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合同お見合い会!?

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合同お見合い会!?

リアクション

「ええと……これ、でいいのかな? あー、あー、こほんっ。マイクテス、マイクテス」
 いぐさの香る和室にはまるで不釣合いな、映写機に似た複雑な装置から、桜井 静香(さくらい・しずか)の姿が浮かび上がった。
 フリルのスカートをきわどい位置でふりふり揺らしながら、立体映像の静香は足元の機材をいじる。
 百畳ほどもある和室に集まった、服装も容姿もさまざまな高校生たちは、そんな静香を目の端に捕らえながら、そわそわ、うずうずと、部屋のそこかしこに視線を泳がせていた。
「あうあう、ボタン多すぎだよぉ。でも下手にいじって壊したら、蒼空の技術部さんに怒られる……」

「ひゃああ、静香ちゃんスカートおさえてー。あー、見てるこっちがどきどきしちゃう」
 ふすま張りの出入り口から遠い、上座の席についた高務 野々(たかつかさ・のの)が、陽気に笑って言う。
 けれど、隣に座った高原 瀬蓮(たかはら・せれん)はただうつむいて「はい」と見当違いなせりふを返しただけだった。
「……瀬蓮ちゃん、元気出してくださいよ。ね?」
 ぽんと野々が手を握っても、瀬蓮は相変わらず顔を上げない。
「ご心配なさらないでください。高原嬢。たとえこの縁談がどう転ぼうと、あなたへかかる不利益は私が防ぎます」
 日本人離れした長身、出るところの出た妖艶な体つきを、黒い細身のスーツでぴしりと包んだガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、サングラスの奥の瞳を静香に向けたまま言った。
「お見合い世話役のプロとして、雇っていただいたのですから」
 瀬蓮の傍らでそう言い切ったハーレックは、服装もあいまって、信頼できるスゴ腕のSPそのものだった。傍らに不安げなお嬢様が座っていなければ、ロシアン・マフィアの女ボスに見えただろうが。
「どう転ぼうと、と言うがな、ハーレックとやら。見合いの相手がこうして遅刻している時点で、もう最初から躓いているではないか」
 正座を軽く崩し、片手を畳についたけだるげな格好で、和服姿の姫神 司(ひめがみ・つかさ)が楽しげに茶々を入れる。
 好奇心に輝く猫のような瞳は、静香でもハーレックでもなく、背後のガラス越しに見える、見事な日本庭園にむけられていた。
「確かに、無理やり呼ばれたお見合いで、相手に待たされるなんて理不尽な話ですよね。ほんとにまともな方とは思えません」
 野々の隣で、エルシア・リュシュベル(えるしあ・りゅしゅべる)が憮然とした声でつぶやき、
「あの、みなさん……それじゃあ瀬蓮さんがますます不安になっちゃいますよ……?」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が制止をかけた。
「お相手の方、ちょっと調べてみましたけど、一応きちんとしたご身分の方ですし。それに」
 セリナは身を乗り出して、ウエイブのかかった青髪に縁取られた優しげな笑顔を、瀬蓮に向けた。
「何もこの場で、急いで答えを出す必要はないんです。今日はちょっと顔を見て、ゆっくりお話でもしてみて、気が合いそうなら、文通でも始めてみたり、ね。……もし、誰かが瀬蓮ちゃんの答えを急がせるようなことがあったら……」
「――無論、守り抜きます」
 ハーレックが、セリナのあとをピシリと継いだ。

 ※

 料亭の和室には、部屋の中央を大きく開けて長テーブルが二列並べられていた。
 座椅子はひとテーブルにつき40ずつ、テーブルを挟んで向かい合わせに配置されている。そのため70人超の学生たちは、ひとつのテーブルにつき30数名ずつ、二グループに分かれて、偶然正面に座った生徒と向き合っているのだった。
「あたしさァ、会場が上品な料亭だって言うから、たらふく飯食えるとは思ってなかったんだよ」
 するどい八重歯をちょんと覗かせながら、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)はある一点を見つめていた。大きく開けられた部屋の中央、バイキングスペースに並べられた、和洋折衷ご馳走の山である。
「下調べが足りないぜ。ガイドブックによれば、料理も設備も融通が利くのがこの料亭のウリだ。桜井静香は、俺たち若い学生が上品な日本食じゃあ満足しないだろうことを、よおくわかっていたわけだ」
 細身のダークスーツに身を包み、純白の前歯をきらり、きらめかせて、ミューレリアの正面に座った高碕 湊(たかさき・そう)が言う。そのまま映画になりそうなほど、身振りも身なりもかっちり決まっていたが、朱塗りの箸片手に食べ物のことを語る二枚目はどこか優雅さに欠けていた。
「マジでェ? んじゃあさ、酒もあるかな、酒」
「酒……は難しいんじゃないか? 一応高校生の合コンだし」
「えぇえー、そりゃねえよー。ワインがなくても紅茶は飲まんぜ、あたしは」

「あー、もうこれでいいかな。はーい、ではでは皆さん、お待たせしました。これより、百合園女学院主催、合同お見合い会を開催したいと思いまーす!」
 ぴっと姿勢を正し、くるりと会場を見渡して、立体映像の静香が言った。
 そこかしこをそわそわと泳いでいた学生たちの視線が、待ちくたびれたとばかりに集まる。
「学校の都合もあるのでボクは参加できないけれど、費用は全部学院持ちですから、食べて飲んで騒いで、好きなだけ楽しんでくださいね!」
 ぱちん、と静香は手をひとつ打った。
「みなさんに、良き出会いがありますように!」

 わあっ、という歓声がはじけたのと同時に、百合園女学園の校長室で、静香は装置のスイッチを切った。
「大丈夫なの? 好きにやらせちゃって。パラ実のヤンチャな子達に、圧力の一つもかけておいたら?」
 校長の椅子にふてぶてしく腰掛けたラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が、妖艶に微笑んで言った。
「ううん、いいんです。守りに関しては、うちの【白百合団】がいるし。【ひまわり組】に【白き盾】って、他校の子達も自警団を作って動いてくれてるみたいだし」
 それに、と静香は微笑んで続けた、
「ちょっとは騒ぎがなきゃだめなんですよ。瀬蓮ちゃんも、逃げ回ってるばかりじゃいけないんです」
「あら、らしくなく過激な意見ね?」
「うん。うまくいくって確信してますもん。だってこのお見合いが始まるまでに、何人がボクや【白百合団】に協力を申し出てくれたと思います?」
 静香は、メールアドレスの書かれた名刺やメモ用紙、果ては「お見合い世話料」と書かれた身勝手な請求書の束を、楽しげに眺めた。
「ほんと、おせっかいな人ばっかりあつまってるみたい。……瀬蓮ちゃんは幸せ者だね」