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リアクション
3.
●第六試合 メインパイロット南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)・サブパイロットオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)VSメインパイロット湯島 茜(ゆしま・あかね)・サブパイロット明けの明星 ルシファー(あけのみょうじょう・るしふぁー)
「よーやく出番かぁ」
「光一郎、気を引き締めていくぞ。作戦は……わかってるな」
「はーい。わかってるって〜」
シパーヒーに搭乗した光一郎とオットーが、そう言い交わす。
相対するのは、茜とルシファーの操る、空京大学のイコン。クェイルだ。
クェイルは、イーグリットアサルトに近い、イーグリットの量産型の一種である。本来ならばアサルトライフルが装備品なのだが、今回は試合のルールに則り、シパーヒーと同じサーベルを装備していた。
「薔薇の学舎の生徒の力、見極めさせてもらうつもりでいくよ」
茜はそう呟き、じっと光一郎を見やる。
このルール、明確な勝利条件は「相手の武器の落とす」ということだ。ならばやはり、集中的に手を狙う他にないだろう。
先ほど、光一郎は準備をしつつ、イコンの両手で、器用にお手玉をしてみせていた。中身は砂袋らしいが。暇つぶしなのかデモンストレーションなのか(実際、観客には受けていた)わからないが、器用な相手なのは確かなようだ。
一方、そう作戦を練る茜の傍らで、ルシファーは足を組み、暇そうにモニターごしに外の様子を眺めていた。ルシファー自身には、イコン操作の能力があるわけではない。茜に「イコンは、ひとりじゃ本領発揮できないんだ」と頼まれたため、仕方なく今回つきあったにすぎないのだ。
ルシファーは、新たなイコンの搭乗に期待をこめた眼差しを向ける聴衆を、ふふんと鼻で笑う。
「見るがいい、これがオレ様の代理の姿よ!」
そう勝ち誇るのはいいが、結局乗っているだけだということには、茜はつっこまないでいてあげた……というより、おそらく聞いていなかった。
『試合、開始!』
茜は、じっと相手の動きを待った。スピードでは、クェイルはどうしても劣る。ならばこちらからガンガン責め立てるのは、得策でないと踏んだのだ。
光一郎も間合いを計っている。暫し、じりじりと緊迫した時間だけが流れた。
「……しゃーねぇなぁ」
じっと機を窺うのは、お世辞にも光一郎は得意でない。
「おらぁ!」
低く空を飛ぶような速さで、シパーヒーがクェイルとの距離を詰めた。
『南臣選手、一気に攻めた!』
「今だ! ……っ!」
茜が待っていたのは、相手が打ち込んでくる、その瞬間だった。相手の右腕が突き出された状態、そこで思い切り手元に一撃を放つ。そして、イメージ通り、茜のサーベルは、シパーヒーの右腕へと轟音をたててヒットした。
だが。
「え!?」
その手には、武器がない。……素早い動きで、光一郎はサーベルを突き出すほんの一瞬前に、武器を左に持ち替えていたのだ。
「秘技、サーベルお手玉」
「なんだそれは!」
ニヤリと呟いた光一郎に、オットーが思わず言う。しかしその間にも、光一郎は左手でもって、サーベルをクェイルの手元と振り下ろした。同時に、傷ついた右手で刀身を掴むと、一気に奪い取りにかかる。
「く……ッ!」
素早く、かつトリッキーな動きに、茜は虚を突かれてしまった。
おそらくは、単純なイコン操作であれば、茜に有利だったろう。この場合、光一郎の意表をついた作戦勝ちといえた。
茜の手から、サーベルが離れる。
決着はついた。
『……勝者、南臣光一郎!』
戦いを終えた両者には、惜しみない拍手が送られたのだった。