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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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「ねえ博季くん、“紫電”さんはどうして一人で、私たちの所に来たのかな」
 “紫電”との手合わせを前にして、『エールライン』を改修した『エールライン・ルミエール(略称:LU)』に搭乗するリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)が、空中でドッグファイトを繰り広げる“紫電”の戦いぶりを見ながら、同じく搭乗する博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)に話しかける。
「詳しい理由までは分かりませんが……おそらく、僕らの力を意識しているんだと思います。まったく無視していい存在なら、わざわざ向こうから来たりしませんから」
「その気持ちは分かる気がするんだな」
 博季の言葉を、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)も支持する。それはこれまでの契約者の言葉や行動が、少なからず“紫電”や鉄族に影響を与えていることに他ならない。
「そっか……良かった。私たちのやって来たことは無駄じゃなかったんだね」
 安堵の表情を浮かべるリンネに博季も微笑みかけ、けれどこれから戦いを控えている事を思い出して表情を引き締める。
「リンネさん、ここからが頑張りどころですよ。
 僕らの力を脅威だと感じてくれれば、ある程度は交渉や駆け引きが楽になるはずです。他との戦いの最中に僕らに攻められたら……とか、僕らが敵に加勢したら……とか、そういう不安要素を排除するために、外交や駆け引きをするようになるはずだから」
 その為には、今この瞬間は、戦わなければいけない。博季は戦うことが好きではないし、妻であるリンネに戦わせることはもっと好きではないが、この手合わせの結果次第ではもしかしたら、戦いを一時的にでも止められる可能性があるかもしれないと考えていた。
「……だから、一緒に頑張ろう? 大丈夫、リンネさんの傍にはいつだって、僕が居るから」
「博季くん……うん、ありがとう。一緒に頑張ろう。
 あ、もちろんモップスもね!」
「はいはい、ボクはいつも通りやるだけなんだな」
 三人が操縦桿代わりの水晶に触れれば、彼らの『エールライン・LU』はそれに応え、起動する。
「エールライン・ルミエールの初陣だね。よーし、リンネちゃん、いっくよー!」
 リンネが意識すれば、『エールライン・LU』の背中に羽のようなものが生え、それを羽ばたかせて大空へと舞い上がる。『エールライン』の時は全体的に武骨な外装だったのが、『ルミエール』に改装を受けた『エールライン・LU』はスリムになっていた。
『おっ、やっとそれらしい機体が出てきたじゃねぇか。マジの空中戦を期待してるぜぇ!』
 “紫電”の意気揚々とした声が響き、加速したかと思うと旋回し、二丁のビーム砲で攻撃を浴びせてくる。
「僕が回避を担当します! リンネさんは攻撃に専念を!」
 博季が敵の攻撃パターンをイメージし、最適な回避ルートを想像して『エールライン・LU』に伝える。『エールライン・LU』はそのイメージに応え機体を所定の位置に移動させれば、元居た場所をエネルギー弾が通り過ぎる。
(自分ではなかなかこの行動を取れなくとも、イメージは出来る!
 そしてこの機体なら、僕とリンネさんのイメージに応えてくれる!)
 初搭乗でありながら、既に博季はこの機体に乗ることに一定の自信を得ていた。
「博季くん凄い! よーし、私だって負けないもん!」
 リンネが攻撃をイメージすれば、『エールライン』の主な武装だった『ファイア・イクス・アロー』が喚び出される。しかも今度のは単発ではなく連発であった。一発辺りの威力こそ落ちているが、二発をある範囲に渡って放る事で命中率を高めている。
『うおっ! アブねぇアブねぇ、やってくれるじゃねぇか!』
 “紫電”がギリギリの所で攻撃をかわし、賛辞とも取れる言葉を放つ――。


「なぁ大河、俺と模擬戦をやらないか?」
「えっ? 私と?」
 紫電と契約者の手合わせを観戦していた大河が、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)に手合わせの話を振られて驚きの表情を見せる。
「いや、今後もお前さんの護衛機として動こうと思うから、お互いに戦い方を把握してた方が良いだろうと思ってな」
「あっ、そうなんだ。えへへ……そう言ってくれるのは嬉しいな。
 でも私、模擬戦用の装備してきてないよ? こんなところであなたの機体を壊したくないな」
「おっと、それは普通に戦ったら勝てるっつう意味でいいのか?」
「ち、違うよ、そうじゃなくて、ほら、私狙い下手だから、当てようと思っても当たらなくて、当てるつもりないのに当たったりしちゃうからって意味で」
 あたふた、とする大河の普通の女の子らしさに、恭也は微笑ましい気持ちになる。
「ははっ、冗談だ。
 なに、俺のことは気にするな。ここで事故ってたら実戦でもお前の護衛は務まらない。
 ここでなるべく手の内を知っておくことで、実戦での共闘が可能になる。……どうだ、受けてくれるか」
「うん、そういうことなら、いいよー。じゃあ、準備するねっ」
 ぱたぱた、と自分の機体へ向かう大河を見て、恭也も{ICN0005093#アサルトヴィクセン}の下へ向かう。

