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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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 槍を構えるケレヌス、横で細剣を抜いて佇むヴァランティを前に、大吾とアリカが進み出る。
(戦うことしか出来ないのか、なんて思わない。寧ろ逆だ。
 理解しようとしているからこその決闘だ。なら、俺達も全力で応える!)
 決意を胸に、大吾が一歩進み出、ケレヌスたちへ言葉を放つ。
「俺は守りたい。誰も傷ついて欲しくないんだ。
 龍族も鉄族も生きている。だから、そのどちらも見捨てられないんだ。
 だから、この戦いを止めたい! これが俺個人の想いだ!」
 大吾の言葉を受け止めたケレヌスが、無言で闘気を高め、いつでも飛び出せる姿勢を取る。大吾も全力をぶつけるべく口を閉ざし、銃の安全装置を解除し引き金に指をかける。

「……ふっ!!」

 先に動いたのはケレヌス。槍と銃という性能的不利を覆すべく、驚異的な速度で距離を詰める。
(流石に早いな!)
 相手の速度に舌を巻きつつ、大吾も応戦する。なるべく直線での移動をさせないように弾をばらまきつつ、ケレヌスの気を自分だけに引き付ける。
(アリカ、負けるなよ! 戦いだけじゃなく、意思の上でもな!)
 大吾の激励を受けたアリカが、駆けるヴァランティに合わせて動く。
(細剣使いだけあって、動きは素早いね。でも、ボクだってスピードなら負けないよ!
 絆は繋がる。世界、種族、そんな壁も越えて。……だから、諦めない! この想い、刀に込めて打ち込むんだ!)
 絶対負けない意思を胸に抱き、アリカが軌道を変えた直後にヴァランティの懐へ潜り込む。そのまま鞘に納めた刀の柄を握ると、居合の一閃を見舞う。
「ッ!!」
 ヴァランティが身体を捻って避け、即座に反撃へ移行する。持ち手側から滑り込んでの鋭い一撃は、アリカの傍を通り過ぎる。ヴァランティが外したのではなく、アリカが研ぎ澄ませた感覚で避けたのだ。
(チャンスは一瞬……その一瞬を見逃さない!)
 何度か交錯を繰り返し、バックステップで距離を空けた次の動作に、アリカは勝負をかける。これまでと同じように飛び込むと見せかけ、刀を抜く前にスッ、と姿を消す。
「!?」
 ヴァランティの顔に一瞬、動揺が浮かぶ。攻撃対象を見失った細剣が空しく宙を裂く、直後アリカが姿を現し、ヴァランティの脇腹を狙って刀を抜く。
「!!」
 刀身から伝わる、確かな手応え。当たった――アリカが決まったと思いかけ、しかしヴァランティはまだ細剣を取り落としてないことに気付いた時には、利き腕を狙った一撃を受け刀を落としてしまう。
「見事な一撃だったわ。そこに来る、と予め思っていなければ、私が剣を落としていたでしょうね」
 一撃を受けた箇所に手を当てつつ、ヴァランティがアリカの健闘をたたえ、細剣を収めて手を差し出す――。

「!!」
 撒かれる弾が途切れる、その瞬間を狙ってケレヌスが地を蹴り、大吾に肉薄する。
「おぉぉぉぉ!!」
 対して大吾は避けようとせず、盾を構えて真っ向から受け止める。繰り出された槍の一撃を受け、全身に痺れが走り一瞬気が遠のきかける。
(こ……このくらいでぇーーー!!
 俺の盾は、何人たりとも抜かせない! 破らせない! 負けられないんだぁぁぁぁーーー!!)
 気合で自身を奮い立たせ、盾でケレヌスを押し返すと、リロードを済ませた銃を突き出し、突撃する。
(ゼロ距離でのフルオート連射、これで決める!)
 勝負をかけた一撃、対するケレヌスは槍を構え直し、全身に闘気を漲らせる。
「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
 そして、先ほどの大吾の叫びを上回る雄叫びを上げ、同じく突撃する。その勢いは弾丸がケレヌスに突き刺さろうとも止まらない。
「うわあああぁぁぁ!!」
 突撃をまともに食らった大吾が、銃と盾を吹き飛ばされながら宙を舞い、地面に激突する。
「……あなたの意思、確かに受け取った」
 銃創を身体に残しながらも一礼するケレヌスを前に、大吾が意識を失う――。


