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リアクション
「……うん、全可動部、異常なし。良かったねソーサルナイト、治ったよ」
クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が微笑み、自分と涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)のパートナー、{ICN0004496#ソーサルナイト?}を見上げる。彼はダイオーティの護衛中、接近してきた契約者のイコン相手に身を呈して戦い、四肢と頭を吹き飛ばされた。傷は決して浅くはなかったが、鉄族と龍族が一時的に共闘の姿勢を取った事により、両方の持つ技術を使うことが出来たため、元通りの姿を取り戻すことが出来たのだ。
「あなたはこう口にした、『龍族と鉄族がいがみ合う事を止め、手を取り合えば共に生き残れるはずだ』と。……それが今、現実となろうとしている。
あなたはこうなることを予測していたのか?」
クレアが視線を向けた先、涼介とケレヌスが向き合い、話をしていた。ケレヌスの言葉に涼介は首を横に振り、言う。
「予測なんてとても。あの時は恥ずかしながら、確証も何もなかった。ただ、この世界の理というか、そういうものが龍族と鉄族を戦わせようとするなら、私はそれを覆すまでだ、そう思っていた」
涼介の言葉に、ケレヌスは表情を砕けさせた。その顔は実に楽しげだった。
「我々も、そして鉄族も、あなた方に覆されたようだ。……感謝する。
あなたの名を改めて、教えてくれないか」
「涼介・フォレストだ。……勝とう、共に」
互いに伸ばした手が、一つに重なる。それを見てクレアも嬉しそうに、顔を綻ばせた。
『ソーサルナイト?』に乗り込んだ涼介の下に、『うさみん星』の者から情報、そして特殊な力を持った弾薬が届けられた。『天秤宮』への道を塞ぎ、契約者へ攻撃を仕掛けている者の名は『Cマガメ族』ということ、属する者の特徴を読み込み、頭に入れておく。
「わ、これ凄い。ちょっとした魔力炉みたいに使えるよ」
クレアの視線の先には、うさみん族が作ったという弾が動力炉に繋げられていた。『ソーサルナイト?』の主兵装は全て魔力を用いるものであり、直接弾を撃ち出すものはない。しかし大型の弾は例えるならガスボンベのように、携帯の魔力貯蓄装置として利用することが出来たのだ。これももしかしたらアーデルハイトが「こんな事もあろうかと」と用意していた……かどうかはさておき、これにより『ソーサルナイト』の保有する魔力量は、通常の2〜3割増しとなっていた。
「クレア、私たちが戦場を翔け回り、訴えたことは間違いではなかった。人が動き、世界が動き、私たちが目指してきた未来への道が開かれようとしている」
「うん、そうだね、お兄ちゃん。……でも、まだ最後の戦いが残ってる」
「あぁ、そうだ。私達を敵として認定してきた、天秤世界の理の代行者、『天秤宮』
彼に勝利することで、私達は望んだ未来をこの手に勝ち取ることが出来る」
それがもしかしたら『富』なのかもしれない。『形』ではないもの、しかし確かに『かたち』として存在しているもの。
「行こうクレア、『ソーサルナイト』。
勝利を、我々に」
涼介の言葉にクレアが頷き、『ソーサルナイト?』は応えるように宙に浮き、戦場へと羽ばたいていった――。
「……お嬢様、私、どうにも不思議に思うのです」
「何がですの、望?」
突如声を上げた風森 望(かぜもり・のぞみ)に、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が振り返って応える。
「いくら天秤世界という、時間の経ち方が不明瞭な土地で、さらには鉄族の技術も得ることが出来たとはいえ、こうも短期間にこれだけの大型艦が建造出来てしまうなんて、おかしいじゃないですか。
私、見てしまったんです。これくらいの小さな何かがバーナーのようなもの――モガモガ」
「望、それ以上はいけないわ。……あら、わたくしどうしてこのような真似を」
ノートに口を塞がれた望が、乱れた息を整え目の前の大型艦――フリムファクシ・アルスヴィズ――を見上げる。以前鉄族との戦闘で大破した『シグルド・リーヴァ』が遺してくれた設計図から完成した代物だが、その完成には不可解な点が見られるのはまあ、確かであった。
「コホン。まぁ、出来たものは仕方ないので、ありがたく利用しちゃいましょう。……では、大層な理想をお持ちな『天秤宮』とやらに一発カマしに、道を切り開くと致しましょうか」
口にし、『フリムファクシ』へ歩を進める。ノートの下には『シグルド・リーヴァ』からの付き合いである操舵手らが顔を揃え、後に続く。
「確かに、人から争いを無くすことなど無理かもしれません。
他者を理解し、時に妥協し、信じ、助け合う。それに比べれば、力を行使し、他者を排除することなど楽でしょう。……ですがだからこそ、相互理解による平和は尊いのです。
彼らのしていることは、争いと言う過程をすっとばした排除でしかありません。そんな箱庭の理想郷は、こちらから願い下げです」
「ええ、その通りよ。……望、この頭の弱いぽんぽこぴーにかけてやる言葉は何が相応しいかしら?」
ノートの発言に、望は一瞬だけ面白がるような顔を浮かべた後、それを隠してノートに告げてやる。
「馬鹿め、と言って差し上げると良いんじゃないですか?」
「馬亀、と言って差し上げますわ!」
「…………」
「……そんなゴミを見るような目でわたくしを見ないでくださる? 冗談に決まっているでしょう」
「お嬢様の場合、冗談に聞こえないのですが」
