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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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 というわけで。
「桃子さんでしたら、地下室で悪い方たちと悪だくみをしている最中ですのでお会いできません」
 極西分校で活動している御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、そう告げた。彼女は、引き続き赤木桃子から受け継いだ委員長の代行として校内統治に当たっている。彼女の権威は損なうことなく保たれ、委員会は正常かつ健全に運営されていた。分校生たちは、そもそも決闘委員会に委員長がいるということにほとんど注意を払っていなかったので、代表者が舞花に代わっても決闘システムに疑問を持つ者はほとんどいない。
 分校では、防災訓練の後も通常通りの決闘システムが適用されており、慣れている生徒たちはこれまでと変わらない日常を送っていた。
「決闘委員会委員長としての判断が必要なお話なら私がうかがいますよ、校長先生? そのために呼んだのでしょう?」
 舞花は、ソファーに腰掛け出されたお茶をのんびりとすすりながら言う。
 彼女は、分校内に急遽設置された分校長室にいた。
 新しく分校の校長に就任したシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が、決闘委員会の改善について委員長と会談を求めてきたのだ。
「オレは、“委員長の赤木桃子”と取引がしたいんだぜ。居場所を知っているなら連れてきてくれ」
 シリウスは、舞花に言う。
 あの後、シリウスは校長職をこなしながら桃子を探していた。先日とは違い、権力もコネも出来たのに見つからないのでどういうことだろう、と思っていたら地下室にこもっていたとは。
 同時に、シリウスは、桃子が堂々と彼女らの前に顔を出せないとは情けないしみっともない、とも思った。これだけ統率のとれた大きな組織の長が逃げ回っていては示しがつかないのではないだろうか。そして、代わりの人物を立ててごまかそうとしている。やましいことがないなら、出てきて自分の主張をすればいいのだ。
「桃子さんは、今はただのパラ実女子の一人にすぎません。私からも委員会への出禁を言い渡してありますので、しばらく姿を現すことはないでしょう」
 舞花は舞花なりの考えがあって委員会を運営していた。委員会は、舞花が分校に現れる前から桃子がいなくても活動ができる組織になっていた。委員会は、もはや意志を持った組織と言ってよく、例え頭を失ったとしても分校内で依然として勢力を保ち少しずつ改変しながら生き延びていくのではないか。
 ならば、さらに効率よく改革にしてみるのも悪くはないのではないか、と舞花は考えていた。彼女も、そのうち分校を去る。いつまでもパラ実に居続けるわけにはいかない。その時、桃子が戻ってきても来なくても、委員会が存続できるようにしておいたほうがいいだろう。委員会の前身は、怪しい闇組織であったとしても、現在の委員会は分校に無くてはならない組織だとみなしていた。
「筋が通らないと思わねえか? これまで好き勝手やってきて、都合が悪くなったら他人に責任を押し付けて自分は後ろに隠れているってな。汚ねぇ権力者と同じじゃねえか」
 シリウスは眉根をひそめた。話を聞けば聞くほど、好ましい人物には思えない。もしかして、本当にあの収穫祭で助けて損したかもしれない。
「そうですね、シリウスさん。それもまた権力者の姿なのですよ。ましてや桃子さんは裏の権力者です。表に出てくるはずがありません」
 舞花は答える。
「オレは違うぜ。正面から堂々と相対したいんだ。みんなとな」
 シリウスの言葉に舞花は頷く。
「ご立派だと思います。表と裏とですみ分ければいいんじゃないでしょうか」
 舞花が言うと、シリウスは小さく首を横に振った。
「その理屈は通用しねえだろ。決闘委員会はすでに表の世界で生徒たちに対して権力を振っている。分校の統治システムとして我々が管理して改善するべきだろう」
「熱意と好意はありがたくいただいておきますけど、シリウスさんは、校長として決闘委員会には関わらないほうがいいと思いますよ。ご自分の地位を第一に考えるべきです」
「なんだと?」
「私も、桃子さんと会ったときに最初に言われました。決闘委員会は綺麗ごとじゃ済まない、と。代行として勤めてみてその言葉が本当だったとわかります。生徒たちからの嫌われっぷりが半端じゃないですよ。むしろ憎悪の対象にすらなります」
 舞花は、委員会活動に精力的に関わった経験を例に挙げた。
 冷静沈着に公正厳格に、校内の争いを裁けば裁くほど、委員会は嫌われる。争っている者たち同士にだって正しいか間違っているかはさておきそれぞれの言い分があり、抑えきれない感情の発露から喧嘩をするのだ。あるいは、分校生たちはパラ実生の例に倣って野獣の縄張りやマーキングのアピールのため争い合う。それらは動物的本能でもあり生理的欲求でもあり、分校生たちがパラ実で生きていく上で欠かせない活動なのだ。
