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リアクション
【0】幕上がる
空京大学病院。
しとしとと地面を灰色に濡らす雨の中、一台の救急車が病院の前に停まった。
重傷を負ったミャオ老師の担架が、たくさんの看護士に付き添われて手術室に向かう。
黒楼館館主ジャブラ・ポーの奥義『龍気砲』、気を熱線に転じ、龍の吐息の如く放つ技である。
その直撃を受けてしまった老師の全身は真っ黒に焼け焦げてしまった。
「病院に着いたわ! しっかりして、老師!」
付き添う教導団のルカルカ・ルー(るかるか・るー)は何度も意識不明の老師に声を掛け続けた。
空京大学病院の誇る天才外科医切り裂きニコルソン先生は眉間に深く皺を寄せた。
「今日は立て続けに警察関係者のクランケが運ばれてくるが、このクランケは随分と酷い」
シリアルキラーを思わせる不気味な先生だが、こう見えて、医療の第一線で活躍するその道のスペシャリストである。
「俺が執刀する」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は言った。
国軍技術科に属する彼だが、軍属の医師でもあり、聖アトラーテ病院の非常勤医師の肩書きも持つ。
しかしニコルソン先生は毅然とした態度で、濡れたコートを脱ぎ捨て腕まくりするダリルを止めた。
「ここに運ばれて来た以上、主治医は私だ。例え医師だとしても踏み込まないで頂きたい」
「しかし!」
先生は目を糸のように細めて、濡れた髪を振り乱すダリルを見つめ、そして得心した様子で頷いた。
「……今日は怪我人が多く人手も足りない。君さえ良ければ手を貸してくれ給え」
「……恩に着る」
ルカルカは不安そうにダリルの背中に声をかけた。
「ダリル……」
「そんな顔をするな、ルカ。老師は必ず俺が助ける。必ずな」
乱れたルカルカの髪をくしゃりと撫で、先生とダリルは看護士を連れ、手術室に入った。
暗く静まり返った廊下を手術中の赤いランプだけが煌々と照らしていた。
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