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リアクション
今やすっかり、魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)達の拠点となっていたArcem内では、進撃してくる『天秤宮』からの軍勢に対する防衛線構築案が早急に検討されていた。
「『ポッシヴィ』南から『龍の眼』には、ナベリウス・アムドゥスキアス及び龍族の『執行部隊』、鉄族の『疾風族』が布陣しています。
そしてこちら、『龍の耳』には“灼陽”が待機しており、敵も目標とするでしょうが先の戦闘を見るに、こちらの支援が間に合わぬほど短時間で窮地に陥る可能性は限りなく低いと考えます」
パイモンとロノウェ、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が天秤世界の地図を映し出すモニターを睨みながら、どこに戦力が配置されており、どのような計画でもって進行するかを話し合う。
「私達がポッシヴィを守ってると気づけば、敵はポッシヴィを目標として私達を牽制する可能性が高い。だからまずポッシヴィを背負う形で防衛陣形を組み、分断されないように固まって防衛するのはどう?」
「ポッシヴィは龍の耳に比べ西側にある関係で、敵の軍勢は『天秤宮』から伸びる形になる。そのどこかに必ず防御の薄い箇所が生まれるだろう。
よって俺からの策としては、ポッシヴィ防衛をパイモン、ロノウェとカルキノス、淵に担当してもらい、敵をポッシヴィに引き付ける。
その間に俺とルカルカが『Arcem』で敵の軍勢の中程、防御の薄い箇所を食い破り、軍勢を分断する。『Arcem』はその場に留まり両側からの敵の攻勢を耐える間、パイモン達防衛部隊は攻勢に転じ、ポッシヴィ付近の敵軍勢を一層、『Arcem』と合流して新たな防衛戦を築く」
ダリルの言葉に応じ、モニターに戦力分布と進行方向を示す矢印が書き込まれる。願わくば防御線の構築を“灼陽”の所まですることが出来れば、戦闘に参加するか不透明な“灼陽”を防衛することも出来る。やはり第一に護るべきは非戦闘民が多く住む『昇龍の頂』であり、『ポッシヴィ』であった。
「では、その戦術を採用しましょう。カルキノスさん、淵さん、よろしくお願いします」
「おうよ、任せときな!」
「お二人の護衛は我々が請け負おう」
カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と夏侯 淵(かこう・えん)が決意を表明し、作戦会議は閉会となった。
「さっき天秤世界の地図を見ていた時にね。そういえば最初に地図を見たとき、天秤なら支柱というか中心部分があって、契約者の拠点は丁度二つの陣営の間に位置していたから、まるでこの世界が天秤に見えると感想を抱いたことがあったなぁ、って思ったの」
出撃前のちょっとした空き時間を利用してやって来たルカルカが、パイモンとロノウェに思いの内を語る。
「天秤の皿は今は契約者側と天秤世界側、に変わってしまったけど、役割は変わらないと思う。私達は天秤の調律者。天秤を傾け切ってしまう事は、出来るだけ避けたい。
天秤世界は……『天秤宮』はまるで自分が負けて消滅しても構わないように私には思える、でもこの世界だって長い間、争いを管理するという目的を果たしてきた。それをみすみす消滅させるのもどうなの?
私は、この世界をイルミンスールと繋げて、私達の世界の横に有る小世界として生き残らせることは出来ないか、って思うの。それはミーナさんのやろうとしている事に反しないと思う」
ミーナの案は、天秤世界の力をイルミンスールに送る、であり、イルミンスールに重きが置かれている。対してルカルカは天秤世界の方にも目を向けていた。イルミンスールが役割を引き継ぐのであれば天秤世界の存在は小さなものとなるが、その規模をどこまでにするか。本当に小さな存在とするべきか、それともある程度の規模とするのか。ルカルカの話はそういう意味も含んでいた。
「……世界樹に少なからず関わりのある私から意見させてもらえるなら、天秤世界の役割と天秤世界の維持を両方取るのは厳しいのではないか、と思いますね。
天秤世界の力をイルミンスールが得れば、天秤世界の役割を引き継がねばならぬのは必定。そして天秤世界の維持はイルミンスール単独の問題となるでしょう。維持するのはイルミンスールの勝手となりますが、果たしてイルミンスールにそれだけの余力があるか。……それを考えると、天秤世界の維持はごく最小限に抑えた方がいいのでは、と思わざるを得ません。
あるいは誰かが管理者となるのであれば……今ルカルカさんが仰った事も現実的になるやもしれませんが、我々が今口に出来るのはこの程度でしょうか」
「……そう、ね。ごめんなさい、結論を自分の中で完結させちゃってたみたい」
話を引っ込め、ルカルカは話を聞いてくれてありがとう、と礼を言い、そして互いの健闘を願ってその場を後にした。
「俺達のすぐ背後にはポッシヴィ……つまりここが、最終防衛ラインってわけか。
……反撃の目処が立つまでは、お前もそうそう前に出ることは無いと思いたいが?」
「おや。それは一体、どういうことでしょう」
「分かっているくせに、とぼけるな。まったく……。
あぁ、報告しておく。独自に情報を得るためにアニスとリモンに『ブラックバード』に待機してもらっている。正しく情報を得ないことには、力を発揮出来ないからな」
佐野 和輝(さの・かずき)の報告に、パイモンが了解の頷きを返す。ミーナが意識を取り戻し、契約者の拠点が通信の拠点としても復帰しつつある旨は語られていたが、未だ完全な復旧には至っていない以上、こういった措置は必要であった。
「拠点といえば、例の、ミーナが提案したという意見……これには“鍵”をかけておこうと思う。世界樹が絡む情報は、知られてはマズイ時もあるだろうからな」
和輝の懸念は、この時に至るまでに幾度と無く、潜在的に敵となり得ている存在の妨害が確認されている事による。本当は全ての情報をオープンにした方が共有は早いが、いつどこで敵がほくそ笑んでいるか分からない以上、万全を期すべきであった。
「ううぅ〜〜〜、和輝のばかぁ〜〜〜!!」
その『ブラックバード』内では、アニス・パラス(あにす・ぱらす)がすっかりむくれ顔でいた。和輝と別行動であることに加え、天敵とも言うべきリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)が座しているのだから不満は二倍どころか二乗である。
「……ふむ、これがマガメ族とヴォカロ族の模倣とやらか。大きさは異なるが両方共機械生命体であるように思えるな」
一方のリモンはというと、アニスが自分を嫌っているのを理解しているがそれだけのこととみなして、集まってきた情報のうち『天秤宮』から降りてきた敵のデータを閲覧し始める。それぞれ『Cマガメ族』『Cヴォカロ族』と命名されたそれらは、片方は大きいものでイコンの数倍あり、もう片方は人の姿に酷似していた。しかしその両方が身体に直結した加速・飛行機能を持ち、外部からエネルギーを供給されている様子も無いことから、自立の機械生命体のようなものとリモンは結論付け、その結論に基づいた対策を提示してやる。
「アニス、これを頼む。少しは役に立つはずだ」
「…………」
アニスは無言のまま、飛んできた情報を分析する。確かに交戦前の契約者にとって、戦わなくてはならない相手の情報は有用であったため、アニスは早速その情報を各地へ拡散させる。
コンソールに触れたアニスの手に紋様が浮かび上がり、キーを打たずとも情報が処理されていく。その様は陳腐な表現ながら、『電子の妖精』であると言っていいだろう。
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