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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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●天秤世界:ルピナスの拠点外部

「なぁなぁ。キミ達はちょっと前、地上に自分達の国を作るために進軍したんだよな?」
 出撃前、最後の確認を行なっていたパイモンとロノウェの所に、魔王 ベリアル(まおう・べりある)がやって来てそう切り出す。
「……ええ、仰る通りですが」
 穏やかな表情の裏に警戒心を潜ませつつ(隣で声を耳にしたロノウェにはパイモンの心情が察せられた)パイモンが答えれば、ベリアルはそんなパイモンの様子など露知らずとばかりに続ける。
「強いられた地下世界での生活から解放される為、魔族の自由の為、理由は色々有ったと思うけど、それってさ……なんか、ルピナスって奴の言ってる事と似てるよな?
 キミ達なら、彼女の気持ちを理解してやる事が出来るんじゃない?」
「…………理解するのは、難しい事ではありませんね。だからといって情けをかけるような真似をするつもりはありませんが」
 パイモンがそう言うと、ベリアルはあはは、と笑って答える。
「僕はただ言いたかっただけだよ。別にキミに何かしてほしいって思って言ったわけじゃない。
 さあ、戦いだ。僕のとっておきを見せてあげるからねっ」
 既にパイモンへの興味を失くした様子で、ベリアルが綾瀬たちの下へ戻るべく背を向け、歩き去る。
「……パイモン様」
 ロノウェの気遣うような声に、パイモンが柔らかく笑って答える。
「大丈夫です。私達のするべき事に、変わりはありません。
 ……最終的にどんな結果になるかは、それを決めるのは、彼らなのですから」
 彼ら――契約者はどのような判断を下すのだろうか。
 パイモンはその事を頭の隅に置きつつ、ベリアルとは反対方向にロノウェと共に歩き去る。


 ルピナスの拠点を前方に見据えて、3隻の『機動要塞』が布陣していた。1隻は『Arcem』、残る2隻は『ICN0004502#ウィスタリア}』と『伊勢』である。
「各機、所定の位置に布陣完了。これより艦砲射撃を行う。
 『ウィスタリア』、『伊勢』、『Arcem』の射撃を合図とする、よろしく頼む」
 夏侯 淵(かこう・えん)が両機に指示を送り、艦載用荷電粒子砲の発射体制に移行する。
「あえて拠点を狙わないのは、我等に相応しき戦場で……という所か?」
「我らの目的はデュプリケーターの殲滅にあらず、制圧よ。初撃で主に巨大生物の注意を引き、こちらに攻撃の手を向けさせる。そうすれば中に突入する者が行動しやすくなる。
 ……尤も、ただの挨拶であり、景気付けという意味も無いわけではないがな。ある程度は華がなければ面白くあるまい」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の言葉に淵がそう口にした所で、発射体制が整う。

「目標、前方の敵性拠点周囲! 荷電粒子砲、撃てぇ!」

 『Arcem』の荷電粒子砲が拠点周囲を貫き、それに続いて『ウィスタリア』、『伊勢』も艦砲射撃を見舞う。
「前方の拠点より、巨大生物多数出現。……やはりこちらを狙って出てきたな。
 続けて出撃フェーズに移行。当艦は引き続き突入支援を継続する」
 ダリルが言い、『Arcem』の解析コンピュータをフル稼働させ、巨大生物の特性、及び攻撃方法の解析に入る。
「まず優先的に潰したいのは、遠距離攻撃と機動力を生み出す3対の羽だ。
 状況を優先しつつ、これの無力化を意識すれば被害を減らせるだろう」
 既に得られた情報から、巨大生物の脅威と優先すべき攻撃対象を導き出し、新たな情報として加える。
「それじゃ……私は行くわね。みんなが後から来れるように、頑張るから」
 ルカルカとカルキノスが司令部を出、出撃用ハッチへと向かう。ハッチではエリザベートとミーミル、パイモンとロノウェが既に出撃準備を完了していた。
「パイモン、ロノウェ、何か乗り物はいる?」
「いや、最初だけ乗せてもらえれば、後はいい。
 お前たちが好きに飛び回っているのを、都度利用させてもらう」
「了解、分かったわ。
 ……パイモン、その喋り方の方がカッコいいわよ」
「……茶化すな。行くぞ、ロノウェ。お前はこの世界では初陣だ、無理はするな」
「はい、パイモン様」
 若干の照れ臭さを、パイモンがロノウェに同じように向けることで打ち消す。ロノウェもまた、パイモンにそのように話しかけられることを好ましく思いつつ、出撃準備を完了させる。