 魔法使いでありながら、剣を傍らに提げた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が、対峙するケレヌスに言葉を放つ。
「あなたは私達を訝しんでいるのかもしれない。それは尤もな事だと思う。
 実は『ヴェルディーノ作戦』の時にも、ラッセルという方に『契約者は何故、我々と鉄族の双方に手を貸す? 何が目的で、このような真似をする?』と聞かれた。
 あの時はお茶を濁すような言い方しか出来なかったが、今なら伝えられる。……確かに契約者は一枚岩ではない。私のように龍族につく者もいれば、鉄族に協力する者……中にはデュプリケーターに与する者もいる。
 だから、あなた方が私たちを訝しむのも理解できる。けれど、これだけは分かって欲しい。皆、手段は異なれどもイルミンスールや龍族や鉄族を救うために行動しているということを。
 私は可能性に賭けたいんだ。人間と龍族、鉄族により良い未来が訪れるという可能性に」
「……ああ、それは私も理解出来る。ラッセルからは報告を受けている。彼はあなたの協力に感謝し、機会があれば恩を返したいと言っていた」
「ありがとうございます。その言葉が聞けただけでも、ここに来た甲斐があった」
 微笑み、すぐに表情を引き締めた涼介が、提げた剣を抜く。
「普段は魔法を扱う者、だが今日は一人の戦士として、あなたに立ち向かおう。
 互いの意思を賭けた勝負……行くぞ!」

 二人の戦いを、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)とヴァランティが並んで見守る。
「あなたは戦わないのかしら? あなたも相当な腕前であることは見ただけで分かるわ」
 ヴァランティの評価を嬉しく思いつつも、クレアはふるふる、と首を振る。
「お兄ちゃん――涼介にとって、この決闘は神聖なもの。だから私はこの決闘には手を出さない。それがヴァルキリーの騎士である私の意思。
 それに、ヴァランティさんと少しお話がしたいと思ったから」
 私に? という顔をするヴァランティに頷いて、クレアが口を開く。
「私やお兄ちゃん――涼介は、龍族と鉄族が共闘してデュプリケーターを打ち破れる事が出来れば、違った未来が開けるんじゃないかなって思ってるの。
 これは一つの可能性だけど、二つの種族が協力して共通の敵を破れば、この世界から解放されるんじゃないかって」
「違った、未来……そんな未来が、あるというの?」
 ヴァランティの問いに、クレアは分からないというように首を振る。
「言葉だけじゃ難しいのは分かってる。だからお兄ちゃん――涼介もああしてケレヌスさんと剣を交えてるんだ」
 クレアが見守る中、涼介は必死の抵抗を見せているが、やはり元からの槍使いと急造の剣士とでは、実力に差があった。しかしそこには、勝負の勝ち負けだけではない意思の応酬があった。
「……そうね。ケレヌスも契約者の事を理解しようとしている。私もそれは同じ。
 ところで……あなたは彼のことをお兄さん、と呼んでいるけれど、彼とは兄妹なのかしら?」
「あうぅ、やっぱり気になるよね。えっとそういうわけじゃなくて、これは癖というか……」
 ヴァランティに突っ込まれてクレアがあたふたとしていると、金属音が響き涼介の手にしていた剣が宙を舞い地面に落ち、同時に涼介も地面に崩れ落ちる。
「お兄ちゃん!」
 弾かれたようにクレアが、涼介の介抱に向かう。決闘の結果以上に、彼らの想いはケレヌスとヴァランティに伝わったことだろう。


