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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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『あらあら〜、まさに総力戦、って感じね〜。
 ま、こっちの目標はルピナスって子の所に契約者を向かわせるのが第一であって、これ全部相手するってわけじゃないけどね』
 居並ぶ巨大生物の集団を前に、リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)の声が柊 真司(ひいらぎ・しんじ)に届く。リーラの声にそうだな、と答えつつ、真司は一瞬の思考に耽る。
(事前の方針を決める場では、ルピナスの説得・制圧・殲滅で態度が分かれているように感じた。
 滅ぼせというのは流石にどうかと思うが、説得を受け入れるとも思えない……どうなるだろう)
 直後、『ゴスホーク』に出撃のゴーサインが出る。真司は思考を切り替え、拠点内部へ契約者が進入出来るよう、地上で巨大生物をいかに食い止め、制圧していくかに注力する。
「BMI起動、コネクト、80」
『了解、BMI起動、コネクト80』
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の声が聞こえ、真司は自分がコクピットに着座しているのではなく、実際に『ゴスホーク』として戦っているかのような感覚に満たされていく。前に飛ぶと意識すれば『ゴスホーク』はブースターを噴射し機動要塞から飛び立ち、ブレードを抜くと意識すれば『ゴスホーク』は右腕のライフル内蔵型ブレードを展開させる。眼前の巨大生物が脚を振る動作を読み切り、前方の所定の位置に『跳ぶ』と意識すれば『ゴスホーク』は巨大生物の伸ばされた脚を回避し、瞬間移動で巨大生物のすぐ頭上に出現する。
「炎よ、出ろ」
 そして、真司が炎をイメージすれば『ゴスホーク』のブレードに炎が纏われる。真司と『ゴスホーク』というそれぞれ別の存在を一つに結び付ける、それが『BMI』――ブレイン・マシン・インターフェース――であった。
「ふっ!」
 真司が炎を纏った剣を振る、『ゴスホーク』の赤熱化したブレードが巨大生物の頭部やや後ろ、人で言う所の延髄辺りに深々と突き入れられる。ブレードの周囲の肉体組織は熱により融解し、既に粘性の液体へと変化が始まっていた。
「敵巨大生物の生命反応、大幅に低下。今の箇所への攻撃は有効であると判断出来ます」
 ヴェルリアの解析による結果が真司の耳に届く。正面から斬り合うよりも、一瞬の隙をついて背後上空に回り、頭部の像のようなものがある後ろの辺りに打撃を与えられれば、効率よく巨大生物を沈黙させられるようであった。
「だが、同じ手は二度食わない、敵もそう思っているだろう」
 一体を沈黙させた『ゴスホーク』が次の相手へ飛び立った時には、巨大生物も背後に回り込まれないよう背中の羽のうち一対を展開させ、機動力をそれなりに確保しつつ自衛に用いるという対策を編み出していた。流石に新たな攻撃方法までは出現していないものの、こういう所が本当に厄介だな、と真司は思う。ある攻撃方法に対し対策を講じる、それは生物としてはごく自然なこととはいえ、今この場でそれを敵にやられるのは苦しい。
(……たとえ対策を編み出されたとしても、こちらが油断せず、適切な対処をしていけば必ず倒せる。
 追い付かれず、追い越されることがなければ最後に勝つのは、俺たちの方だ)
 気持ちを新たに、真司が前方の巨大生物へ向かう。羽を全て展開させての全方位攻撃を仕掛ける前に、重力操作を行い羽の機動力を奪い無力化させる。巨大生物は加重力下で行動こそ行えたものの、羽を失っているため満足な回避が出来ない。
「……ふっ!!」
 真司が、高速で移動しながらすれ違いざまに斬りつけるイメージをすれば、『ゴスホーク』はそれに応え超加速下での斬撃を巨大生物に浴びせる。最後に真司がシュッ、と剣を一振りすれば、背後の巨大生物は四肢をバラバラに切断されて地面に転がり、その一つ一つが粘性の液体へと変化して消えた。


「……ハーティオン。聞こえる? 今回は敵を倒す事よりも色々試して、敵の苦手な事を探す事を考えて。
 まだ底を見せていない、あのルピナスって子とのイザコザがここで解決するとは考えにくいからね」
 機動要塞内から、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が巨大生物と対峙するコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)に通信を送る。折角の機会にと、情報処理に特化したコンピュータを駆使してデータ収集を行う心積もりであった。
(多分、龍族や鉄族の特性も既にコピーされていると考えるなら……それをどのように応用されるか分からないけど、面倒であることに違いはないわね。
 とにかく情報は必要だわ。天秤世界のことも調べたかったけど、これはこれで重要だものね)
 コンピュータを操作する鈿女、彼女の上空をパタパタ、とラブ・リトル(らぶ・りとる)がどこか暇そうに漂う。
「はろ〜ん♪ 蒼空学園のNO1アイドル、ラブちゃんよ〜♪
 ……うーん、ハーティオンが本気バトル始めちゃうと、あたしの出番無いのよね〜――あいたっ」
「何処に向かってアピールしてるのよ。暇なら手伝ってほしいわね、たとえ猫の手でも何かの役には立つでしょ」
「あたしに出来る事は歌うことと、応援することよ! フレーフレー、ハーティオン♪」
「……聞いた時から分かってはいたけれど、頭を抱えたくなるわね」
 上空で応援するラブを「仕事の邪魔になるからあっちでやってなさい」と追いやって、鈿女は戦況を確認する――。

