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リアクション
「ったく……大河を心配させといて、さも来るのが当然って顔しちゃってさ」
アカシャ・アカシュを駆り、“大河”と『疾風族』の部下と“紫電”を追ってきたグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が、契約者のイコンと空戦を繰り広げる“紫電”を見て呆れた声を上げる。
「ま、自棄になって暴れるでもなし、膝を抱えてうずくまっているでもなし、と。
……尤も、そんなことしてたら殴ってでも元の道に引きずり戻してやるわ」
呟き、とりあえずこの場を観戦することに決めたグラルダ。脳裏に、ここに来るまでの事が思い出される――。
「はわぁ、しーくんを連れ帰らないと。総攻撃までに戻らなかったらよーちゃんが怒っちゃうよ」
“灼陽”への報告を終えた“大河”が、廊下を早足で歩きながら自分の『機体』がある場所へと向かう。
「大河」
と、通路の向こうからやって来たグラルダに声をかけられる。
「あっ、グラルダちゃん。しーくんが大変なんだよー」
「ああ、話には聞いたわ。隊でもその話で持ちきりになってた」
「はぁあ、やっぱりそうだよね〜。
早く連れ帰ってこないと。それじゃグラルダちゃん、また後でね――」
「待って。……アタシ達も一緒に行くわ」
グラルダの意外な言葉に、“大河”もそしてパートナーであるシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)もグラルダを見る。
「アイツのしたことは、隊を率いる隊長としては軽率な行動だわ。大河や他の連中を心配させたことも含めて、ね」
そう口にするグラルダの表情には、言葉ほどのきつさは感じられなかった。“紫電”の行動に理解を示しているようにも見えた。
「でも、もしアタシが組織のトップだったとして、アイツを罰するか、って言われたら多分、しないと思う。
大河も、アイツの事をあんまり叱らないでやって」
「グラルダちゃん……」
グラルダの言葉を受けて、“大河”はもともと殆ど無かった“紫電”への怒りがフッ、と消えていくのを感じる。
多分、グラルダも“紫電”の意図を理解している、そう“大河”は思った。
「アイツは力を持ってる。隊を率いるだけあるわね、それは素直に認める。
それに、ただ力に任せるだけじゃない。使い方も、向ける相手も、ちゃんと理解してる。
……だからね。スッキリしないのよ」
“大河”の憶測を裏付ける言葉を口にして、グラルダが微笑みかける。それは普段のキツイ印象を与える顔とは違って、歳相応の笑顔であった。
「灼陽サマには、アタシ達が焚きつけたって謝りにいくからさ。実際間違った事言ってないし。
好きにさせてあげたいの、今は。全く、らしくないっての」
“大河”に背を向け、“灼陽”の所へ向かうグラルダの背中を見送って、“大河”はふふふ、と笑う。自分の他にも“紫電”のことを理解してくれる人が居るというのは、こんなにも嬉しいことなのかと思っていた。
「獣じみた闘争本能を剥き出しにしながら、容易に振るうことを矜持が決して許しはしない。
似過ぎていると、思いませんか」
突如横から声をかけられて、“大河”は慌てて表情を改める。尤も、シィシャはずっとそこに居たのだが。
「うーん、私はグラルダちゃんの事をちょっとしか見てないから、確実なことは言えないけど……。
似てる、と言われればそうかも。なんとなくだけど、二人ともぶきっちょさんだなって。私も器用かって言われると自信ないけど、しーくんとグラルダちゃんを見てるとそう思う」
「……そうですか」
“大河”の評価を聞き、表情を変えずシィシャが口を開く。
「……引き合ったのは偶然か、必然か。
いずれにせよ、あの娘がこれほど入れ込むのには、紫電という存在が大きく関わっています。
そして無論……貴女にも」
「私も? そうかなー。しーくんはほら、あんな感じだし目立つけど、私はそうでもないと思うけどなー。
あ、でも、私がきっかけでグラルダちゃんがいい方向に変わっているって話なら、うん、それは嬉しいな」
温かい笑みを浮かべる“大河”を、やはり変わらずの無表情で見つめるシィシャ。……しかしその内心には、ほんの僅かの変化が生まれていた。
「目には見えない何かを信じるというのも……悪いものではないのかもしれません」
「?」
「……いえ、こちらの話です、お気になさらず。
グラルダが戻って来たようですね」
シィシャの言葉に“大河”が振り向けば、確かに“灼陽”の居る場所から離れる方向に歩いてくる人影を見つける。
「話はしてきたわ。それじゃ、行きましょ」
グラルダの言葉に“大河”、シィシャが同意して、それぞれ自分の『機体』に搭乗し“灼陽”を後にする――。
その時のことを思い出しながら、グラルダが“紫電”の戦いぶりを観察する。
「……アタシはもう、信じるべきものを見つけたわよ。
だから紫電、アンタも、さっさと答えを出しなさい。
不抜けたツラのアンタに勝ったって、これっぽっちも嬉しくないわ!」
“紫電”に呼びかけるように言ったグラルダの脳裏に、今度は“灼陽”との会話の内容が思い出される。
(……灼陽サマはアタシに怒ったりしなかった。ただアタシに、『もし契約者と戦うことがあったら、どうするか』とだけ聞いてきた)
それについては、回答が既に出ている。『戦うことがあれば、戦う』だ。それは誰が相手であっても関係ない。
(紫電……もしかしたら灼陽サマは、龍族に総攻撃を仕掛けるかもしれないわ。
悩んでる時間はあんまりないかもしれないわね)
それまでに答えが出るのだろうか――こればかりは“紫電”次第であった。