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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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 開通した入口は地図上では【B】の【4b】と割り振られ、契約者はそこから内部へと進入する。
(あいかわらずイルミンスールは怪しいわね。でも、世界樹が大変になると聞いたら放ってはおけないし。
 この迷宮の奥には、どんな秘密が隠されているのかしらね)
 そんな事を考えつつ、彩羽は使役する機晶蜂に前方の状況を偵察させる。今自分たちの居る場所が地図で言うところの【B3b】、そして蜂が捉えた映像が彩羽の端末に送られる、それは【B2b】の映像であった。
「お、雑魚がわんさか居るじゃないか。
 暇してたから力は有り余ってるよ! ボクに任せてもらおうじゃないか」
 どうやら先のフロアはデュプリケーターの溜まり場になっているのを見たアルハズラット著 『アル・アジフ』(あるはずらっとちょ・あるあじふ)が、不敵な笑みを浮かべて先行する。彩羽たちもそれに続き、【B2b】へ進入した所で現れたデュプリケーターと交戦する。不意を突かれる形になったデュプリケーターは、互いに連携を取る間もなく圧倒されていく。
「アハハハハハハ!
 怯えろっ! 消し飛べっ! 雑魚が邪魔するなよっ!」

 アルの火力、そして彩羽たちの突っ込み過ぎない適度な距離からの連携の取れた攻撃に、デュプリケーターは翻弄される。これまでのデュプリケーターには見られなかった、他のデュプリケーターと合流する以外での後退行動も見られるほどであった。


(……ん、どっかでドンパチやらかしてるな。
 多分契約者とデュプリケーターのだな、小娘は……違うな、ここには居ない)
 同じ頃、地図で言うところの【B1b】付近を進んでいた白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は、近くで聞こえる戦闘音に耳を傾け、状況を把握する。
「――――!」
 すると、複数の足音が聞こえ、やがて数名のデュプリケーターがやって来て、竜造の姿を見て慌てて止まる。
「おっと、何だテメェら、まさか逃げてきたってのか? テメェらも『逃げる』ってのを覚えたのか」
 笑みを浮かべ、いつでも剣を抜ける構えを取りつつ、竜造は敵の出方を伺う。見たところ装備は剣に槍、弓、そして杖のような物であり、どうやら前衛と後衛に分かれて戦う術を会得したようだった。
(ホントに成長してやがるな。……さぁ、どうする? 逃げ腰のテメェらよ)
 竜造の目の前で、顔を見合わせたデュプリケーターは頷き合い、それぞれ武器を構えて戦闘へ移行する。相手が一人だから、連携すれば倒せる――そう考えたのかどうかは分からないが、それは彼らにとって致命的な判断ミスであった。
「取ってつけたような連携で、俺を倒せるとでも思ったかぁ!? 甘ぇ、甘ぇんだよ!!」
 向かってきた剣使いと槍使いに対し、竜造はあえて彼らを無視して後方に突っ込み、矢を射かけた弓使いを一刀のもとに斬り捨てる。返す刃で杖使いも黙らせれば、残すは剣使いと槍使いのみ。
「おらよ! これでも受け取りやがれ!」
 すると竜造は、元々弓使いと杖使いが居た位置から、まるで弓使いがやろうとしていたことを再現するように、得物を振りかぶって投げつける。突然の事に剣使いと槍使いは慌てるが、辛うじてそれは回避する。
「遅ぇ!!」
 しかしその時には既に、剣を投げた事で身軽になった竜造が目前まで迫っていた。武器を振るうより速く竜造の拳がデュプリケーターを捉え、腹を突き破らん衝撃を浴びたデュプリケーターは壁に身体を打ち付けて沈黙する。
「殺す前に一つ聞いてやる。小娘はここにいるか?」
 剣を回収した竜造が、切っ先をデュプリケーターへ向けながら尋ねる。竜造の言葉にデュプリケーターは反応を返さない。言葉を聞き取れなかったか、あるいは言葉を話す機能を持ち合わせていないかは判断がつかなかった。その時には既に竜造の剣がデュプリケーターの首をはね、液状になったそれへ剣を突き入れ、止めを刺していたから。
「……ふん」
 剣を拭い、仕舞った竜造が現在地を確認する。そこは地図で言うところの【B1a】であり、視線の先に道が見え、そこから漂う気配はこのフロアとは異なるものであった。
(まずはここには、小娘はいやがらねぇか。……案外律儀に拠点で契約者を待ってやがるのか?
 ……まぁ、それならそれで、この迷宮の最深部とやらにたどり着いてやるか。小娘が拠点の位置晒してまで、ここの探索に人手割かせたくなかったんだからな。何かあるのは間違いねぇだろ)
 別のフロアへの道を進みながら、竜造はその『何か』について思案する。
(そうだな……最深部にあるのは別世界への入口……世界樹につながる場所ってところか? ここを世界樹が運営している可能性がある以上どこかで繋がる場所があるはずで、それが最深部だ。
 調査して滅んだ種族は、おそらく『ルール違反』した事で罰をくらったってところか)
 世界樹はこの世界を、他の世界で処理しきれない問題を抱えた対象を送り、処理するための手段として用いているという推測は、竜造の耳にも入っていた。ならばこの世界と他の世界は何かしらの形で繋がっていると考えるのが自然で、それが最深部にあるのだ、という推測はもっともらしい。
(しかし、もし本当だとしたら俺も使ってみてぇもんだ。
 別世界の強者と戦えるかもしれねえってのはなかなか面白そうだからなぁ)
 そうなりゃちったぁ楽しめるか、そんな事を考えつつ、竜造は地図で言うところの【D】フロアへ進入する。


