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【裂空の弾丸】Recollection of past

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【裂空の弾丸】Recollection of past
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リアクション


プロローグ

 移動要塞ジークロード。
 浮遊大陸時代に数多く作られた兵器の中でも、極めて高い防御力を誇るその要塞は、かつてはクォーリアの騎士の一部隊が使用していたものと聞く。
 だがいまや、その姿は影も形もない。
 あるのは、機晶石によって動くことを許された兵士たちと、数少ない生身の部下たち。
 そして――アダムを守るため結成された四騎士の一人、クドゥル・ド・シルヴァーンその人であった。
「クドゥル様」
 何者かが、司令室にいるクドゥルの名を呼んだ。
 王座のごとき席に座りながら、球体型の巨大スクリーンに映される浮遊島周域の地図を見ていたクドゥルは、その声に視線のみを動かした。
 そこにいたのは、クドゥルが最も信頼する部下。
 意思を与えられた飛行機晶兵の娘が、洗練された佇まいで直立していた。
「……お前か」
「はっ! ご報告があって、参りました」
「報告? いったい何の用だ」
 クドゥルが問うと、飛行機晶兵の娘は巨大スクリーンに近づいた。
 半透明の球体に娘の指先が触れた途端――

 ウォン――

 スクリーンは空気を撫でるような不思議な音を立てて、その映像を変化させる。新たに映し出されたのは、水の浮遊島ブルニスの姿だ。水の球体に浮かぶその島を、クドゥルは不可解そうな目つきで見つめた。
「これは……?」
「はっ……実は、このブルニスの平和を取りもどした姿を見てもらえばわかるかと思われますが……
 ――ファナティック様が、契約者たちの手によって亡くなられました」
「なんだと……っ!?」
 クドゥルはにわかに驚いた。
 まさか、あのファナティック様が……! そのような、驚愕の様が見て取れた。実際、クドゥルにとってそれは信じられないことだった。曲がりなりにもファナティックは、あのアダムやヘセドと同じ、かつてはクォーリアの騎士として剣を振るっていた存在だったのである。言わばクドゥルにとっては、いまや目指すべき崇高な存在であり、目標とも化した人物と、肩を並べていた存在だということだ。
 それが、このような末路を迎えるとは……。
 クドゥルが即座に信じられなかったのも、無理はなかった。
「…………となれば、もしやブルニスに残されていた遺産は……」
「はっ……言い伝えに記されていた方舟の“大切な力”――ノアテレポーターは契約者たちの手によって復活させられてしまいました。これで、方舟には全ての遺産が揃ったことに……」
「ふん、忌々しい……。――契約者たちの力、侮っていたな……」
 クドゥルは不快げに呟いた。
 そうだった。クドゥルは、契約者たちの力を甘く見ていた。彼らは単なる地上の来訪者ではない。契約――本来ならば交わることのなかったそれぞれの種族が、存在が、繋がり合った者たち。世界から恩恵を受けるその繋がりは、決してそう易々と打ち破れるものではないのだった。
「……しかし……」
 クドゥルは静かに口火を切った。
「ファナティック様に限ってならば、好都合だったのかもしれんな……」
「……それは……どういう……?」
 飛行機晶兵の娘が、疑惑を隠しきれずに問う。
 クドゥルは冷厳に言い置いた。
「あの方は、アダム様にとっては邪魔な存在だった。アダム様の目的に叛意を示し、自らの思想を成就させようとしていたのでな。どちらにせよいずれは、始末するべき存在だったのだ」
「………………」
 飛行機晶兵の娘は、内心ではクドゥルを恐ろしいと感じていた。
 単なる戦闘用に造られた機晶姫である自分が、このようなことを感じるのはおかしいことだとはわかっていたが、それでも、目の前の男の冷然とした瞳には、どこか射すくめられる思いがあった。そのような感情は、いまはどうでも良いことであったが……。
「――間もなく、契約者たちがこちらへ接近してきます。ご準備のほどを」
「そうだな……。お前も持ち場に着くがいい」
「はっ!」
 飛行機晶兵の娘は従順に返事を返すと、一寸の狂いもない動きでさがっていった。
 それを見届けて、部屋に一人になったクドゥルは心の中で囁いた。
(……契約者たちよ……私はファナティックのように甘くはない。私の招待を受け止めたこと……後悔させてやるぞ!)