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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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まほろば大奥譚 第四回/全四回(最終回)

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第六章 新たな将軍3

「天子……扶桑……そして、神子の力」
 橘 柚子(たちばな・ゆず)は、引き寄せられるように扶桑へ近づいていった。
 荒れ狂う桜の花びらは、彼女の肌や着物を裂き、いくつもの赤い筋を付けていった。
「天子は、もう一人の私がと、いわはった。それを取り戻すことが、大事なのではないやろか」
 柚子は剣の花嫁木花 開耶(このはな・さくや)と共に、祈りを捧げる。
「天子がもし、二つの魂を持っていて別れ別れになっているとしたら。開耶が天子を宿すことで失われしものを取り戻せるのではあらしませんやろか。結果として、噴花を遂げることもなくなる……?」
 全ては柚子の推測でしかなかったが、開耶は神子として何かを感じているようだった。
 彼女は自らを御霊代として、肉体を捧げる覚悟でいる。
「天子よ、私の中に……記憶を、取り戻しておくれやす」
 開耶は桜木に触れると、彼女の姿はあっという間に花弁で覆われて見えなくなった。
「いけない、開耶さんが!」
 樹月 刀真(きづき・とうま)の守護天使封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)も、扶桑に強く引かれるのを感じている。
 神子としての彼女が、呼ばれているような気がする。
「貞継様が暴走しているのか、天子様がそうなのでしょうか……刀真様?」
 白花は刀真に視線を送ると、彼は黒い剣を振りながら彼女の元へ急ごうとしている。
 白花は刀真がいつでも、側に居てくれることに少し安心したように、心を決めた。
「刀真様、私も封印の神子として、その使命を果たしとうございます」
 彼女は目を閉じ、扶桑に身をゆだねた。
 桜の刃が彼女を切り刻み、花弁とともに鮮血が舞っている。
 刀真が彼女の姿を見て絶叫した。
「……白花!」
 彼は意識を高め、神子に対して波動を放つ。
 白花を助けたい一心か、貞継を救うためか、その全部か。
 ただ、自分の全てをそれにぶつけた。
 光の渦が桜の花を吹き飛ばしながら、扶桑へと注がれていた。


 光と桜の花びらの渦の中で、外側から彼女たちを必死に助けようとしている人々の姿をみた。
「……小次郎……さん?」
 リースは彼がパワードアームで扶桑の木を何度もこじ開けようとしているのを見た。

「柚子か……私は……ここにおる」
 開耶には、目の前で柚子が祈り続けている姿が見える。

「刀真様、そんなお顔を……なさらないで」
 白花は、凄まじい形相で扶桑に剣を切りつけて、白花を助け出そうとしている刀真を認めた。

「そうか……ここは扶桑の『中』か……」
 開耶はおぼろげな意識の中で、天子の声を聞いた。

『貴女方を巻き込むつもりはありませんでした。許してください。
 でもこうしなければ、噴花が失敗した以上、
 扶桑は枯れ、マホロバは死にゆくしかないのです』


「噴花が失敗……?」と、白花。

『力を返して貰う寸前で、鬼城貞継は将軍を……『天鬼神』の力をわが子に譲ったのです』

『しかし、マホロバに再生する力があれば、扶桑は再び噴花の機会を得られるでしょう』

『それまで、貴女方の命をマホロバに分けてください……』



卍卍卍


 樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)は湯桶で身体を洗ってあげている最中に、ずっと泣き止まない白之丞(はくのじょう)をそっと抱き上げた。
「いつも大人しいおりこうさんなのに……どうしたのでしょうね」
白姫は、身体を拭いてやっているときにそれに気付いた。
「これは……」
 赤ん坊の背に、かつて見たことのある貞継の背と同じの、鬼の面妖が浮かび上がっていた。
「貞継様……まさか」


卍卍卍


 地震が止まり、暗雲が去った。
 扶桑の木の周りには雪のように花弁が積もっていた。
 そこから、貞継たちが気を失った状態で発見される。
 しかし、どんなに探しても、リース・バーロット(りーす・ばーろっと)木花 開耶(このはな・さくや)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)の三人が見つからなかった。
 扶桑に取り込まれた巫女たちを救うため、力づくで引っ張り出そうとしたが無駄な努力に終わった。
 扶桑と一体化していたからである。
 そしてもう一人、日数谷現示も姿を消していた。
「あれは、わしの部下が連れ去った。今頃は土の下かもしれんな」
 現示にかわって今回の大将として指揮したという三道 六黒(みどう・むくろ)は、幕府軍に捕らえられた矢先、こう言った。
 「さあ、わしを連れて行くがいい。逃げも隠れもせんぞ」