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リアクション
その一方、ヤシュブは観覧席の、やや後方にその席を用意されていた。
先日、マフディー・アスガル・ハサーン(まふでぃー・あすがるはさーん)が入手した情報によれば、狙われているのは彼だ。あまり目立つ場所には座らせられないという理由もあった。
かわりに、彼のまわりには、昨日屋敷で約束を交わしたメンバーの他に、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)、エディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)らも、警備に参加している。
ただ、あえて大仰には見えないよう、注意は払いつつ、だ。傍目には、年頃が近い分、話し相手として接待をしているように見えていただろう。
ヤシュブはやや不安げでもあったが、あいじゃわを昨日と同じように肩に乗せ、見知った顔もあるということで、幾分リラックスしてきたようだった。
「大丈夫? 暑くない?」
エディラントが、ウチワを片手にそう尋ねる。色々用意はしてきたものの、この来賓席にいる限りは問題なさそうだ。
「そないなこと、見たらわかるやろ。……ヤシュブはん。せっかくの機会やし、楽しんでや」
フィルラントがそうツッコミつつも、ヤシュブへの気遣いを見せると、ヤシュブは微笑んで「ありがとう」と二人を交互に見上げた。それから、ややおずおずと。
「ねぇ、……彼も、話せるの?」
ヤシュブの視線の先にいたのは、ブルーズだ。
「ええ。呼びましょうか」
「いいの? 忙しいんじゃないかな……」
翡翠の提案に、そうヤシュブは口ごもるが、桂が彼を呼びに行った。
初めて見るドラゴニュートの見た目に、ヤシュブは目を丸くしている。
「我の名は、ブルーズ・アッシュワースだ。お初にお目にかかる」
「わぁ……。ね、ねぇ、触ってもいい?」
「…………」
ブルーズはやや戸惑っている。元々、子供の相手は得意ではないのだ。しかし、生来の生真面目さでヤシュブへ頷く。無骨でありながら毛並みの良い感触に、ヤシュブは目を輝かせた。
「すごいなぁ。本当に、パラミタには色んな人がいるんだね。それが、こうやって仲良くしてるなんて、夢の国みたいだ」
屈託なくヤシュブは言うと、一同を見回した。
「まもなく式典が始まるようだ」
黎がそう声をかける。
「試合はその後なんだよね。変熊さん、頑張ってほしいな!」
「……まぁ、それは、それなりかと……」
あまり過度な期待はしないほうがいいのではないかなと、密かに思う一同だった。何をするつもりなのやら、とくに黎は頭が痛い。
『……ご列席の皆様方、本日はご足労いただき、まことに感謝いたします。まもなく、式典を執り行わせていただきます。ご着席の上、もう少々、お待ちくださいませ』
本日の実況、解説を担当する久途 侘助(くず・わびすけ)が、静かに告げた。
式典は、薔薇の学舎代表として、ディヤーブの挨拶から始まった。ついで、来賓である、国王代理の大臣の挨拶、そして、最後に立ったのはジェイダスだった。
BGMがいきなり変わるあたりは、完全にジェイダスの趣味にあわせてだろう。
「我々がパラミタに渡り、今日にいたるまで。様々な争いもあった。困難もあった。しかしそれらは、我々を磨く石であったと確信している。……ダイヤモンドは、同じダイヤモンドで傷つき、磨かれてこそ美しく輝くからだ。美しいものこそが、強く、正しい」
一度言葉を切り、そこでジェイダスは生徒達を見回した。そして。
「本日、皆にご観覧いただくイコンもまた、美しく強いものだ。その真価を、それぞれにご判断いただきたい。この力を、希望とできると、俺は確信している」
ジェイダスはそう言い切ると、マントのように羽織った深紅の振り袖の裾を靡かせ、壇上で手を広げる。……その向こうには、整列を終えたイコンたちが、それぞれに砂漠の日差しにきらめき、巨大な姿を現していた。
おお……と、畏怖と感嘆の混じった声が、場内からあがる。それに満足げに、ジェイダスは微笑んだ。
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