「貴方達と共に同じ目的に向かって戦える。
 私は嬉しい。嬉しいわ!」


 ――そして、出撃の合図と共に契約者が、大空へ解き放たれる。


「『Arcem』、『伊勢』からの出撃を確認しました。当艦も追随し、突入部隊の支援に当たります」
 『ウィスタリア』のメインオペレーター、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が無数の情報を映し出すモニターと向き合い、コンソールを操作する。『ウィスタリア』の主な目的は、豊富なエネルギーを有することによるイコンのエネルギーや弾薬補給、損傷を受けた際の修理である。『Arcem』は作戦の全体指揮、『伊勢』は3隻の中では最も前方に位置し、巨大生物に積極的な攻撃を見舞う方針になっていた。
『巨大生物への攻撃は、他2隻に任せた方が良さそうだな。その分のエネルギーは片っ端からイコンの補給と修理に回そう』
 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)の方針に、アルマも異論ありません、と頷く。『ウィスタリア』の武装は『Arcem』『伊勢』に比べ、一段階劣る。加えて移動力も他2隻の半分程度なため、万が一の際に離脱が遅れる可能性を考えると、あまり前には出られない。それよりは『Arcem』の1.5倍近くになるエネルギーを生かした方針を取った方が効率的である。
「補給要請、受理しました。当艦指揮範囲内進入を確認、以後はこちらの操作でもって補給を行います」
 その一つが、艦内への着艦なしにエネルギー補給を行う一連の流れである。ちょうど戦闘機の空中給油に似たシステムで、『ウィスタリア』指揮範囲内に入ったイコンを操作下に置き、エネルギーの補給を行う。これによりイコンは威力が高い兵器の連発使用が可能になる。長期的に見れば戦闘継続時間を狭めてしまう戦術だが、今回は契約者側が攻めに回っている。短時間、大火力での制圧においては最も有効な戦術であろう。
『補給はアルマがやってくれる。イコンはエネルギーを気にせず戦え、武装の効果で致命的な損傷を負わない。
 それはそれでいい話なんだが、そうなると俺達整備班はしばらく暇になりそうだな』
 通信の向こうで、桂輔が欠伸をする。イコンが大火力の砲戦に徹し、白兵戦を行う事態が頻発しなければ(イコンの損傷が最も多く発生する状況の一つは、敵と白兵戦を行った時である。これは敵との距離が近い中では被弾の確率が増え、そして一発の被弾が二発、三発の被弾に直結するからである)、少なくとも整備中は整備班の仕事が無く、エネルギーの補給のみで済む。
「しっかりしてください桂輔、戦闘中ですよ。……敵は学習する力を持っていると聞きます、砲撃もその内効果が薄まり、そしてこちらのエネルギーも無限というわけではありません。
 ……修理要請、受理しました。こちらの案内に従ってください」
 アルマが桂輔をたしなめた所で、早速イコンからの修理要請が舞い込んでくる。
『おっしゃ、仕事だな! 俺に修理できるレベルの損傷なら、すぐに直してやるぜ!』
 そう言い、通信が切れる。調子いいように見えるものの、イコンの修理の腕は確かであり、その点はアルマも疑っていない。
『修理完了! アルマ、いつでも出せるぜ』
 普段より早い時間で、桂輔が修理の完了を報告する。楽観的思考をするつもりはないが、このままの状況が続けばこちらの勝利でしょう、とアルマは思い至る。


