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リアクション
●第五試合 メインパイロット瑞江 響(みずえ・ひびき)・サブパイロットアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)VSメインパイロット大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)・サブパイロット讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)
シパーヒーと、イーグリット・アサルトとの対決である。
その名の通り、青い機体は、イーグリットと似通った外見だ。しかし、大きな特徴は、その手に握られた二本のビームサーベルだろう。
なお、事前に「武器を落としたら負けということは、片方だけでもアウトなのか?」という疑問をラドゥにぶつけた泰輔は、意味としては「みっともなければ負け」という至極あっさりした解答を得ている。
「ま、作戦として落とすとかならありっちゅーことやろうけど……」
「それも、趣味ではなかろうよ」
顕仁の言葉に、泰輔は苦笑する。
「その時次第やな。覚悟見せろっちゅーなら、見せたるわ。見せるだけならタダやしな。それに、……伊達に二留もしてないわい」
いつもの軽い口調ながら、いつになく鋭い眼差しを垣間見せた泰輔を、面白げに顕仁は見やった。泰輔がこの試合で活躍し、もしもイエニチェリとなるならば、それはそれでこの先が楽しみだ。ただ、この自由気ままな男を御しきれるものかどうか。
「ほたら、いこか」
泰輔はそう言うと、正面に立つシパーヒーを見据えた。
「イーグリット・アサルトか……」
他校のイコンと戦うのは初めての経験だ。しかし、相手が二刀流だとしても、響は怯むものはなかった。
(装備はサーベルのみ…純粋に技術と駆け引きの勝負になるな)
響はそう思いながら、精神を集中させるため、一度目を閉じ、深く息を吸った。
「響」
そんなパートナーに、アイザックが落ち着いた声をかける。
大丈夫だ。二人で力をあわせれば。
そんな心が、響にも届く。そして響もまた、強く信じていた。
アイザックとともにならば、自分は全力を出せる、と。その上でどんな結果になろうと、後悔はすまい。
『試合開始!』
「おらあああ!!」
声をあげ、イーグリット・アサルトのビームサーベルが、シパーヒーを襲う。
泰輔が右手、顕仁が左手を、それぞれ集中して操る動きは、息があっていながらどこか統一性のないトリッキーさも産んだ。
一方、それを受ける響とアイザックは、その機体の素早さを利用し、サーベルを使いながら攻撃を受け流し、防御する。
『大久保選手、優勢か?』
「アイザック、平気か」
「大丈夫、任せろ」
アイザックに機体の動きを多く任せ、響はイーグリット・アサルトの動きの一つ一つを注視する。二刀流の絶え間ない攻撃。しかしそこにも、なんらかの『流れ』はあるはずだ。それを探し出すために。
この試合のルール上、やはり攻撃は手元に集中する。ビームサーベルと、サーベルが音を立てて弾けあった。
『両者一歩も退かず! 激しい打ち合いが続きます!』
実況がそう告げる。両者は距離を離し、また間合いを詰め、長くその攻防は続いた。そして。
(――今だ!)
たった一撃。響はそこに全てを賭ける心づもりだった。相手の攻撃の合間、その一種のスキに、渾身の力を込めた突きを放つ。
『瑞江選手の激しい突きを……大久保選手、二本のサーベルでがっちり掴んだ!?』
右手で攻撃を受け、左のビームサーベルがその上から響の剣を押さえつける。
「な……ッ!」
「どうなるかわからへんけど、こういうのも、あり得るっちゅーこっちゃ!」
そのまま、イーグリット・アサルトは、半ば無理矢理に、ビームサーベルの出力を最大に引き上げた。おそらくは、通常の限界を超えるほどに。
太陽よりも、さらに激しい青い閃光が、音をたてて飛び散る。それはさながら、雷のように。
びりびりと両者のイコンが震え、互いの装甲にヒビが入る。
『ものすごい光とエネルギーの放出です! ここからは、はっきりと姿が見えません!』
たとえサーベルから手を離し、試合を放棄したとしても、離脱しなければ危険ではないか……そう、誰もが思った瞬間だった。
ぴしり。
最初は微かに、しかし次第に大きく深く、響の手にしたサーベルに亀裂が走る。……最初から泰輔はそれを狙い、幾度もサーベルに徹底的に攻撃をしたのだ。
武器の破壊。それもまた、『武器を無くす』ことには変わらない。
「……どうや?」
ニヤリ、と泰輔が笑った時だった。
「残念ではあるがな」
「なんやねん、顕仁……って、あぁ!」
徐々に光が弱まっていく。限界を超えた最大出力を続けたため、イコンのエネルギーが、ついに切れたのだ。
――結果。シパーヒーのサーベルが砕けるのと、イーグリット・アサルトが起動不能になるのは、ほぼ同時であった。
しかし、そうでなければ、両者のイコンもダメージを受けていたことだろう。黒煙をあげ、立ちつくす二体の姿に、人々は一時声すらもなかった。
「……なかなか、おもしろいな」
試合は、ドローとなった。しかし、ジェイダスは満足げに、彼らを見つめていた。
傷ついた機体を回収し、試合は終了した。
「すまない、響。俺様の力が足りなかった……」
アイザックはそう言うが、響はそうは思わなかった。むしろ、最後まで退かず、響とともにいてくれた。そのことに、感謝するばかりだ。悔いは、なにもない。
「アイザック…有難う」
口にするまでもなく、伝わっているかもしれない。それでも、改めて、言葉として響は彼に伝えたかった。そう、改めて、……彼を、特別に思っているということを。
響は穏やかに微笑み、アイザックの赤い瞳を見つめた。
「俺は…何よりも…お前を、大事に想っている。……だから……これからも、宜しく」
「響……」
その柔らかな表情も、声も。アイザックの胸を締め付ける。苦しいほどに。しかし、それは痛みではなく、不思議なほど甘やかで、幸福に満ちたものだった。
気づけば、アイザックはその頬に、透明な涙を一筋、流していた。
「……俺様を感動させて泣かせるなんて、罪な男だな、響は」
二人きりのコックピットでは、邪魔も入らない。アイザックは最高の微笑みを浮かべ、響の肩を抱き寄せると、そっと唇を寄せた。
そして、響もまた、抗わず目を閉じたのだった。
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