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リアクション
??:??〜
・邂逅
「しかし、やはり情報は見つかりませんね」
東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は躍起になって海京を襲撃した者達に関する情報を探していた。
鏖殺寺院。確かに、シャンバラでは敵をそう一括りににして呼んでいる。
だが、それでは相手の実態というのは見えてこない。
(傀儡師様から頂いた力は素晴らしいものでした。彼、もしくは彼女があのくらいで死んだとは私には思えません。あわよくば、もう一度会って知識を得たいものです。もしかしたら、その名の通り、海京を襲撃した彼らの「糸を引いていた」のがあの方かもしれませんから……ね)
一つの可能性としてしか考えてはいないが。
周到な根回しをしたが、海京、空京の情報網はほとんどブロックされている。おそらくPASDや天御柱学院は目星をつけているだろうが、調べられないのならどうしようもない。
ふと、とある都市伝説を思い出す。
世界を裏から操っている組織の存在を。
キーボードをタッチし、検索をかける。
『十人評議会』
と。
(どれもこれも、ただのネタ本の内容以上の価値はありませんね)
さっさと切り捨てる。
そこで、ピンと閃いた。
「あえて彼らデーターベースにハッキングを仕掛けてみればいいんです」
噂の一つに、十人評議会をネタ以上に――本気で調べようとすれば秘密裏に消されるというのがある。
ならば、そうやっておびき出せばいい。
(……賭けですね、これは)
タタン、とキーボードを叩いていく。
すると、ある場所から通信が入った。
『まさか他にも十人評議会を追っている者がいるとはね』
どこからアクセスしているかは分からない。だが、同じように調べているということは、学院関係者かPASDだろう。
ここは仲間を装うに越したことはない。
『それとも、追ってると見せかけたギミックかな?』
『いいえ、違いますよ』
今はどちら側でもない。
『まあ、敵でも味方でもない。でも、評議会を追っている。ということは分かった。忠告しておくよ』
スクリーンに文字が打ち込まれる。
『多分、君、もう捕捉されてる。じゃあね』
コンピューターがウイルスに感染していた。
「わ、私の知識が……!」
吸い出されていく。止めることは出来ない。全部をそこに入れていたわけではないが、それでも失ったものは大きい。
そのときだった。
彼の携帯電話が鳴る。
『はい?』
『初めまして。いやあ、君、すごいね。ウェスト博士と仲良くなれそうだよ』
誰だ?
『いやあ、ちょっとあるプログラマーとハッキングバトルをしばらく前から繰り広げてるんだけど、そんなところに、観客席から飛び込んできた人がいてね。それが君さ。で、別に相手にしてる暇はないんだけど、今君の情報見たらちょっと面白くてね』
元々、非人道的だろうとなんだろうと、知識のためなら悪事に手を染めることさえ厭わなかった。
そんな彼の人柄を買われたらしい。
『今から指定するポイントに行ってくれ。迎えを用意する。ああ、大丈夫。場所は空京の中だから。シャンバラにいる君ならそんな困るところでもないだろ?』
その場所を聞き、メモをとる。
『それじゃーねー』
どこからかけてたのか、逆探知は不可能。相手の声も機械で変えられいた。
(罠かもしれませんね)
雄軒は指定のポイントにやってきた。
護衛として、バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)とドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)がついている。
どこから「迎え」が来ても分かるように、周囲を見回る。
「どう考えても怪しいよなァ、オイ!」
ドゥムカが言う。
「ですが、これはチャンスでもあるのですよ。彼らに近付くために」
だが、一行に誰も現れない。
「さて、時間ですね」
一応、指定通りの時間となった。
周りを見ても人の姿はない。
「ほら、やっぱり――」
――お待たせ致しました。
黒いローブ、いやコートか。とにかく黒に身を包んだ長髪の男が、いつの間にか雄軒と背中合わせで立っていた。
「……何時の間に?」
「いえ、先程からずっとおりましたよ。東園寺 雄軒様」
どうして名前を知っている? 電話の人物から聞いたのか。
「そちらのお二方、武器を下ろして下さい。戦うつもりはございません。もっとも――」
ドゥムカの機晶キャノン、バルトの龍殺しの槍がいつの間にか消失していた。
「既に解除しているので、実は降ろす必要はございませんが」
武器は男の手に握られていた。
そして次の瞬間、そこからも消える。
(この男……一体、何者ですか?)
その正体不明さにも関わらず、一切の威圧感がない。むしろ、存在感が希薄とすら言える。
「私はローゼンクロイツと申します。ただの使いに過ぎません。それでは、ご案内致します」
風景が、文字通り切り替わる。
「私の役目はここまでです。それでは」
ローゼンクロイツの姿がふっ、と消える。
「ここは……」
そこは、研究所のような場所だった。