「目標、前方のデュプリケーター!! 全砲門、一斉射撃!!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の指示が飛び、『伊勢』に搭載された艦載砲が火を噴く。『伊勢』は元々3隻の機動要塞の中では最も前衛に布陣していることもあり、砲弾は一瞬とも呼べる時間でルピナスの拠点付近に炸裂し、展開していた巨大生物を火の海に沈める。
「弾着良好……む、敵影未だ多数確認。直撃を受けたものも少なくないだろうに、タフな奴らだ」
 『伊勢』の砲術長として火器管制を担当していた鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が、砲撃の効果を確認して苦々しい、と思われるであろう声を発する。『Arcem』『ウィスタリア』と連携して行なってきた艦砲射撃による支援は、巨大生物の出足を止めることは出来ても、巨大生物そのものの数を減らすには攻撃範囲が広すぎ、集中打を与えられない。それでも高威力の荷電粒子砲や艦載砲をその身に浴びて、未だ立ち続けている巨大生物は二十二号の評するように、タフであろう。
「前方の敵影より高エネルギー反応! ジャマー・カウンター・バリア展開、対衝撃防御!!」
 おそらく敵の反撃であろう高エネルギー反応を確認したコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が『伊勢』に搭載されているバリアを展開する。直後、高エネルギーの奔流が『伊勢』を直撃するが、事前にバリアを展開していたこともあって損害は皆無であった。
「……計器、その他各部位に損傷なし。エネルギー及び弾薬、貯蔵量の半分を消費。
 そろそろ敵も、こちらの動きに対応してきたわね。今の内にイコン部隊を出撃させた方がいいと思うわ」
「そうでありますな。生駒殿に出撃の指示を。
 『伊勢』はこのまま、イコン部隊の支援を継続するであります!」
「了解。イコン部隊の出撃シークエンスを開始するわ。
 ……なんだかいつの間にか、この仕事が板についちゃったわね」
 所属するイコンへ出撃の指示を送りつつ、コルセアが今の状況を見て言葉を漏らす。決して戸惑いが無いわけではないが、デュプリケーターをここで叩かなければ大変なことになる、という吹雪の言葉はコルセアにとっても納得できるものであったし、戦うと決めたからには仕事はきちっとこなしたい。そんな思いがコルセアを『伊勢』の名オペレーター足らしめていた。
「我はイコン部隊の修理・補給補佐に向かうとしよう」
「ええ、お願い。その間の火器管制はこっちでやっておくわ。
 イコン部隊が出撃している間は、そうそう砲撃を行うわけにもいかないし」
 二十二号が格納庫へ向かうのを、コルセアが見送り、火器管制の指揮を引き継ぐ。

 コルセアからの出撃指示を受け、笠置 生駒(かさぎ・いこま)シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の搭乗するイコン、ジェファルコン特務仕様が甲板を飛び立つ。
「敵がハッキリしているっていうのはいいよね」
『そうね、とりあえず目の前のデカブツをぶっ叩けばいいんでしょ? 簡単な仕事ね。
 サクッと終わらせて酒盛りするわよ』
「……ほどほどにしてくださいね」
 シーニーの酒癖の悪さに生駒が密かにため息をついて、それでも戦闘を短期に終わらせるべく、生駒は『ジェファルコン』の装備であるイコン用のレールガンをメインウェポンに、巨大生物と砲撃戦を繰り広げる。並のイコンでは発射することさえ難儀するこの武器を、『ジェファルコン』と生駒はまるで自分の手足のように扱い、巨大生物を圧倒する。
「まずは一体……!」
 直前の砲撃で背中の羽と胴体の一部を射抜き、機動力を大幅に喪失した巨大生物へ、生駒が頭部の像のようなものに狙いをつけ、そして『ジェファルコン』がレールガンを発射する。高速で飛び荒ぶ弾は寸分の狂い無く像のようなものを撃ち貫き、それがトドメとなった巨大生物がその姿を粘性の液体へと変化させる。
『生駒! 一部の巨大生物が『伊勢』へ向かっているわ!』
 息つく間も無く、シーニーが巨大生物の動向を告げてくる。巨大生物の視界にたまたま入ったのか、機動要塞を狙うのが得策と判断したのかは分からないが、複数の巨大生物が『伊勢』へ向けて進軍を開始していた。対してこちらは『ジェファルコン』が最も近い位置におり、他の機体は別の巨大生物と交戦している。
「多少の無茶はやむを得ないか……!」
 決心した生駒が『ジェファルコン』のリミッターを解除し、全身が淡い光に包まれた『ジェファルコン』はレールガンの代わりに刀身の長いビームサーベルを持つと、巨大生物の群れの先頭へと突貫する。
「これで、敵の注意をこちらへ引き付ける!」
 瞬く間に巨大生物の懐へ飛び込んだ『ジェファルコン』の振るったビームサーベルが、巨大生物の脚部を薙ぎ払う。悲鳴のような声を上げて地面に倒れ伏す巨大生物、他の巨大生物は狙いを『ジェファルコン』に変更し、背中の羽を展開させての立体攻撃、像のようなものから発射される高出力ビーム、伸縮する脚による攻撃など多彩な攻撃で『ジェファルコン』を撃破せんとする。
『回避パターンはワタシの方でやっとくから、生駒は攻撃に専念しなさい!』
「頼みます!」
 シーニーの導き出した推奨ルートを生駒が『ジェファルコン』に辿らせ、『ジェファルコン』は巨大生物の攻撃を尽くかわしながら高出力のビームサーベルを叩きつける――。