リアクション
一回戦 ○第七試合 柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)(蒼空学園) 対 テルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)(シャンバラ教導団) 「ストレス発散には体を動かすのが一番。私、戦闘は専門外なんですけどね」 テルミがにこにこしながら言った。 「うん、同感だな」 氷藍も思わず同意した。どうやら対戦相手は真面目で、落ち着いた人物のようである。 ――と思ったのだが、試合が始まるや、見る見るテルミの顔つきが凶悪になっていき、 「死ねやあっ!!」 ナイフサイズの木刀を、氷藍の腹部に突き付ける。あまりの変貌ぶりに驚きながらも、氷藍は【神楽舞】でふわりと躱し、番えた矢を放った。 「クソがあっ!!」 胸に当たった矢を払い、続けて飛んできたそれを、テルミは叩き落とした。 プラチナムに敗北を宣言されても、 「クソが! こっからが本番だ!」 とナイフを大きく構えたテルミだったが、「って試合でしたねコレ……まいりましたぁ〜ガクッ」 唐突に、ころりと変わる態度に、氷藍は目を白黒させた。 テルミが【セルフモニタリング】を使っていたのは、ここだけの話である。 ○第八試合 カガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)(イルミンスール魔法学校) 対 九十九 天地(つくも・あまつち)(葦原明倫館) パートナーのレイカ・スオウが無理をして町に出たことを気にしつつ、カガミは試合に参加していた。 「いくぜ!」 開始の合図と同時に、天地の薙刀がカガミの脛を狙う。それをいなし、カガミは木刀で天地の足首を払った。天地はふわり、と宙へ避けた。 「ここだ!」 一気に勝負をつけるべく、カガミは落ちてくる天地に狙いを定める。しかし天地は、空中で姿勢を保ったまま、横薙ぎに振るった。カガミの側頭部に強い衝撃が走る。 「――!?」 ぐらりと視界が揺れた。薄れゆく意識の中、レイカの顔が思い浮かぶ。町へ出ていてよかった。格好悪いところを見せずに済んだな――。 ○第九試合 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)(百合園女学院) 対 猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)(蒼空学園) 選手控え室でカタルを見かけた勇平は、びっくりした。 「お、カタルじゃないか。へえ、お前も参加するんだな。俺もパートナー共々参加するんで、当たったらよろしく頼むぜ〜」 カタルは、血の気のない顔で小さく微笑んだ。 「じゃあ、正々堂々、いかせてもらうぜ!!」 勇平の宣言と、開始の合図が同時だった。しかし勇平もイリスも、見合ったまま動かない。 「ファイッ!」 プラチナムが、戦うよう、両手をクロスして指示する。 勇平が木剣をふっと上げた。 「いくぜ、紅の烈閃撃!!」 「させないわ!」 イリスが懐に飛び込み、勇平の胸を突いた。よろめいた勇平は、それでも踏みとどまり、木剣でイリスの足を狙う。イリスもまた、細身の木剣を勇平の腿目掛けて振り下ろした。 二人の木剣が割れ、切っ先がくるくると宙で舞って落ちた。プラチナムは無傷のイリスに勝利を宣言した。 「く……、まだ、まだ未熟……だったか……」 胸を突かれた痛みで辛うじて声を絞り出し、勇平はがっくり膝を突いた。 ○第十試合 エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)(天御柱学院) 対 扶桑の木付近の橋の精 一条(ふそうのきふきんのはしのせい・いちじょう)(葦原明倫館) 「いつの日かバンチョーになるべく修行あるのみ………これは、この試合、闘いは、そのための試練の一つだっ!」 一条は高らかに宣言した。といっても小さいので、声はあまり遠くまで届かない。 「宜しくお願いします」 対するエリスは、礼儀正しくお辞儀をする。 「うおりゃっ!」 一条はエリスの脛目掛けて、拳を繰り出した。エリスはそれを盾で払い、一条の胸目掛けてやや軽めの木剣で突く。だが今度は一条がそれを避け、カウンターをエリスの頭部に食らわせた。エリスの視界がぐらりと揺れる。 しかし、エリスも負けてはいない。崩れる体勢のまま、木剣を突き出した。渾身の一撃が、一条を吹っ飛ばす。 地面にもんどりうった一条は、めげずに立ち上がった。 「鳳凰の拳もとい! 俺流必殺・応答不要拳!」 が、既に決着がついており、プラチナムに後ろから羽交い絞めにされて終わった。 ○第十一試合 カレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)(イルミンスール魔法学校) 対 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)(シャンバラ教導団) 一回戦も半分が終わり、観客の応援はヒートアップする一方だ。 