「おねーちゃん、モデラート連れてきたよー!
 あと、おにーちゃんからわたしとおねーちゃんあてにメールだよ!」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の頼みで、パラミタからワイバーン『モデラート』を連れてきたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)からのメールをエリシアにも転送する。

『信頼関係を築くために敢えて全力で戦い合う、と聞きました。真直ぐな信念があればきっと相手に伝わると思います。
 シャンバラからですが、2人のことを応援しています、頑張ってください。
 それと、もしも何か相談したいことがあったらいつでも連絡をください。俺でよければ何でも相談に乗ります』


「ふん、陽太のくせに、生意気ですわ」
 メールを一読したエリシアがふん、と鼻を鳴らして陽太を罵倒する。
「あはは。でもおねーちゃん最近、おにーちゃんへの態度柔らかくなったよ。わたし見てて分かるもん」
「……はぁ。ノーンには見抜かれてしまいますわね。
 陽太は要領は悪いですけど、最初にやると宣言したことはどれだけ時間がかかってもやり通すだけの意思を持ってますからね。それに対する評価ですわ」
「そっかー。おにーちゃんが聞いたら喜ぶねっ」
「ま、聞かせることは当分ありませんけれども」
「そうなの? あっ、ゆっくりしてたらバトルに間に合わなくなっちゃうね」
「そうですわね。では、行きましょうか」
 二人とワイバーンは、ケレヌスとの決闘の地へと向かう――。

「やあっ!」
 裂帛の気合と共に、エリシアの振るった薙刀がケレヌスの足元を穿つ。そこから生じる電撃がかわしたケレヌスを追いかける。
「ふんっ!!」
 ケレヌスも気合を込めた雄叫びを上げ、電撃を槍を振るった波動で打ち消してしまう。
「……正直、非力な少女と見ていた。無礼を許してほしい」
 佇まいを正し、ケレヌスがエリシアへ詫びる。二人の戦いは剛対柔といったところで、まだまだ決着が付きそうにはなかった。
「でしたら、全力での相手を希望いたしますわ。こちらも用意していますの」
 エリシアの背後ではモデラートが、戦いの迫力に駆り立てられるようにバサバサ、と翼をはためかせていた。
「……了解した。では……行くぞ!」
 部下に槍を預け、ケレヌスが目を閉じ、両の手を合わせる。一瞬と形容する時間で全長18メートルの青龍へと変化したケレヌスが咆哮を上げ、空中に飛び上がる。
「モデラート、行きますわよ!」
「――――!!」
 エリシアも後を追い、モデラートに乗り空へと舞い上がる。青き龍と銅色の飛竜が何度となく交錯し、青炎のブレスと赤熱の光線がぶつかり合い相殺される。
「大丈夫かな、ケガとかしちゃわないかな」
 エリシアとケレヌスのバトルを、ノーンが地上からハラハラとした顔で見守る。ヴァランティも緊張を漂わせ、二人の戦いの行方を見守っていた――。

「おねーちゃん、痛くない?」
「ええ、かすり傷ですわ。惜しい所で負けてしまったのは悔しいですけれど」
 決着後、赤くなった腕に包帯を巻かれつつ、エリシアがケレヌスを見て言う。両者の実力は拮抗していたが、最後にはケレヌスの爪がエリシアの薙刀を弾き飛ばして決着した。
「いや、紙一重であったと思う。あそこで決着がついていなければ、勝ったのはあなたかもしれない」
 ケレヌスの賛辞に、エリシアは顔を逸らしつつも嬉しげな表情であった。
「ケレヌスさんも、どこか痛いところとかないですか?」
 エリシアの治療を終えたノーンが、ケレヌスにも治療を行おうと歩み寄る。
「私にも、か? ……そう、だな。思いを受け取るためにも、治療を受けるとしよう」
「はいっ!」
 満面の笑みを浮かべて、ノーンがケレヌスの治療を行う。