●『龍の眼』

 元々は龍族の観測拠点だった『龍の眼』は、今は鉄族の最前線拠点となっている。そこでは鉄族の精鋭が、来たるべき龍族との決戦に備えて準備を行なっていた。

「ね、ねえお姉ちゃん、なんかすっごいこの辺殺気立ってるよ?
 そのえぇと、なんだっけ? なんとかっていう迷宮の入口を探す前に、私たちやられちゃったりしないかな?」
 その『龍の眼』の近くを、川村 詩亜(かわむら・しあ)川村 玲亜(かわむら・れあ)は調査に赴いていた。目的は『深峰の迷宮』の推測に上がっていない(ルピナスの拠点は入口なのではないかという推測が上がっている)もう一つの入口探索である。
「……そうね。天秤世界ってどんなとこかなって気になって来たのは良いのだけれど……考えたら私、この世界のことをよく知らないわ」
「私だって知らないよ? ……うぅ、帰ろうよお姉ちゃん、私怖いよぅ」
 詩亜の手をぎゅっ、と握って離れない玲亜に、詩亜も一旦引き上げようかと思いかけたその時、演習中なのか数機の鉄族の戦闘機が上空を通り過ぎたかと思うと、地上の岩のようなものへ一斉に射撃を見舞う。
「きゃあぁぁ!!」
 生じる爆音と震動に、玲亜が詩亜にしがみつく。玲亜が抱きついてくれたおかげで縮こまらずに済んだことに詩亜が感謝していると、吹き飛んだ岩のあった場所から奇妙な感覚を覚える。
(……何? 気になる……)
 玲亜の手を引いて、詩亜がその場所へ向かうと、人が二、三人は通れそうな縦穴が覗いていた。
「……穴だね、お姉ちゃん」
「そうね、穴ね」
 呟いた二人が、互いに顔を見合わせる。
「……まさか……行くの、この先に?」
「……見つけちゃったのだもの。この先がどこに繋がっているか確かめる必要があると思うわ」
「うぅ、そうだけど……大丈夫かなぁ……」
 恐る恐る穴の奥を見つめる玲亜。この先が安全であるという保証は、どこにもない。
「今、連絡をしておいたわ。この子に地下の地図も読み込ませた。
 行きましょう、玲亜。危なくなったら……すぐに逃げれば大丈夫よ、きっと」
「うわーん、なんでそんな積極的なの、詩亜ー!」
 それでも玲亜は詩亜の手を、詩亜は玲亜の手を握って、発見した穴の奥へと入っていく。箒に乗ってゆっくり、ゆっくり下がっていった先、とってももふもふな端末をもふもふして地図を確認すると、【D3a】と書かれた付近から横に外れた所に、自分たちの現在地を示すマーカーが点滅していた。
「つまり……この先は【D3a】という所に繋がっているわけね」
「はぇー……ここが地下なんだ……なんだろう、自然に出来たようにも見えるし、誰かが作ったようにも見えるね」
 玲亜がキョロキョロと、辺りを見回している。道は自然の産物にも、人工の産物にも見える不思議な感覚を漂わせていた。

『――――』

「きゃっ! じ、地震!?」
 突如二人を襲った揺れに、二人は互いの身を抱き合って耐え忍ぶ。やがて揺れは収まり、二人はほっと安堵の息を吐く。
「何かあったのかしら……あら?」
「どうしたの、お姉ちゃん?」
 玲亜が覗き込む、詩亜の操作する端末が、通信が行えないというエラーを出していた。
「通信が出来ない……ってことは、どういうこと?」
「多分……私たちが最初に来た場所で何か問題が起きているのではないかしら。確かそこが中継場所になっているという話だから」
「ええっ!? た、大変だよそれ。どうしよう」
「……そうね。一旦地上に出ましょう」
 詩亜の提案に玲亜が頷き、二人は来た道を戻って地上へ上がる。

 そして、二人が見たものは――。