カレンは会場に出るや、くらくら眩暈がしてきた。 「うぅ、人前で試合とか無理に決まってんじゃねぇか恥ずかしい……」 と呟いたが、目の前の人間がビキニというアレな格好で、こいつは恥ずかしくないのかと呆気に取られたおかげで自身の恥ずかしさを一瞬忘れた。 ともかく早く終わらせようと、カレンはセレンの頭部目掛けて回し蹴りを仕掛けた。しかしセレンの銃が、カレンの足を撃つ。 「アイタタタ!」 カレンは片足でぴょんぴょん跳ねた。その隙にセレンは間合いを詰め、更に引き金を引く。カレンは慌てて【神楽舞】で避けたが、その拍子に手がセレンの頬に当たった。 「こッの!!」 二人の顔が、キスするほどに近くなる。セレンの銃口がカレンの腹部に当たり、カレンは咄嗟に【絶対領域】を発動した。 同時の攻撃に二人はそれぞれ吹っ飛ばされた。プラチナムが確認したが、どちらも立てずに、両者、二回戦進出となった。 * * * 「まったく、情けないですね!」 「ゴメン……」 妹に叱られ、セルマは小さくなった。 「いいでしょう! 私が仇を討ってさしあげます!」 会場へ向かうリンゼイの背を見送りながら、今のは慰めか、それとも単に勝負をしたいだけなのか、と考えるセルマだった。 * * * ○第十二試合 リンゼイ・アリス(葦原明倫館) 対 エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー) 御前試合については、前々から話を聞いて気になっていた。だが、一年前は参加することが出来なかった。今、ようやくその機会を得て、リンゼイは張り切っていた。 自分たちの実力を知るためというのもあるが、リンゼイの場合、勝負事への関心も大きい。セルマが負けた以上、仇を取る、という名目も出来た。 相手のエメリヤンは、無口で人のいい若者のようだ。荒事に向いているとは思えない。――もっともそれは、リンゼイにも言えることだったが。 リンゼイの中段の突きを、エメリヤンはあっさりと躱した。 エメリヤンが大山羊に姿を変えるのを見て、リンゼイは彼を侮っていたことを瞬時に悟った。咄嗟に守りを固めるが、突進してきたエメリヤンに吹っ飛ばされてしまう。 リンゼイの体が空を舞う。 「リン!!」 観客席からセルマが叫んだ。エメリヤンは、自分が攻撃したにも関わらず、地面に落ちたリンゼイの傍でおろおろとした。 意識がなくとも尚、リンゼイ・アリスは竹刀を手放さなかった。 * * * 「お前も参加する気か!?」 大会の前日、真田 大助(さなだ・たいすけ)の参加申込書を見て、氷藍は目を丸くした。 「す、すみません……この間、あんな失態を犯してしまって……心身共に未熟な僕が参加するのもおこがましいのですが……」 目に見えて落ち込む大助に、氷藍は慌ててそんなことはない、と言った。 「確かに迷いを振り切るには良い機会かもしれん……だが、無茶はするんじゃないぞ」 「はい!」 * * * ○第十三試合 真田 大助(蒼空学園) 対 エクス・ゼロ(えくす・ぜろ)(シャンバラ教導団) 「お相手お願いいたします!」 大助は右手に握った木製のクナイを、エクスの胸目掛けて振り下ろした。エクスはそれを、木剣で受ける。 素早く離れた二人は間合いを取り、じりじりと相手の隙を窺った。 大助が地面を蹴り、エクスの後ろへ回った。そのまま、両手のクナイを交互に素早く突き出す。 が、エクスはそれを見越していたかのように、大助の足元に木剣を放り投げた。大助の両足は木剣に絡まり、転んだ。 「対象ノ敗北ヲ確認」 エクスは無感動に報告した。 ○第十四試合 九十九 刃夜(つくも・じんや)(葦原明倫館) 対 龍心機 ドラゴランダー(蒼空学園) 「ガオォォォォォン!!!!」 ドラゴランダーを見上げて、刃夜は言った。 「……これ、反則じゃないの?」 「問題ありません」 プラチナムは動じない。 審判がそう言うのだから、仕方がない。 ドラゴランダーが咆えながら、後ろを向いた。尻尾がぶおんっ、と音を立て、刃夜の腿を襲う。 刃夜はそれを避け、木製の大剣でドラゴランダーのおそらく腹部であろう部分を打ち付けた。ドラゴランダーが叫ぶ。何を言っているかは分からないが、多分、「痛い!」というような意味だろう。 刃夜はすかさず、大剣をぐるりと回し、【レジェンドストライク】を放った。 「さて……この一撃はどうかな?」 ドラゴランダーは、しばらくの間放心したように空を見上げていたが、やがて地響きを立ててそこに倒れた。 「……駄目すぎる……」 役には立たない【妖精のチアリング】と【激励】で応援していたラブ・リトルは、ぼそりと呟いた。 |
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