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The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り

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The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り
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リアクション

4.

 タシガン、イコン基地。……別名、タワーオブデュエル。
 そびえ立つ塔の最上部に、円形のランディングフィールドがあり、決闘場のようにも見えるが故、いつしかそう呼ばれるようになった。
 赤い薔薇に飾られた塔は、周囲を螺旋状の改段が取り囲み、内部にはシパーヒーが収納されている。石造りの外見は一見ひどくクラシックではあるが、内部には最新の技術が使われ、タシガンの重要拠点の一つといえた。
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、そのうちの一台で、作業を続けていた。
 万が一シパーヒーを奪われたとしても、それが無力化されていれば、意味がない。そう考えたからだ。
 一人ではない。兄である佐々木 八雲(ささき・やくも)が、彼の側にいた。
 同じく無力化を計画したスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)アレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)も、この基地のどこかで作業をすすめているはずだ。
 ――弥十郎としては、先んじてシパーヒーを空京に輸送するという案もあった。しかし、それを実行に移すには、あまりにも時間も手段もない。
 手を動かしつつも、弥十郎は考えていた。
 わからないのは、何故ウゲンは、直接、古文書の解読の先にある「何か」に手出しをしないのかということだ。
 推論として考え得るのは、その「何か」は容易に制御できない。または、然るべき時のために黒き迷宮に封印したということだ。
(おやっさんが欲しがってるってことは、たぶん、雷か似たようなエネルギーを持ったものなんだろうけどねぇ)
 エネルギーだとすれば、制御しきれない力は、おそらく恐ろしいものになる。それは、簡単に想像ができた。だからこそ、ウゲンはジェイダスを通じ、裏からそれを手に入れようとしているのだろうか? シパーヒーは、そのために?
 だとしたら、なおさら。渡すわけにはいかないだろう。
「ウゲンは胡散臭いが、ウゲン自身がくるなら奇襲とかはせず正面から格納庫を狙って来るだろう。しかも昼間に堂々と。あ、これは直感じゃない。過去2回会っているからな。ウゲンの自分に対する自信と、彼の美学からだ。」
 八雲が弥十郎の胸の内を読み取り、そう口にする。
「ウゲンが来るならそんな感じだねぇ。ただ、配下はどう動くかなぁ」
 吸血鬼の部下たちや、息のかかった人間がいることは、とうにわかっている。しかもその思惑は実際のところ様々で、ウゲン一人を押さえ込めば話が済むというわけにはいかないだろう。
「ウゲン次第だな。彼自身がこなくても、チェスの駒のように手下をつかうだろうし」
「それなら、やっぱりイコンに乗せなければ良いよね。基地の入り口を固めつつ、空からの進入などの絡め手を警戒しないとねぇ」
 この基地は、巨大なタワーである分、空中から乗り込むことは充分に可能だ。地上、空、どちらからも警戒は必要に感じられた。
 ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)はすでに警戒計画をたてているようだが、そちらにも後で顔をだすつもりだ。それから。
 整備ドッグから顔を出すと、凛々しい表情で見回りを続けるイエニチェリ、藍澤 黎(あいざわ・れい)の姿も目に入った。
 ……自分たちだけではない。薔薇の学舎生徒たちは、それぞれに、自分のやれることを懸命に続けている。そのことを、不意に強く、弥十郎は感じた。


 白い学生服の黎が、足を止め、一体のシパーヒーの前で立ち止まった。
 スレヴィの赤い髪と、アレフティナの白い耳が揺れているのが見えたからだ。
「遅くまで、精がでるな」
「ああ、藍澤か」
 スレヴィがひょいと顔をだす。
「メンデルスゾーンは?」
「コントロールルームだ」
「ふぅん」
 スレヴィはそう答え、基地上部に位置するコントロールルームに目をやった。先ほど、基地の警戒について意見を交わしてきてはいるが、後でもう一度寄るつもりだ。
 マフムードのことも、気にはなる。彼の抱える恨みとやらには一切興味も関心もないが、ウゲンを悔しがらせることができるなら協力したいのだが。彼はまだ、ここへは一度も姿を見せていなかった。
 スレヴィの目的は、シパーヒーの武器の解除がメインだ。もっとも、防衛にうって出るとすでに聞いている機体からは、武器解除はできない。ほとんどが、今現在明確な所有者がいない、あるいは出撃予定のないシパーヒーに限られた。
「本当は、この前の御前試合の時に変熊がやったみたいに、丸腰にできれば理想なんだけどな」
「確かに、能力は大幅に削られるであろうな」
 スレヴィの言葉に、黎は頷いた。
「ま、なにより、奪おうって気も削がれるだろうし」
 ……実際それと戦ったスレヴィの言うことだ。これ以上説得力があるものはない。黎も、その時のことを思い出し、若干眉根を寄せた。
「けど、やっぱりダメなのか? 爆破ってのは」
 この案は、ルドルフにもあまりいい顔はされなかった。スレヴィとしては、制圧されるくらいなら、この基地そのものを吹っ飛ばしてしまえばいいと思っていたのだ。
「それは最後の手段にしてくれ。……万が一、爆破装置を悪用されても困るであろう」
「……まぁ、そうか」
 スレヴィが頷き、黎に軽く手を振った。
「わかったよ。作業が終わったら、俺も見回りに混ざるから」
「よろしく頼む」
 黎が立ち去ってから、スレヴィは顔をあげ、こっそりとアレフティナを呼んだ。
「おい。見取り図は頭にはいってるよな?」
「はい、覚えてます」
 アレフティナが、ぴくぴくと長い耳を動かし、頷く。
「じゃ、見回りついでに、爆破工作してまわるか」
「あれ? でも……」
 先ほど黎の言葉に頷いたように思えたのだが、スレヴィは悪びれず「そうかとは言ったけど、じゃあやめるとは言ってない」と答える。
「奪われるのが一番困るんだから、当然だろ」
 困るというよりは、スレヴィとしては、ウゲンがせいぜい悔しがればいい、というのが本音ではあったが。アレフティナには、納得がいったらしい。
「そうですね。資金提供して下さった中東の皆さんには申し訳ありませんが、周りの人に迷惑をかけるような使われ方はされたくないですし」
「ま、あくまで最終手段だけどな」
「はい! スレヴィさん!」
 張り切った声で答えると、ぴょんとその場でアレフティナが飛び跳ねた。