「アサルトヴィクセン、起動。一部の武装を模擬戦仕様に変更。
 あの大河という機体……爆撃機型みたいだが、イコンの応龍と同じコンセプトか?」
 柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)の問いに、恭也はこれをそれから知りに行くのさ、と答える。
『私も準備出来たよー。
 じゃあ、この前は見せる機会なかった人型で行くね』
 大河の通信に、人型? と疑問を口にした矢先、前方で大河が戦闘機から人型に変形する。両手には重機関銃、両肩には大口径ビーム砲、背中には大出力スラスターを備えた大河が、飛行するアサルトヴィクセンへ弾の雨を降らせる。“紫電”は人型の時は推力が足りず高度が落ちてしまうが、“大河”はその場に留まることが出来た。ただ移動することがほぼ出来ないようで、今もその場からあまり動いていない。
「接近する敵は圧倒的火力で撃ち落とし、誰も近づけさせない。その代わり自身の機動力をほぼ犠牲にする、か」
「爆撃機型よりも攻撃的だな。だが動かない分、超遠距離からの狙撃、もしくは接近戦には無力に等しい。長所と短所がハッキリしている分、作戦が立てやすそうか」
 向けられる弾を回避しつつ、恭也は今後の共闘についてを考察する。攻撃の際は最大限の効率を引き出すため、攻めこまれた時は最小限の被害で切り抜けられるようにするために――。


「うぅむ、戦闘機型と人型とは、ますます大河とやら、バロウズに似ておるの」
『そうだな。で、我らはどうするのだ?
 まだまだ分からぬ事は多い、情報を得るためにも一戦交えるも悪くはないと思うが』
 バロウズのコクピット内で上空の手合わせを見守る夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)に、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が通信を送ってくる。同じく搭乗するホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)も、甚五郎の言葉を待つ。
「いや、戦わなければならないのならまだしも、あの大河とやらは話の通じる相手と見える。上空の模擬戦が終わったら、話をしてみようと思う」
『そうですね〜、それがいいと思います。
 龍族も鉄族も、戦ったりしないで楽しくやれるならそれが一番なんですけどねぇ』
『ワタシとしては、彼らに自爆能力があるのかどうか、あるとしたらどの程度なのかを知りたいと思いましたが……甚五郎の意見も尤もですね。支持します』
『……いや、そんなものは金輪際知らんでいい。
 我々は戦闘せず、話を持ちかけるという案でよいな?』
 羽純が確認し、他のものが頷いた直後、上空の模擬戦も終わったようで、二機の機体が地上へ降りてくる。

「聞きたい事と言うのは、鉄族の世界における、支配階級……と言うか、生物のピラミッドの事だ」
 模擬戦を終え、汗を顔に滲ませた大河が話を聞いてくれるというので、甚五郎は聞きたかったことを尋ねる。甚五郎としては、その『頂点に位置するもの』、そして鉄族の崇めるモノなどを知ることが出来れば、何かの手掛かりにならないかと考えていた。
「ふぇ? う、うーん、難しいこと聞くねー」
 大河の反応に、羽純が「だろうな」と言いたげな顔をする。大河はそれでもうーんうーん、と考えて、言葉を口にする。
「私たちの世界で、たぶん支配者みたいな位置にいたのは人間だよ。人間そのものは非力だけど、彼らの作るものは優れていて、個体数も多かった。……なんか凄いもの作りすぎて、自分たちで作った者ですごい被害を出したことも何度かあるみたいだけどね。
 実は私たち鉄族も、むかしむかしの人間が作ったんじゃないかって言われてるかな。確信がある訳じゃなくて、私達の世界に私達に関係するものが見つからないから、って理由なんだけどね。あれ、なんか違うこと話してないかな?」
 戸惑う大河に、甚五郎はいや、構わないと答え、先を促す。
「ありがとー。
 私達はたぶん、あなたの言うピラミッドの下の方にいたよ。……なんで一番下じゃないかって、私達が知らないもっと下の何かが居たかもしれないから。上も同じで、人間よりもっと上の何かが居るのかもしれないけど、それは私達には分からない。よーちゃん……灼陽様に聞いても、答えてくれるかは分からない、かな」
 こんな回答でごめんなさい、と大河がぺこり、と頭を下げる。