校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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俺様の帰宅 「またパラミタでな」 ロンドンのヒースロー空港まで一緒に来たティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)、志位 大地(しい・だいち)らと別れると、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は家に向かった。 ウィルネストは英国アイルランド生まれのロンドン育ち。魔法使いの家系の父、ロンドンっ子の母を持つ3人兄弟の長男だ。 といっても、両親は現在長期出張中。家にいるのは次男と三男だけのはずだ。 「うぃーす、俺様帰宅ー」 荷物を振り回しながら玄関を入って行くと、中から転がるように出てきたのは三男のサメイ・アーカイヴス。ボブカットにした茶色のストレートの髪が走る勢いに靡いている。 「うわああああウィルが帰ってきたあああ!」 出てきた時から既に半べそ状態で、サメイはウィルネストにすがり付いてきた。 「こらてめー呼び捨てにするな! お兄様と呼べ!」 そんなウィルネストの注意も耳に入らない様子で、サメイは久しぶりの兄弟の再会シーンに酔っている。 「向こうはどんな感じ? エルティス兄さんも心配してたんだよ、ウィルのことだから何かしでかしてないかって」 「心配ってそっちをか。このーっ」 「痛い痛い痛いよー!」 技をかけられたサメイが大げさに喚く。 そんな騒がしさに、ああ家に帰ってきたんだなぁとウィルネストはつくづく思うのだった。 実家で過ごすのは1年ぶり。 けれど、何も変わっていない。 次男のエルティスは相変わらずのバイト魔で、手早く家事を済ませるとさっさとバイトに出かけて行く。 末っ子のサメイの要領の悪さも変わらず、退屈しのぎに遊ぶのにちょうど良い。 「えっちょっと、それ僕のプリンじゃないの?」 今もまた、サメイがウィルネストの食べているプリンに目を留めて叫ぶ。 「あ、そうだったんだ。これ、結構美味いぜ」 「最後の1個、楽しみに取っておいたのにぃーー!」 プリン1個のことで大騒ぎしてくれるから、面白くてたまらない。 「それにその服! 見当たらないと思って捜してたらウィルだったのかー!」 「こら、お兄様と呼べと言ってるだろうが。いいじゃん別に。服なんて減るもんじゃないしさー」 「だからと言って勝手に着ないでよ。それ今日着ようと思ってたんだかねっ。ったくー」 ふくれっ面で椅子を引き、テーブルに肘をつく。不機嫌を表そうとしているのだろうけれど、それも何だかいじりたくなる有様だ。 「悪ぃ悪ぃ、んじゃ詫びに外にメシくいに連れてってやるぜ。いつもの店でも行くかー?」 「ほんと? 行く行く!」 すぐにぱっと顔を上げる。そんなまっすぐな心根に、つい微笑を誘われる。 実家に滞在できる短い日数、お兄様としてめいっぱい弟と遊んでやろう。 そんな風に思うウィルネストなのだった、が。 食事と言いつつデパートにサメイを引っ張って行き、さんざん買い物につき合わせ、サメイがいい加減ぐったりしてきたその後で、やっと行きつけの店に連れてゆく。 「おっしゃー、食うぞ。さっちゃんも食え食え!」 「じゃあ遠慮なく食べよっかな」 自分も食べ、サメイにも思いっきり食べさせて、さすがはお兄様だと満足し、ウィルネストは財布を出した。そして、良い笑顔でサメイに向き直る。 「あ、ごっめーん俺今手持ちがユーロしかないわ、払っといて」 「えええええーっ? 払うの僕?」 「そ、よろしくなっ」 パラミタでは貧乏くじを引きがちなウィルネストも、ロンドンにいるこの期間だけは完全に長男無双を味わうことが出来たのだった。