(問題はないようだな……)
 黎は、密かにため息をついた。
 見回りは、明日も続ける予定だ。しかしそれは、どちらかといえば、薔薇学生に対しての警戒も含んでいた。
 複雑なところはあるが、シパーヒーに搭乗し、そのまま持ち去られる可能性はゼロとは決して言えない状況だ。身内や手助けに訪れた人に対しても、警戒は怠るわけにいかない。
 それがむしろ、意味のない警戒として空振りに終わることを、黎は祈らずにはいられなかった。
「黎。そっちはどないやった?」
「こちらは問題なしですよ〜」
 同じく見回りをしていたフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)あい じゃわ(あい・じゃわ)が、黎のもとに戻ってくる。
「こちらも大丈夫だ。……ウゲン殿は、明日こちらに来ると連絡がはいっている。警戒は続けてくれ」
「勿論や」
 フィルラントがそう答え、軽く胸をはった。
「じゃわもがんばるですよ! んー、しぱぴー? 違うシバーピー?」
「シパーヒーや」
 混乱するじゃわに、フィルラントが突っ込む。
「それなのです! しぱぴーに乗り込もうとする敵さんがきたら、よくよく狙ってコックピットに近づかないようにずばばーんと狙い打つのです!
 じゃわはぺいんぺいんと飛び跳ねて、やる気まんまんだ。しかし、黎はそんな彼を抱き上げ、頭を撫でながら言った。
「その前に食い止めることも、我々の責務であろう。心してかからねばな」
「はいです!」
 黎の手の感触に、嬉しそうにじゃわは目を細める。すると、そこへ。
「あー、よかったよかった、人おったわー」
「……大久保殿?」
 なにやら段ボール箱を抱えた大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が、にこにこと近づいてくる。中身はあまり重くはなさそうだが、一体なにを持ってきたのか。
「なんやねん、それ」
 フィルラントが尋ねると、泰輔は彼らの前に段ボールを置き、蓋を開けた。……中には、花飾りと、紙テープで鎖状に編まれた飾りがめいっぱいつまっている。幼稚園のお遊戯会か、というくらいだ。思わず面食らい、黎は泰輔の顔をまじまじと見つめてしまった。
「明日、お客さんが来んねやろ? それやったらひとつ、用意はせんとあかんなぁ思て。これ、イコンにくっつけんの、手伝うてくれへん?」
「用意って、これがかぁ?」
「でも、可愛いです〜」
 フィルラントは呆れるが、じゃわはそれなりに楽しそうだ。黎は微かに頭痛を覚えつつ、転入生に問いかけた。
「しかし、これは薔薇の学舎としては……」
「ええやん。これは、僕らの『良心の鎖』ちゅーわけや。……これが切られたなら、まぁ、しゃあないわなぁ」
 泰輔の提案に、暫し黎は悩む。しかし、フィルラントは「ええな」とすぐに同意を示した。
「フィルラ?」
「一見アホみたいやけどな。今後もあるし、ここでウゲン卿が薔薇学を襲ってきたゆう、確たる事実は残しておきたいわ。先に切ったんはどっちか。わかりやすいやろ?」
「ま、そういうこっちゃ」
 泰輔が頷く。
「……わかった。それならば、協力はしよう。しかし」
「ん? なんや?」
「飾る花は、我の薔薇を使うといい。その紙製では、あんまりであろう」
 黎からの提案に、泰輔は「そらええな!」と満足げに笑ってみせた。