百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

砂上楼閣 第二部 【前編】

リアクション公開中!

砂上楼閣 第二部 【前編】

リアクション





藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、混乱に乗じて、金髪の剣の花嫁の部屋に接近する。
「くそう、兄者が見張っとけと言うからしかたないが……」
巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)は、
変熊 仮面(へんくま・かめん)の指示で、
可愛いクマさんの被り物をさせられ、文化祭の巨大オブジェをさせられていた。
アドバルーンを手に、18メートルの巨体で、
微動だにせずにぬいぐるみ座りをさせられていたが、
変熊が部屋の中で轟雷閃を放つ。
「来たなイオマンテ!」
「ぐもぉぉぉーっ!!」
瞬間、イオマンテは立ち上がり、窓に手を突っ込んで、
金髪の剣の花嫁と、
変熊、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)を連れ出す。
あまりの非現実的な光景に、周囲から拍手喝采が上がる。
「う、うけとる?
 アトラクションじゃと思われとるのか!?」
イオマンテは、周囲を見回して言う。
「遠い島からはるばると……、ようこそタシガンにおいでやす!」
変熊は優梨子を見下ろす。
「剣の花嫁の自由を力ずくで奪って、シャンバラの自由と平和を謳うとは笑止千万!」
「まあ、さすがにこれは予想外でしたー」
優梨子は目を丸くする。
「真の自由と博愛……それを体現せず何が美か!
 うふふふ〜、私を捕まえてごらんなさ〜い」
変熊を肩に乗せたイオマンテが、巨体を揺らして走り去ろうとする。
「お願いです、目覚めてください……!」
エメの願いに応えて、金髪の剣の花嫁は目を開ける。
蒼い瞳が、エメの姿を映し出す。

そのころ、本物の黒髪の剣の花嫁の部屋では、
イオマンテが窓を破壊した衝撃で、
清泉 北都(いずみ・ほくと)が、側にいた黒髪の剣の花嫁とキスしてしまっていた。
「えっ、えっ!?」
黒髪の剣の花嫁は、茶色い瞳で動揺する北都をみつめる。
「おはようございます……リオン」
「リオン、私の名、ですか?」
「そう、リオン」
北都は、笑みを浮かべる。
「よかったですね。
 やっと目覚めたのですから、
 もう、そんなにくっついている必要はありませんね。
 さあさあ、離れてください」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)は、
北都とは対照的な目の笑っていない笑みで、
 リオンと名付けられた黒髪の剣の花嫁と、北都の間に割り込むのだった。

「しかたありませんねー。
 金髪の方の方はあきらめて、
 黒髪の方にいたしましょうかー」
優梨子は、マネキンになっていた黒崎 天音(くろさき・あまね)を連れ去る。

「女王が威光、パラミタに息衝く者の手に返して貰おう、わしが預かってゆくぞ」
織田 信長(おだ・のぶなが)は、ビロードマントをひるがえす。
(はわわわ、おいたはめー、なのですよ!)
あい じゃわ(あい・じゃわ)は、隠れ身と光学迷彩を使用して、優梨子を追う。
「待て!」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)達が、その後を追う。
早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、
追跡は仲間に任せ、本物の剣の花嫁達の安全が確保されるまで守護しようとする。

ハーリーにまたがった信長の前に、
上杉 菊(うえすぎ・きく)が現れる。
「織田上総介殿ですね。
 お待ち申し上げておりました。
 わたくしは、武田信玄が一子、菊」
「ほう!」
信長は、感嘆の声をあげる。
「上総介殿、貴方様は今再び、この大陸で覇を唱えられるおつもりか。
 ならば……」
「ならば?」
「知れた事。兄、武田勝頼、仁科盛信の仇、討たせて貰います」
菊は、アシッドミストを放つ。

ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、
パートナーの置手紙をにぎりしめて、薔薇学の屋上にいたが、
信長と菊の対峙を目撃する。

「暫しの暇を頂きたく候。
 我、一身を以って生家の仇を討たんとす。
 欲するは怨敵第六天魔王が首級、ただ一つに候」

数日前に、菊の残した置手紙であった。

単身、信長を討ちに行った菊を追い、薔薇学までやってきたローザマリアだが、
さらに、ルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)からも、
天魔衆襲撃の連絡を受けていた。
ローザマリアは、努めて冷静になろうとしながらスナイパーライフルを構える。
(馬鹿な真似は止めて、菊……)

「おい、待てよ!
 てめえ、俺の改造手術のことを知ってるんじゃねえのか!?」
五条 武(ごじょう・たける)は、ジャルディニエを呼び止める。
「ははは!
 生きていましたか。
 あなたを遺跡で人工の神子にするため、神子の血族の血を輸血しましたが……。
 やはり地球人ではダメですね。
 せいぜい、実験を行ったあの遺跡が懐かしく感じられる身体になっただけでしょう」
「俺を、人工の神子にしようとしただと……」
「言ったでしょう。
 ダメだったと。
 地球人は人工神子になれないことが証明されただけでしたよ。
 ただ、私があなたに施したのはその実験だけですよ。
 それ以上、何の興味もわかない実験体でした」
「バカにしやがって……!!」
武は憤る。

「そうだ、思い出したぜ!
 あれは、女王の寝所だったんだ!」
アディーンは言う。
「俺達には、あの遺跡の剣の花嫁には、
 女王の愛用品が封じられてるだけなんだ!
 女王器っつっても、別に特別な力があるわけじゃねえ。
 ただ単に、俺は女王の好きだった羽扇を
 守護してただけなんだよ!」
「なんだと!?」
これには、ジャルディニエも驚く。
ジャルディニエは、大河の羽扇に視線を走らせる。
「この女王器が神子を作り出すのに役立つと考えていたが……。
 嘘をついているわけではないようだな。
ならば、別の手段を実行するまで」

ジャルディニエは、後ろから信長を銃で撃つ。

一同が唖然とする中、ジャルディニエは、逃げ去る。

「ドルルルルルルルルルルドルン!!」
ハーリーは、信長を乗せたまま、今度こそ走り去る。

グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は、
菊の捜索を最優先していたが、
無事発見して、走り寄る。

屋上から降りてきた、ローザマリアが、脇目も振らずに、菊を抱きしめる。
「あんたは私のパートナー。
 代わりなんていやしない。だから、もう何処へも行かせないんだからね」
ローザマリアは、菊に、そっと耳打ちする。