警備を行い、
暴走するマルクスをいさめようとしたが、
女性の来客者を見て注意がおろそかになる。
「なんだ、着ぐるみショーか?」
周囲から声が上がる。
「って、マルクスも秀吉も何やってるんだ!
 特にマルクス! なんだその怪しげな商品はっ!」
「烏龍様のお告げによると、異文化交流で最も重要なのは商いアル!
 そんなわけで、文化交流促進の為に、我も一肌脱いでるアル!
 カゲカゲも一緒に商売繁盛を目指すアルよー!」
「誰がカゲカゲだっ!
 また脳内神の電波で奇行に走りやがって……!」
「わー、ミカミカ、引っ張らないでほしいアルー!」
マルクスは、御影に引きずられて強制退場させられた。
「み、御影殿、待ってくだされー!」
タシガンの女性に鼻の下を伸ばしていた秀吉は、慌てて二人の後を追う。

「さすが、薔薇学、珍しいものがいっぱいですね」
「いけすかないエリート共の集まりかと思っとったが、
 案外、親しみやすい奴らもおるようじゃのう」
ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と、
パートナーのシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は、
普段は女人禁制で入ることのできない、薔薇学の文化祭を満喫する。
とはいえ、シルヴェスターは、
外見は妖艶な大人の女性でもまだまだ子どもであるガートルードが
無茶をして危険な目に合わないよう、警戒することは忘れない。
「サンバカーニバル校長!
 一緒に写真を撮ってください!」
ガートルードは、ジェイダスに駆け寄る。
「物怖じしない子は嫌いではないよ。
 よし、一緒に撮ろう」
ガートルードとジェイダスは、並んで「ピース」のポーズを取り、シルヴェスターが撮影する。
「サンバカーニバル校長!
 ぜひ、美について教えてください!
 本当は、ドージェと渡り合えるスーパーパワーを
 隠していらっしゃるのではありませんか?」
ガートルードは、ジェイダスに質問する。
ジェイダスは微笑を浮かべて、肯定も否定もしない。

スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は、
アディーン梶原 大河と一緒に、文化祭を回る。
「剣の花嫁達の側についてたほうがいいんじゃないのか?」
という大河の言葉には、
「他にも近くで警備してる奴は大勢いるし、いろいろ回るのは警備の一環にもなるだろ」
と言って、出し物や屋台などを見て回っているのだった。
スレヴィは、せっかく薔薇学にきてくれたのだからと、
大河とアディーンを歓迎したいと思っているのだった。
「きれいなお姫さんがいっぱいだぜ!」
アディーンは、来場者の女性達を見回して言う。
真面目な警備を抜け出して、文化祭を回ることができて大喜びだった。
「薔薇学の文化祭か……。
 俺も地球の学校ではやってたけど、
 やっぱりパラミタは一味違うな」
大河も、文化祭を楽しんでいる。
「ん、あの珍しい格好のお姫さんは?」
「あ、上杉サンだ」
アディーンが上杉 謙信を発見し、スレヴィ達は近づいていった。

エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、会場の隅に立っていた謙信に言う。
「また会えて光栄です。姫」
「なんだ、その呼び方は」
苦笑する謙信に、エースは言う。
「だって、上杉さんも謙信さんも貴女を呼ぶのにしっくりしないし。
 まさか、本名で呼ぶわけにいかないし。
 『姫』なら女性に使う呼称として、問題ないものだし。
 綺麗な女性に相応しい呼称で呼びたいよ」
エースの言葉に、謙信は「勝手にしろ」と言った。
「ところで、俺、姫と話したいことがあったんだ」
真面目な口調で、エースは言う。
「アーダルヴェルト卿の家臣である事に誇りを持ってるのは解る。
 だから貴女が信頼に値する人柄だと思った。
 本当に有能な家臣は仕える相手を諌める事も出来るはずだけれど、
 姫はそういう事もできる人だと話してみて思った。
 ならもう少し味方になる人材って貴女に必要かなと。
 タシガン家に何かあると俺としても困る。
 何よりここで社会的混乱が発生したら、タシガン領民が一番困る事だろう。
 それは何よりも避けたい。
 領主は、まず領民の安全と生活を護る事を考える。
 俺の故郷ではそうだから」
エースの真摯な態度に、謙信は複雑な表情を浮かべる。
「世界中の人を助ける事は出来ないけれど、
 手の届く範囲の人達の幸福には手を貸したい。
 貴女と信頼関係を築きたい動機は、それだけだよ」
エースのパートナーのメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、
タシガンの吸血鬼として、相談に乗ろうとする。
「私も地球人が大手を振って闊歩するのは好きではないが。
 それよりタシガンの今の体制が崩れるのはもっと好ましくない。
 何か、気にかかっていることがあれば、協力するよ。
 普段は慎重なはずの領主の行動に違和感、とか、そんなことはなかったかい」
「先々タシガン領主と信頼関係を結びたいけれど。
 まず、貴女の信頼を得られなければ、領主とは、とても無理だろ。
 領主にとって益にならない人材の排除も、貴女達の役目の一環だよね?」
メシエとエースに言われ、謙信は考え込む。
「おーい、上杉サン!」
 スレヴィが駆け寄ってくる。
「いい天気でよかったね。
 せっかくだから、薔薇園を案内しようと思っていてさ。
 文化祭回るんだったら、女の子が一緒の方が楽しいし。
 ほら、てるてるぼうず作ってきたんだよ」
バッジにしたてるてるぼうずを見せて、スレヴィは笑う。
「まったく、アンタ達は、本当に……」
謙信は苦笑し、メシエとエースに視線を送る。
「私はアーダルヴェルト様を信頼している。
 しかし最近は何か思いつめたような表情をされることが……。
 いや、なんでもない」

エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)と、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、
パートナーであるエース達が謙信と会話している間、
周囲の警戒を怠らない。
(エースをほっとけないですからね、お手伝いします。
 そもそも襲撃されないようにすることの方が重要ですからね)
エオリアは、防衛をメインで行動している者達と連絡を取り合いながら、
いざというときはすぐ支援に回れるようにしている。
クマラは、ディテクトエビルで、
害意を持った者が接近してこないか、警戒をする。
(いざとなったら、オイラの魔法やエース達と一緒の支援で、
 戦闘能力の高い人がうまく動けるように援護していきたいナ)
また、クマラは、
いざというときのため、携帯のカメラで敵を録画する準備もしていた。

「ところで、女子トイレの場所はどこですか?
 まさか、男子と一緒のトイレに入らなければいけないなんてことはありませんよね。
 いろいろ問題がありますからね」
 ガートルードはジェイダスに言う。
「はいはーい、私達がご案内しますぅ。
 今日は外部からたくさん女性客も来ますので、
 女子トイレもちゃんと用意されているのですぅ」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)と、
パートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、
ガートルードの肩をおさえる。
「え、ちょっと、何をするんですか」
「はーい、こちらですよー。
 ジェイダス校長に女子トイレに
 連れて行っていただくわけにはいきませんので、
 私達がご案内しますね」
橘 綾音(たちばな・あやね)も、有無を言わさずに、ガートルードの手を引く。
「おい、何をするんじゃ、やめんか、わー!?」
シルヴェスターが抵抗するが、
グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)と、
パートナーのレイラ・リンジー(れいら・りんじー)
アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)によって、
両腕を押さえられる。
「はーい、こっちのお姉さんも、
 一緒にご案内しますねー。
 女の子同士、仲良く一緒にいきましょうー」
グロリアは言う。
「何言っとるんじゃ、乱暴はやめんか、うわあああ」
「パラ実生だからって差別反対ですっ!」
シルヴェスターとガートルードがわめくも、
警備担当のメイベル、綾音、グロリアは、
明るく楽しい感じを装って強制連行する。
「さあ、こちらですぅ。
 薔薇学は広いので、迷子になると困りますからねぇ。
 場所をきちんと把握している私達が案内しますぅ」
「そうです、迷子になったら大変ですからね。
 さあ、行きましょう行きましょう」
「さあ、一緒に参りましょう。
 困ってる人を助けるのは当然のことですからね」
メイベルと綾音とグロリアは言い、
無理やり、ガートルードとシルヴェスターを、
ジェイダスの前から連れ去るのであった。