「苦手な事を探す、か……。だがあまり色々と攻撃の手を見せては、確か敵はこちらの攻撃をコピーしてくるのではなかったか?」
『ガオオオオン!』(そうみてぇだな。でもよ、じゃあどうやって戦うんだよ)
 龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)の言葉(というか鳴き声)に、コアがうぅむ、と考え込む。たとえばここで『超電磁ネット』や『冷凍ビーム』を巨大生物に喰らわせたとすると、次の時にはこの武器を応用した攻撃を受ける可能性が出ることになる。尤も、その辺りの武器は既にコピーしているかもしれないが、みすみす敵に攻撃のレパートリーを増やすのもいただけない。
(ぐぬぬ……考えれば考える程、ドツボに嵌りそうだ。
 ……あぁ、そういえば……まさか人間があのように嫌われてるとは思いもよらなかった。私の見てきた人々は多少のいさかいや争いはあれど、最後には困難を乗り越えて手を取り合える人々だったのだが……)
 コアの中で考えが煮詰まって化学変化を起こしたらしく、この前『ポッシヴィ』で住民に言われた言葉が蘇る。俺たちは人間とは違う、あんな奴らと一緒にするな。明らかに人間に対して敵意を持っている彼らの言葉は、コアを思考停止に至らしめるに十分な威力だった。そして今でも、コアはそれに対して自分の取るべき行動を見いだせていない。
『ガオオオオン!』(おい! どうしたハーティオン! ……ん? あれは……まさか!)
 黙ってしまうコアへドラゴランダーが呼びかけた所で、ドラゴランダーの視界に戦場を駆け回る一人の青年が映る。彼は二振りの剣を手に、契約者が乗る龍を足場にして立体機動を行い、巨大生物を翻弄しつつ戦っていた。
『ガオオオオォォォォン!!』(あの『ザナドゥの王様ヅラ』をしていたパイモンだとぉ!! 我はあんなのと一緒に戦うなんてごめんだぞ! あの偉そうな態度は昔から虫が好かんのだ!)
 途端に不機嫌になるドラゴランダー、一方でコアはかつては敵対した者が今はこうして契約者と協力して巨大生物と戦っている事実に、希望を見出す。
(そうだ、争っていたザナドゥの人々ともパラミタの人間たちは判り合えた。
 この世界でも必ずや奇跡を起こしてくれるはずだ。私はその為になら幾度でも戦おう!)
 コアが意思の力を取り戻すと、胸のクリスタルが光を放ち出す。これは『合体』が可能になったことを示すものでもあった。
「ドラゴランダー、気持ちは分かるが、パイモンの事は今は許してやって欲しい。彼は今では立派な私達の仲間だ」
『ガオオオオン!』(……分かった、そこまで言うのなら我はもう触れぬ。ともかくあのデュプリケーターとやらを倒す事を優先しよう。今回も暴れさせてもらうぞ!)
「あぁ、行こう!
 来い! 龍帝機キングドラグーン!」
 コアの呼びかけに応え、『龍帝機キングドラグーン』が現れ、ドラゴランダーと『龍心合体』したコアとさらなる合体を果たす。
「黄龍合体! グレート・ドラゴハーティオン見参!」
 『グレート・ドラゴハーティオン』に合体を果たしたコアは、必殺技である『勇心剣! 流星一文字斬り』は隠すことにしつつ、それ以外は一度は試してみることに決めた。
「確かに、真似をされるかもしれない。だがそれは所詮、我々の力をコピーしたものに過ぎない。
 オリジナルである私達が、コピー品に負けるはずがないのだ!」
 意思の力があれば決して負けることはない、そう心に誓ったコアが巨大生物に肉薄、『ドラゴ・クローナックル』で巨大生物の脚を破壊する。他の巨大生物が応戦しようと羽を展開させようとした所で、高圧電流を流すことの出来る網がかけられ、流れる電撃に巨大生物が身悶える。別の巨大生物にも極低温のビームが放たれ、行動を阻害する。彼らは生物である以上、電撃や低温に対して抵抗力が弱く出る傾向にあるようだった。
『効いているようだぞ、ハーティオン!』
「ああ! このまま巨大生物を押しとどめ、拠点内部に契約者を送り込む!」


「アハハハハハハ! どうしたのさ、もっと抵抗してみなよ!」
 『サタナエル』のかざした手から放たれる電撃に貫かれ、巨大生物が身悶えるのをベリアルがさも楽しげに見下ろす。ベリアルが『召喚』した『サタナエル』は例えるなら複数の契約者を取り込んで動く魔鎧であり、綾瀬、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)、ベリアルの魔力を動力源に、ベリアルが動力系を、ドレスが神経系を担当し、綾瀬は三人と『サタナエル』を一つに繋ぐ媒介として機能していた。
(まったく……私が魔力制御を行わなければ、直ぐに満足に動けなくなってしまうでしょうに。
 その辺りもう少し考えてもらいたいものだわ……)
 ドレスが心の中でベリアルに苦言を呈する。完全に『サタナエル』の力を引き出せていない現状、魔力の浪費は許されない。ベリアルがその点気にせず無邪気に戦ってしまうので、ドレスに魔力制御という重荷がのしかかる形になっている。
(……そういえば……綾瀬も何を考えているのでしょう。
 何か、私達の思いもよらない事を考えているような気がするのですが)
 ドレスがもう一つの懸念を心に思う。綾瀬は元からどこか掴めない所があるにせよ、それが今も感じられるのは不安で仕方なかった。
(……考えても仕方ありませんね。どうせ綾瀬と私は一心同体、なのですし)
 綾瀬がどのような行動を取ろうとも、自分は付いて行くのみ。それが、自分の存在理由だから。