校長室
地球に帰らせていただきますっ!
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20年ぶりの 昔自分がどんなところに住んでいたのかを見てみたくなって、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)はシュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)に案内を任せ、細い路地裏にある扉にたどり着いた。 ラムズは早速ノブに手をかけたけれど、それは回らない。 「鍵がかかっていますね」 どうしようかと振り向けば、手記は手馴れたように、枯れた鉢植えの下から鍵を取り出していた。アンティーク調の鍵はぴたりと鍵穴におさまり、カチリと音を立てて回る。 きっと自分も昔はああやってこの扉を開けていたのだろうと、ラムズは興味深くそれを見守った。 この家に戻ってくるのは二十年ぶりだ。 ラヴィニア・ウェイトリー(らびにあ・うぇいとりー)がラムズの家に魔道書があるのではないかと言い出して、それを探しに来ることがなかったら、もっと長い時間、この家から離れていたかも知れない。 手記が鍵を開けた扉に手をかけると、ラムズは思いきって開けてみた。 と、そこでラムズたちを出迎えたのは大量の埃と黴臭い古書の山。そして――1匹の猫だった。 締め切られたこの部屋でどうやって生きていたのか……。 猫は埃まみれの床に点々と足跡をつけながらこちらに寄ってくると、甘えたように鳴いてラムズに身体をこすり付けてきた。埃っぽいその身体をラムズは優しく撫でてやる。 「よしよし、いい子ですね……もしかして私が飼っていた猫なのでしょうか」 1日ごとに記憶が白紙に戻るラムズには、どうなのか分からない。手記に……とその姿を目で探してみれば、ラヴィニアと共に古書を漁っている最中だ。 「このへんとか、埋まっていそうなのにな。けほけほ、埃がひどくてワケわかんない」 埃を払っては本を探すラヴィニアに、やはりこの家の埃は何とかしなければと、ラムズは掃除道具を探し始めた。 そうしてラムズが行ってしまうと。 猫はひらりとラヴィニアの前にあったテーブルに載った。 「ちょ、いきなり放置プレイとか。俺兄貴の言いつけ20年近く守ってたってのに、酷くね? しかも相変わらずパーのままとか、兄貴、家出てからも成長しねぇな」 猫が喋り出したことよりも、その内容にラヴィニアは眉をしかめる。 「あ、そこの小娘と化け物、ちょっといい?」 馴れ馴れしく、けれどどこか人を見下げた態度で、猫は2人の返事は待たずに続ける。 「兄貴ってあんなんだからさ、俺が喋れるっての黙っててくんね? パーがそれ知って何やらかすかワカンネしさ。あ、あとさ、兄貴利用したり、泣かせたりしたら本気でぶっ殺すからな」 「そっちこそ、ラムズに何かしたらこっちが殺すからね」 ラヴィニアが言い返すと、猫はけらけらと笑った。 「そこら辺は俺と同じか。ならいいわ。でも俺には触んなよ。触っていいのは兄貴だけっていう……てかちょ、お前触手とか、エロ杉、バロス」 下手なことをしたら喉元掻っ切るぞと凄んでいる猫を、ラヴィニアはうんざりした目で見た。 「うーわー、最っ悪。何この猫。見た目は良いのに、何でこんなに可愛くないんだろ。こんなオマケいらないから、師匠、ラムズの方行こ」 関わってられないとばかりにラヴィニアは手記を引っ張ったが、ラムズの行った方向からはもうもうと白いものが漂ってくる。 「ってラムズ! 窓も開けないでいきなりハタキはっ! ゴッホゴフッ……」 文句も途中で咳に変わる。 「ああ窓。そうでしたね」 忘れてました、とラムズは屈託なく答える。 「あーもうっ、こののーみそぱーぶりんのすっとこどっこい! もういいからボクの指示通りにやって!」 ラヴィニアはたまりかねて、掃除の指揮を取り始めた。 「ラムズは窓開けてハタキかけて! ボクが箒で掃くから、師匠は雑巾がけねっ! クソ猫は邪魔にならないところにでもすっころんでろ! 邪魔したらその毛皮でモップがけしてやるからねっ」 びしっ、びしっ、と指差していきながら分担を決めると、さっさと動き出す。 もうしばらく、目的の魔道書はお預けになりそうだけれど。 里帰りはまず、20年分の大掃除から。