リアクション
* * * バッ、と綾乃はベッドから起き上がった。 「また、同じ夢……」 全身を汗で濡らし、脈も速い。 海京決戦以降、彼女は自分が殺される夢を何度となく見続けている。そのせいでろくに眠れず、その精神はかなりすり減っていた。 「ずっとうなされておったぞ」 袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)が心配そうに綾乃の方へと歩み寄る。 「悪い夢でも見ておったのか?」 「いえ、夢の内容は覚えていないので……なんとも言えませんよ」 本当は、はっきりと覚えている。しかしパートナーに心配をかけまいと、自分の中にだけ秘めておく。 「そうか」 どこか腑に落ちない様子の袁紹であったが、深くは追求してこなかった。 「まあとりあえず汗びっしょりじゃから、体を拭いて、汗をかいた分の水分補給。あとは、シャワーでも浴びてすっきりしてくるのがよかろう」 その言葉を受け、綾乃はバスタオルを手に浴場へと向かう。 シャワーを浴びながら、彼女は思考を巡らせた。 (なんで? ああするしかなかったのに。殺さなきゃ私が殺されるのに。私がやらなくてもきっと他の誰かがやったのに) それが戦いに身を投じるということだ。 海京を何の罪のない人達ごと消し去ろうとした、「あいつら」のやり方は決して許されるものではない。対立する別の正義を掲げていようが所詮は大量殺戮者、そいつらを倒すことは何も間違ってはいない。 理性では分かっている。 だが、この手で人を殺しているという事実を心のどこかで割り切れずにいる。それどころか、罪悪感に押し潰されそうになっているのだ。 (どうすればいいの……?) 考えても答えは出ない。 しかし、そうやって思い悩むことこそ、まだ彼女が人として踏み留まっている証拠でもある。 だから、決して同じではない。 彼女が倒した者達はそういったものを持たない者達だったのだから。 綾乃自身がそれに気付き、罪を全て背負ってでも戦う覚悟を決められるか。それが、今の彼女に与えられた試練なのかもしれない。 |
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