百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り

リアクション公開中!

The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り
The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り The Sacrifice of Roses  第一回 薔薇の誇り

リアクション

 教導団駐留所。
 市街地からは若干離れた場所に建てられたものだ。
 広いグラウンドにはイコンが数台並び、天幕の下では教導団の団員が出撃準備に余念がない。
 その、応接用に作られた部屋に、リア・レオニス(りあ・れおにす)レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)は通されていた。
 リア本人は、この後は北部の探索部隊に加わる予定だ。しかしその前に、教導団にも協力を挨拶しなければならないと思っていた。
「お待たせ! ごめんね」
「おはよう」
 挨拶をして現れたのは、橘 カオル(たちばな・かおる)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
「ルドルフに挨拶に行こうと思ってたんだけど、来てくれて良かったわ」
「いや、こんな時だからな。イエニチェリとして、協力を頼むぜ」
 リアはそう言うと、ルカルカに向かって手を差し出す。その手を、ルカルカはしっかりと握った。
「任せておいて! カオルさん、私達は薔薇学のお手伝い。情報も全部あげてね」
「もちろんだ」
 カオルは頷き、自身もリアと握手を交わした。
「俺はイコン防衛には加われないから、すまないけどな」
「大丈夫。他校だし、そりゃもう堂々と撃墜できる♪微力を尽すわ」
 ルカルカはそう言うと、にっこりと笑った。
「ありがとう」
 その笑顔に、リアも自然と表情があかるくなった。
 ルカルカは、イエニチェリに「従う」つもりはないが、全力で「手伝う」心づもりだ。その気持ちに、裏表は無い。それが、伝わったからだ。
「じゃあ、俺は行くから」
「気をつけろよ」
 カオルの言葉に、リアは力強く頷いた。

 イコン基地について、気にならないといったら嘘になる。
 だが、仲間のことを信頼し、そして協力者を信じる。
 そう、リアは決意していたのだった。



 一方、薔薇学の生徒でありながら、先遣隊として出発した生徒もいた。
 解析を待ってからでは、後手にまわる危険性があると考えたからだ。
 第一、いつもいつもウゲンがなにかをやって、それに慌ててこちらが対応するというばかりにも、うんざりしているというのが本音だった。
「こっちは大丈夫そうだぜ」
 エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)が、一足先に周辺を確認し、アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)に声をかけた。アルフは地図を片手に、岩肌を滑り降りた。
 なにも、適当に出てきたわけではない。地質学的に、洞窟のありそうな場所、また、タシガンの古代に関しての知識もあわせ、在る程度の推測はたててきている。
「奥は……深そうだ」
 谷底にぽっかりと、竪穴が暗い口を開いている。入り口は狭められているが、アルフが手持ちのマグライトで照らしても、底までは届かないだけの深さはある。
「降りてみるか?」
 エールヴァントが、装備からロープを取り出した。
「いや……」
 アルフは慎重に岩を調べている。これがどんな作用によって出来たものか、また、地層的にいつ頃から存在するものなのか、精査する必要があるからだ。いくらしらみつぶしにあたるつもりとはいえ、つい最近出来たものだとしたら、意味がない。
「…………?」
 そのとき、微かな音を感じ、アルフが顔をあげた。大気が震え、空を切る音は、自然のものとは思えなかった。
(ゴーストイコンか?)
 二人は無言のまま、咄嗟に岩陰に身を隠した。相手が誰であれ、警戒するに越したことはない。
 二頭の巨大な白い天馬と、異形の黒い生き物。霧の中、巨大な影を落とし、上空を飛び去っていく。
「ワイバーンと、ペガサス?」
 アルフは眉間にしわを寄せた。一体なぜ、そんなイコンがここにいるのか。
 ……答えは一つしかないだろう。
「横からかっさらおうって魂胆だろうな、どうせ」
 エールヴァントは呟き、携帯を耳にあてた。
 そのうち、薔薇の学舎の団体も来るはずだ。不審なイコンがいると注意することには、やぶさかではない。
 しかし、どうやらこの付近は、携帯は圏外のようだ。エールヴァントが舌打ちする。
「早いうちに見つけないとな」
 彼らが立ち去るのを待ち、二人は再び立ち上がると、探索を続けることにした。