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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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伝説の教師の新伝説 ~ 風雲・パラ実協奏曲【1/3】 ~

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第七章:野望の地下教室
 

 極西分校の収穫祭は、大盛況のまま終わりを迎えつつあった。
 イコン格闘大会は盛り上ったし、イベントや出し物もなかなかの評判だった。
 他校からの来校生たちも十分にお祭りを楽しみ、充実した一日が終わろうとしていた。
 収穫祭の片付けをする分校生たちを尻目に、来客たちはぞろぞろとゆっくり帰っていく。彼らにはまた新しい出来事が待っているのだ。
 そんな中、人の流れを逆行しながら分校内へ入って行く男の姿があった。彼は収穫祭を見物しに来たのではない。分校内で忽然と姿を消した吉井 真理子(よしい・まりこ)を探しにきたのだ。
(いきなりテレパシー越しに会話するのもなんだしな。やっぱり直接会って話をしたいよな)
 彼は、同じパラ実に所属する国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
 大荒野は土地が痩せているから作物が育ちにくい場所なのに、今年は豊作だったという。その秘訣を是非尋ねてみたいと思っていた。
 真理子は農業科の講師として分校に来ていたはずだ。会って話を聞いて、他の分校でも参考にできればと、ここまでやってきたのだった。
 校内では収穫祭も行われていたが、同時に通常の授業や学校行事も行われているらしい。イベント会場を抜けて奥へ行くと、校舎があった。
 パラ実にしては、まずまず綺麗に原形をとどめている。真面目な生徒たちがいるようだったし、モヒカンたちのヒャッハー! も聞こえてこない。
「こんにちは」
 武尊は、職員室を見つけて入っていった。内部は、普通の学校とあまり変わらない。
 彼は種もみ学院の総長なんだから、いきなり追い出されることは無いはずだ。
 教師の一人を捕まえて聞いてみる。
「吉井真理子……先生、いる?」
「ここしばらく見ないねぇ。休暇でも取ってるんじゃない?」
 他の教師の動向にあまり興味は無さそうだった。
「農業科って、一応ちゃんと活動していたんだな」
 そのまま帰るのもなんなので、武尊は会話を続けてみる。教師は答えた。
「普段は種もみ強奪するのが農業科の授業みたいなもんだからな」
「え、あれって農業活動だったの?」
「そういえば、吉井先生が来てからなくなったねぇ。あの先生酷いんだ。生徒たちに田植えさせようとするんだぜ。ありゃダメだな」
「いや、普通はそれが農業科のやることだろ」
 武尊は突っ込んでみたが明確な返答は返ってこなかった。本当にどうでもいいらしい。
 仕方が無いので、校内を歩き回ってみた。
 他の分校よりも整然としており、なんだか気持ち悪い。真面目そうな生徒にも聞き込みしてみたが、良い答えを得ることができなかった。
「……」
 武尊はあっさり方針変更した。もう格好付けるのはやめよう。どうせ、服装全部ぱんつばっかりだし。みんな見てるし。
「やあ、オレオレ。オレだよオレ」
 武尊は【テレパシー】スキルで真理子に話しかけてみた。
≪ ああ、ぱんつ屋さん? 久しぶりじゃない。ぱんつなら間に合ってるわよ ≫
 真理子から返答が返ってきた。名乗っていないのにどうして正体がばれたんだろう。
「今どこにいるんだ?」
≪ 地下教室で、生徒たちに農業の学科教えてるところ ≫
「ちゃんと授業できたんだな」
 武尊は、地下教室という単語よりそちらのほうが気になった。
≪ 農業の教員免許持ってるもの ≫
「マジでか!? 銀行勤めしてたんじゃなかったのか?」
≪ ふっ、女の人生には色々あるのよ。銀行でカネ勘定しているセコイ男より、田んぼを見守る案山子のようがマシだって、最近気づいたし ≫
「それで、豊作だったのか? 荒地を手入れして畑を耕したのは真理子たちだろう?」
≪ 農業はそんなに甘くないわよ。この分校にもイヤイヤ来ただけだったし。振り込まれていた講師料、ついうっかり使い込んじゃっただけだし ≫
「……」
≪ 最初の頃は、生徒たちと喧嘩ばかりしていたわねぇ。そのうちどっちが不良なんだかわからなくなっちゃってさ。私グレにグレまくって、バイクの代わりに耕運機改造してモヒカン追い掛け回してさ。誰もいないんで、文句たれながら連れていた犬と二人だけで田植えしてたのよ。そのうち、一人二人と誰からともなく生徒たちも手伝い始めてね。気がついたら稲が実っていたってわけ。全然甘くないでしょ ≫
「いや、すげえ甘いんだけど。第一」
 武尊が続けようとした時だった。
≪ あ、誰か来たわ。とにかくぱんつの行商ならまた今度ね ≫
【テレパシー】のスキルはぶつ切りされた。それ以降、応答は無かった。
「……」
 武尊は、しばらく考える。肝心の農業のノウハウを聞いていない。確か、地下教室とかいう単語が聞こえたが。
 向こうで何か起こっているらしい。テレパシーの魔力の残滓を頼りに行ってみようか。