やっぱりノートは『頭の弱いぽんぽこぴー』かもしれないなぁ、と望は思う。……でもだからこそ、パートナーとして付き合えるのかもしれない、とほんのちょっとだけ思った。
「お黙りなさい! ……コホン、では改めて……バカめ、と言って差し上げますわ!」
「……そうですか。いえ、ティティナ、あなたが無事でなによりです。
ケイオース様の力になってあげなさい」
慌てた態度を通話の向こうで出しているであろうティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)を想像して、沢渡 真言(さわたり・まこと)は表情を緩ませながら通話を切り、しかし直ぐに表情を改める。
(龍族と鉄族の戦い……それは終わりを迎えた。けれどまた別の勢力……『天秤宮』が私たちと戦おうとしている。
そして、イルミンスールを今後も安定して存続させるために、天秤世界の力をイルミンスールへ送る方向へ進もうとしている)
自分がここ、『龍の耳』に居る中で得た情報、そして今ティティナから得た情報を頭の中でまとめ、行われようとしている事柄について思考を深めていく。
(どうにせよ、また新しい戦いが始まってしまう。
そしてこれからも、私が生きている間も、死んだ後でさえも、争いは無くなることはないのかもしれない。人が争いを止めることは未来永劫、出来ないのかもしれない)
だから『天秤宮』は、無くせぬ争いを管理しようとしているのだろうか。人が、生物が争うことは理なのだろうか。
長い沈黙の後、真言は目を開け、正面を見る。
誰か居るわけでもない、けれどそこに存在しているものへ向けて、確かな思いを口にする。
「それが理だとしても、私は――争いがなくなる日を願う」
理だから、と受け入れればそこで終わってしまう。結果として受け入れねばならない時が訪れたとしても、それまでは抗いたい。
自分は小さな存在だけど、でも、誰にも抑えつけられない存在であるはずだし、そうでありたい。
(私はイルミンスールが、イルミンスールでの生活が好き。あの中での平和なひとときを失いたくは無いし、出来ればずっと続いてほしい。
でもそのためには、犠牲がつきものなことは理解している。そこで犠牲が出るのは仕方ない、と受け入れるつもりは無い。可能な限り、犠牲を最小限に留めたい)
イルミンスールの存続のために、『天秤世界』が消滅するような事態は、避けたい。『天秤宮』は決して滅ぼされる存在ではないのだから。出来れば労いの言葉をかけて、そして「これからの事は私たちに任せて、少しの間休んでください」と言ってあげたい。
(自分が平和を願うなら、他人任せにしてはいけない。だから今は動こう、戦おう。
目の前の争いを、止めるために)
自分の心に決着を付け、横で静かに主を待ち続けていたグラン・グリモア・アンブロジウス(ぐらんぐりもあ・あんぶろじうす)へ振り返り、見上げてくる頭をそっと撫でる。
「お待たせ、グラン。私はもう大丈夫」
「……うん。みんな、じゃんけんとかで勝ったり負けたり、鬼ごっこで決めたら良いのにね」
「ふふ、そうですね。楽しく遊べたら、それが一番です」
子供がワイワイと遊ぶ、そのようになればいいと真言は心から思った。その思いを決して忘れはしまいと誓い、真言は使い慣れた自身の道具、『憂うフィルフィオーナ』の具合を確かめると、進軍する『天秤宮』の勢力に対して迎撃に出た者たちに混じり、戦いの場へと向かった――。
『先程第一子、陽菜が生まれました。今、改めて、命は本当に愛しく大切なものだと実感しています。
天秤世界で争いを収める為に尽力しているエリシアとノーン、そして契約者や住人の努力が実を結ぶことを心から願います。月並みな言葉ですが……頑張ってください!
2人が元気にシャンバラに戻って来るのを、環菜と2人で楽しみに待っています。帰って来たら、みんなでパーティーでもしましょう!』
そんなメールが御神楽 陽太(みかぐら・ようた)から届けられ、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は嬉しい半面、直接その場に立ち会えなかった事に申し訳のない思いを抱く。
「おねーちゃーん、ヴァイスさんが来てくれたよー……あれ? どうしたの?」
ちょうどそこに、先の戦いで交流を得た龍族の戦士、ヴァイスを伴ってノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)とモデラートがやって来た。落ち込んでいるように見えたのだろう、心配するノーンへエリシアが、届いたメールの件を話す。
「おぉ、それはめでたいな。……ふむ、君達には危機を助けられた恩もある。
済まない、少し時間をくれないか」
「? よろしいですけど……」
話を聞いたヴァイスが急ぎ『昇龍の頂』へ戻るのを、エリシアとノーンが顔を見合わせ首を傾げつつ見守る。少し経って戻ってきたヴァイスは、手に器用に削り取られた木彫りの飾り物を持っていた。
「少し荒くなってしまったが、祝いの品として受け取って欲しい」
「わー、これヴァイスさんが作ったの? すごーい!」
受け取ったノーンが無邪気にはしゃぐ一方、エリシアは彼がこのタイミングで贈り物を用意した背景を理解し、彼の想いを有難く思うと同時に、決して彼を戦場で失わせるわけにはいかないと密かに誓う。
「ノーン、あなたが持っていなさい。言うまでもないと思うけど、必ず持ち帰りますわよ」
「うんっ! ぜったい、無くさないよ!」
しっかりと仕舞ったノーンに頷いて、エリシアは出撃のため龍形態に変化し空へ発ったヴァイスを追いかけるように『モデラート』に乗り、空へと舞い上がった――。
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