 決闘委員会は、そんなモヒカンたちの本能を半ば恐怖で抑え込んでいる。分校には決闘委員会より強い集団がいない。だから皆が従っているだけで、納得していない生徒も少なくない。その敵意はおのずと組織のリーダーに向くことになる。
 敵意を一身に受けたくないのも表に顔を出さない理由の一つ、と桃子は舞花に密かに伝えていた。
 生徒たちから敵意を向けられると、つい殺してしまうかもしれないから、と。守るべき生徒たちを、パラ実生の本能のままに殺したくなる。それを繰り返して暗黒道へと転落してしまう、と。
 妙に説得力がある、と舞花は思わず同意してしまいそうだった。
 言っちゃ悪いが、パラ実には本当に葬りたくなるような連中がゴロゴロいる。人類のためにすぐに死んだほうがいい、どうしようもないゲスや人間失格のクズが、本当にいるのだ。何の会話も通じない、人の心も分からない、モヒカン以前の獣同然の生き物が。
 舞花は、委員会活動を通じてそういった者たちといやというほど遭遇した。そして、殺すことなく葬ることなく争いの仲裁してきたのだ。生かしておいたら必ずまた同じように誰かを傷つける。ルール通りに判定してあげても、何の益にもならないモヒカンたちなのに。
「分校生に感情移入してはいけない。自分たちも分校生なのに。それが決闘委員会の宿命なのです。仮面でもつけていないと現実を見ていられませんよ」
 舞花は、淡々と感想を述べた。
「ああ、そうだろうな。だが、改めて聞かされるまでもなく、それくらいオレも承知の上なんだぜ」
 シリウスは、何を今更とばかりに答えた。
「悪も罪も、全てオレが引き受けてやる。すぐに結果が出るとは考えちゃいねぇ。こちとら、校長の就任を決めた時から腹くくってんだぜ?」
 確かに赤木桃子はかつて悪党だった。だが、決闘委員会の活動成果は、シリウスも認めていた。一地域とはいえ、パラ実で規則による秩序ができていることは評価する。だから、後は自分が委員会をひきついで時間をかけて改善するつもりなのだ。
「だから、赤木桃子を呼んできてくれ。オレは二人同伴での話し合いでも構わねえ。ここで方針を決めておかないと何もできないだろ」
「すばらしい心意気ですし、私も同感です。でも、やはりシリウスさんは関わらないほうがいいんじゃないでしょうか?」
 舞花はためらいもなく言った。
「賭けに負けた挑戦者に、『賭けは自己責任。お前は自分を顧みず無駄な欲をかいて無謀に賭けたから敗れたのだ。去れ』って言えますか?」
「そんなこと言う分けねえだろ。そもそも、何が勝ちで何が負けとか、ばかばかしい……」
「でも、それを普通に言ってしまえるのが決闘委員会なのですよ」
「うん……?」
「あなたは、善良で慈愛の心も持っているから、分校を治める役柄に推薦されました。ですが、パラ実では、その良さはマイナスなのです。分校と決闘委員会は後ろ暗いことも含まれています。黒い部分は適任者に委ねておくのが一番いいと思うのですよ」
 舞花は考えながら言った。
 委員会を公式の組織にするのは難しくない。運営資金面でも助かるだろう。だが……。
 例えば、【ハカセ】をどうする? と舞花は考える。
 とある国で犯罪を重ねて逃亡中の凶悪犯人。桃子だけでなくお面モヒカンの中にも犯罪者が数多く含まれている。
 彼らは決闘委員会を動かしていくには欠かせない存在だ。これまでの過ちは価値観のすれ違い。確かに法は法だ。遵守することが当然正しいことくらい言わなくてもわかっている。だが、パラ実には当てはならないのではなかろうか? と彼女はにわかに考えるようになっていた。
 何が全で何が悪なのか、パラ実では決まっていない。舞花たちの正義は、必ずしもパラ実では正義とは限らないのだ。逆もまたしかり。多くの分校生たちは、パラ実の正義に従っている。
 その価値観の違いを、シリウスは受け入れられるのだろうか、と思った。何でもかんでも『正しい道』だけで解決しようとすると、分校は多くの大切なものを失うことになる。
 ハカセは正当な法により捕縛され、元いた国へと送還されるだろう。そして、刑が執行される。お面モヒカンたちも同様だ。それが果たして良い選択なのか?
 いざとなれば冷たいリアリストに徹することができる舞花は、分校の今後を考えるなら世間一般の法や常識よりも分校の持つ混沌のほうが重要ではないか、と言った。
「もちろん、わかってるぜ。オレだって杓子定規に考えるつもりはねぇ。分校生の価値観を否定もしないし、できうる限り理解しようとするさ。必要なことは柔軟に対応することを約束する。だからこそ、はっきりさせておくべきところははっきりさせておきてぇんだ。価値観の違いが会えない理由にならない、と桃子に伝えろ。オレは待ってるぜ」
「わかりました。この件は一旦持ち帰り十分検討の上、改めてお返事いたします」
 舞花は、即答は避けて一度引き上げることにした。
 これはうやむやにはできず、真剣に考慮する必要がありそうだ。
 だが、同時に宇宙で起こっている危機の話も聞いている。分校は分校なりに早急にカタをつけなければならない。正念場であり、舞花の腕の見せ所でもあった。
「分校を良い方向へと導くことができればいいですね」
 舞花が言うと、シリウスも頷く。
 その直後、分校を破壊するものたちが現れた。