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リアクション
第三章
1.
●第一試合 ナンダ・アーナンダ(なんだ・あーなんだ)vs冴弥 永夜(さえわたり・とおや)
二体のシパーヒーが、教義場として設置された、巨大な白い台の上に立つ。
巻き起こった砂塵が、濃紫の姿をしばしぼんやりとけぶらせていた。
『こちらは、両者共に単独での搭乗となります』
侘助がそう解説をする。
基本的に、イコンは二人乗りであり、単独ではその能力は減少する。それについても、さりげなく解説済みだ。
向かい合ったシパーヒーが、それぞれにやや甲高い振動音を響かせ、観客席を揺らした。
手にはそれぞれ、今回の試合のために支給された、華奢なサーベルが握られている。
まずは深々と、閲覧席に向けてナンダのシパーヒーが一礼をする。
無骨なロボットが、予想外に滑らかかつ優雅な動きを可能とすることに、感嘆の声が漏れた。
それから、ナンダは永夜へと向き直り、再び膝を折り曲げるようにして、一礼をした。
「ボクの名はナンダ・アーナンダ。お手合わせ、お願いする」
「俺は冴弥 永夜。……かかってこい」
永夜が静かにそう答え、サーベルを構えた。
『試合は、相手が武器を手放した時点で終了となります。試合時間は15分です』
競技台の中央に、小姓に日傘を用意させたラドゥが進み出る。そして、手にした黒い薔薇をそっと頭上に捧げた。
「この薔薇が落下した瞬間から、試合開始だ。……無様な姿は晒すな」
ラドゥの白い指先から、黒い薔薇の花が、宙へと投げ放たれた。
『試合開始!』
まず攻撃を仕掛けたのは、永夜だった。一気に距離を縮め、サーベルで相手の手元を狙う。
しかし、ナンダは永夜のシパーヒーの肩に手を置くと、そのままひらりと倒立の要領で身を躍らせ、背後へと回り込む。
「ち……っ!」
「戦うにしても、美しくないと、だよ」
地響きをたてて着地すると、しかしそのまま、一旦ナンダは後ろへと退いた。攻め方の法則を見つけようとしているのだ。
だが、その時間を与える永夜ではなかった。先ほどのように一気に間合いを詰めることはしないまでも、サーベルを突き出し、果敢に攻めかかる。武器をはじき飛ばすことを目的とし、下段からなぎ払うように切り上げる動きに、ナンダは眉根を寄せた。
ガキィ! ……激しい剣戟の音をたて、両者の鍔がギリギリと押し合う。
『両選手、一歩も退きません。ここはどちらか退くか、力で押すか……!?』
「美しさ、か。……俺はそれより、覚悟を見せるだけだ」
永夜が言い放つ。そのまま、彼は咆吼をあげ、一気にサーベルを上空へと跳ね上げた。その力に、ナンダの手からサーベルが離れ、空へと舞い上がる。
「……まずい!」
場外へと飛び出した武器に、ソーマがそう声をあげた。あわや、観客席に落下しかねない。控えていたイコンたちが、そのカバーのために動こうとした時だった。
ナンダのシパーヒーが、空に向かって飛び上がる。
『ナンダ選手、場外へと跳んだ!』
そのまま、身を挺すようにして、再びサーベルを手にすると、ナンダの機体は砂漠の砂へその身を沈めた。
「…………」
ふぅ、と永夜は額に浮かんだ汗を拭う。
一部始終を見ていたラドゥが、勝敗を決した。ソーマはそれを、侘助へと無線で伝える。
『勝敗結果が出ました。ルールに則り、勝者は……【冴弥 永夜】』
歓声と拍手が巻き起こる。しかそれは、敗者であるナンダへも同時に贈られたものであることは、明白だった。
砂まみれになりつつも起き上がり、ナンダは再び、そんな歓声に深々と頭を下げたのだった。
●第二試合 メインパイロットリア・レオニス(りあ・れおにす)・サブパイロットレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)VSメインパイロット安芸宮 和輝(あきみや・かずき)・サブパイロットクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)
『第二試合も、両者シパーヒーに搭乗しての戦いです』
「頑張ります。……お相手、お願いします!」
「落ち着いてまいりましょう、和輝」
やる気満々の和輝に、少しばかり窘めるような口調でクレアが答える。
二人は蒼空学園の所属だが、他校の機体に乗れる機会は滅多にない! という理由でもって、今回の試合に参加している。 このシパーヒーも、そういった経緯により、特別に借り受けたものだ。
「さて、どうなりますか……」
安芸宮 稔(あきみや・みのる)が、じっと観客席から身を乗り出した。
その一方。
「レム、行くぜ」
「ええ。任せてください」
リアとレムテネルはそう言い交わし、はたと和輝を見据えた。こちらは、愛機『ルークス』での参加だ。
(なかなか訓練しているようですね……楽しみです)
イコンの搭乗経験は浅いものの、和輝には武術の心得もある。それをどこまで、この機体で活かせるかだけが不安といえばそうだった。
まずは互いに一礼。そして。
黒薔薇が再び、舞う。
『試合開始!』
武器は再び、互いにサーベルだ。ただし、レムは盾を併用している。
暫し、空気を読みあうような沈黙。間合いを詰めたのは、和輝だった。
競技台から落ちぬよう、楕円を描くように移動しつつ、サーベルを構える。
「くるぞ」
「一度受け止めましょう。カウンターを狙って」
「了解!」
リアはそう答え、集中力を一気に高める。
「いきます!」
和輝が声をあげ、一気にサーベルの切っ先を突き込む。しかし、その動きを読んだように、レムの機体は刃先を避けていく。
『これは一方的展開か? 安芸宮選手の攻撃が続く!』
「やりますね」
さらに首もとを狙い、変形燕返しを仕掛けた和輝のサーベルを、レムの盾が音をたてて阻む。そして、そのまま伸びた手元へと向かって、レムは自らのサーベルを振り下ろそうとした。
「和輝!」
すんでの所で、クレアが叫び、和輝の機体を後方へ退かせる。
『鋭いレオニス選手のカウンター! 安芸宮選手、避けたものの、膝をついています!』
「そうきますか、それでは……」
飛び込むのは得策ではない。そう判断した和輝は、次は足元へと攻撃の矛先を向けた。
膝をついたまま、低い体勢から足を狙う。
それならば、と、リアは一気に飛び上がり、上空から彼の手元を狙った。
「和輝、上ですわ!」
「はい! ……く、っ」
動きが一瞬遅れたのは、判断ミスではない。むしろ、慣れない機体のため、咄嗟の操作ミス、というほうが大きかった。
轟音とともに、マニピュレーターの指の間と、和輝のサーベルの柄を貫いて、レムの剣の切っ先が突き立つ。
――勝敗は、決した。
『勝者、リア・レオニス!』
侘助の声が、高らかに場内に響いた。
「悔しいですが、修行不足ですね」
和輝はそう言いながら、立ち上がる。
互いに一礼を終え、ソーマの指示に従い、競技台から退く間、レムは汗を拭いながら、じっと来賓席に意識を集中させていた。
ウゲンは、見ていただろうか?
得体の知れない少年領主。先日会った時のあの謎めいた言葉と態度は、今もリアの脳内にこびりついて離れることはない。しかし。
(たとえ君が超常の存在でも、俺達にも人間の矜持があるんだ)
ただ黙って、遊戯のコマになるつもりはない。リアは心の中で、そう決意を新たにするのだった。
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