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ナラカの黒き太陽 第二回 委ねられた選択

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ナラカの黒き太陽 第二回 委ねられた選択

リアクション

 幽鬼たちの前に立ちはだかったのは、教導団の面々だけではなかった。
「下がってて。僕が守るから!」
「……うるさい!!!!!」
 駆け出す皆川 陽(みなかわ・よう)を、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が守ろうとするが、そんなテディが許せないように陽は思い切り拒絶した。
(うるさい、うるさい、みんなうるさいっ!!)
 苛立ちを隠しもせず、陽は研究所の外へと飛び出していく。
 テディの態度も、あの闇の声も、それに操られるような脆弱な魂の持ち主も、なにもかもが腹立たしくてたまらなかった。
(守るって、なんだよ? そんなに僕は頼りなくて情けない存在なの?)
 強くなりたいと願って、だから陽はがんばり続けているというのに、テディは変わらず陽を守ろうとする。それがまるで、自分の努力など、意味がないとでもいうように陽には思えた。
 しかも、そんな折りにだ。
『強くなりたいの? それなら、うってつけよ。それくらい、いくらでも叶えてあげるわ』
 そんな闇の声を耳にし、苛立ちは最高潮に達した。
(だから、そんな風に、誰かを頼って生きていきたくないんだよ!!)
 陽は、「自分の願いを自分の力で叶えられる自分でありたい」のだ。そこに他者の介在など、無意味に過ぎる。
 だというのに、誰も彼もが、自分を幼い子供のように扱う。それが、苛立つ。
「ほんっとに、みんな、みんなうるさいんだよ!!」
 陽の怒りは、『闇の声』の持ち主……ソウルアベレイターに矛先を向けていた。そして、それが操る、幽鬼たちにも。
 陽の手が空を切るなり、炎に包まれた鳥が顕現する。彼の怒りの炎を纏ったように、フェニックスは激しく火花を散らすと、一挙に幽鬼の群れへと突っ込んでいった。
 黒い靄がなぎ払われ、大きく二つに割れる。
「だけじゃないよ!」
 さらにもう一羽、さらに大きな鳥が、羽ばたいた。そちらは雷撃に包まれた、サンダーバードだ。
 鳥たちは互いに鳴き交わし、連携をとるようにして、闇の集団へと襲いかかる。炎と雷撃が、容赦なく降り注いだ。
「まだ、だよ……」
 こんなもので、終わらせる気はない。
 一度に大量の精神力を使いつつも、陽はまだ、熱狂にも似た怒りのなかにいた。
「みんなまとめて、やっつけちゃうからね。操られた契約者がいようが、関係ないんだから。第一、薔薇学生として、そんな行為は美しくないんだよ? 他人の力に依存するような浅はかな行為は、薔薇の学舎の生徒としてあるまじきことなんだからね?」
 陽は呟き、一切その攻撃の手を緩めずに、『光の閃刀』を呼び出した。女神イナンナの戦の力を借り、その威光が刃となって降り注ぐ。
「まぁ、薔薇の学舎の生徒はいないみたいだけどー」
 後ろで高みの見物をきめこんでいるユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)が、両手で頬杖をついて言う。
 まぁ、もしも本当に薔薇の学舎の生徒が混ざっていた場合、陽のあの勢いでは無傷では到底すまないだろうし、そうなればユウが回復させてもいいと思っていた。
 とはいえ、この様子ではその必要はないだろう。楽ちんという意味では、ユウとしてもありがたい。
 一方でテディは、陽に近づく者がいないかを注意深く見守りながらも、躊躇いと当惑を隠しきれずにいた。
 今のところ、反撃に転じた幽鬼も、すぐさま陽はたたきつぶしている。テディの出番は、ほとんどない。それならば同じように幽鬼に相対すればいいのかもしれないが、テディにとっての最優先は、依然として『陽を守る騎士であること』のままなのだ。
(だって、好きなんだよ。好きな人を守りたいと思うのって、そんなに悪いことなのかな?)
 テディには、どうしてもそれが理解できない。たださしのべた手をとってほしいだけなのに、陽はそれを拒否するだけでなく、嫌悪を隠しもしない。
(どうしたらいいんだろう……)
 カールハインツが、レモに同行を拒絶されたとき。きっと、カールハインツは傷ついたのだろう。テディには、その痛みがわかる気がした。
「なにぼーっとつったってんの。ホント役立たずだよねー。そんなだから、陽に嫌われるちゃうんじゃないのー?」
 そんなテディを、ユウはにやにやしながら揶揄する。
「役立たず……だから、かな」
「さーのぅ」
 自分で言っておきながら、とぼけた返答をするユウに、しかしテディは「そうだよな」となにか得心したように頷いている。
 たしかに、ここでじっとしていても仕方がない。例え拒絶されようと、テディには、陽を守る他に生き方を知らないのだから。
 第一、陽は出てきてからずっと、無茶なほどに魔法や召喚をし続けている。このままでは危ない。
 テディはそう判断し、陽を庇うようにしてその前に立った。
「無茶しすぎだよ。少し、僕に任せて」
「……………!」
 だがその行為は、陽の逆鱗に触れるばかりだ。
「ほんとに……ッ! いらつくよね……!」
 陽はこみ上げる怒りのままに、陽はぐっと拳を握ると、テディを思いきり殴りつけた。
「え……っ!?」
 不意打ちの背後からの打撃に、テディは避けることもできず、呆然と目を丸くしている。
「な、なんで?」
「なんでじゃないよ……、邪魔なのっ!」
 はっきりとそう告げて、陽はテディに封印の魔石を使った。
「!」
 一瞬にして、テディの身体は石に呪縛され、その姿を消す。無言のままその石を懐にしまうと、陽はせいせいしたように、大きく息をついたのだった。