 同時刻。
「おまたせ。大丈夫だった」
 真理子たちが閉じ込められている地下教室へとやってきたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。準備万端の上、真理子と会話を密に交わしてきた彼女にとって、この場所を探り当てるのはさほど困難ではなかった。
 看守のガードマンなど秒殺だったし、鍵も【ピッキング】で簡単に開くものだ。
 それでも、収穫祭が終わるまで時間が掛かったのは、校内の様子を調べていたからだった。
 マントの隠れ身で姿を隠し、施設内部を壁抜けして特命教師たちの動向を追い、必要な映像は、【サイコメトリ】や【銃型HC】で撮影してある。
 彼らの正体は、武器商人だ。お金さえだせば宇宙人にでもテロリストにでも兵器を売る戦争商売人。
 問題は、彼らが次に何をしようとしているか、だが。それはひとまず置いておいて。
「脱獄するつもりって聞いたから助けに来たわよ」
 ルカルカは道中オートマッピングしてきた【銃型HC】を真理子に手渡す」
「これで脱獄ルートもバッチリよ。安心して逃げられるわ」
「……」
 だが、真理子が黙っているのでルカルカは訝しむ。
「どうしたの? ゲルバッキーなら心配ないわよ。ダリルが向かっているから、一緒に救出できるわ」
「そうじゃなくてね」
 真理子はニヤリと笑った。
「わざわざ助けに来てくれて有難うね、ルカルカ。でもね、私はただ逃げ出すって趣味じゃないのよ。脱獄はするわ。相手にお返しつきでね」
「敵を倒すつもりなら、他の強力な仲間に任せたほうがいいわ」
 もちろん、自分も一役買っていいとルカルカは言う。真理子は首を横に振った。
「殴る? 攻撃する? あなたたちなら勝てるでしょうね。でも、この分校は暴力禁止よ」
「悪党にそんな理屈は不要よ。守る必要は無いじゃない。相手が先に無法を働いたんだから」
「それじゃ、結局悪党たちと同じことよ。少なくとも、私はいや。私はね、この分校のルールに則って合法的に反撃するの。例え相手がルールを破っても、私はルールを守って勝つ。それでこそ完膚なきまでに叩きのめすってことなのよ」
 真理子は不敵な笑みを浮かべたまま言う。
「今、私のいる地下教室には20人ほどの生徒がいるわ。この全員が組んで決闘するのよ。特命教師たちとね」
「なんだ、やっぱり元気そうじゃないか。その話もっと詳しく」
 向こうから、武尊がやってくる。意外に早く探し当てることができたようだ。
「あら、ぱんつ屋さん。新しいぱんつ持ってきてくれたの?」
「というか、むしろオレにぱんつくれ」
「あらあら。お世辞で無理しなくていいのよ。もっと若い子のぱんつがいいんでしょ」
 今さら恥らうような柄か、と真理子はにんまりしてから。
「とにかく、ここから出るのは反撃してからよ。やられたらやり返す。やられなくてもやり返す! そんな台詞流行ったわね」
 秘策があるのよ、と真理子は言った。
 それは一体何なのか。
 彼女の話は次回へ続くことになる。