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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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第7章 シュレディンガーの魍魎

「さて美衣弛馬鈴第一試合の様子ですよ。今大会最大の強豪、あーる華野 筐子さんのチームと、同じく強豪、巫丞 伊月さんのチームの対決です」

 この暑いなか、筐子は段ボールをかぶっているのにやたら元気だ。段ボールにはバレーボールっぽいゆるキャラまで描いてある。

「体育の授業で習ったイナズマ嵯唖舞!」
「体育の授業で習ったイナズマ武露津苦!」
「体育の授業で習ったイナズマ霊死威舞!」

 先制する筐子チーム。しかし伊月には余裕があった。
 筐子が後ろを向いたとき、伊月は大げさにこう言った。
「あらあら、段ボールの中、想像より可愛いのねぇ〜。隠れてないで出てくればいいのに。ぅんふふふ〜♪」
 完全なハッタリだ。声から想像して言ってみただけ。それで充分効果はあった。筐子はぎこちなく振り向いて答える。
「わ、ワタシ、段ボール・ロボダヨ。中に誰もイナイヨ」
 そこからはもう、筐子はいかにもロボットといったぎくしゃくとした動きになってしまって、パートナーであるアイリスの努力ではどうにもならなかった。
 Aブロックの勝者が決まった。


第8章 たったひとりの冴えた殺り方

 大会運営本部に入り込んだ瀬島 壮太(せじま・そうた)はその光景に慄然とした。内部はめちゃくちゃに荒らされ、4人の男が倒れている。
 壮太の目的は大会に参加している女の子にカキ氷を売ることだったが、どうも大会に入るのは難しい。そこで目線を変えて大会運営の人間や男たちに売ろうと考えたのだが、この有様だ。
 階段を上っていくと、上のほうからは途切れ途切れに銃声が聞こえ、そのたびに誰かの悲鳴と倒れる音がする。
 3階に着いた。あたりに段ボールと倒れた生徒たちが点在し、階段付近の段ボールの影に大鋸一行が身を潜めているのがわかった。椎名 真(しいな・まこと)が状況を分析している。
「たぶんパラ実5大クラスというのはローグ、ソルジャー、ウィザード、バトラー、メイドの5つのクラスのことだね。そのうちローグとウィザードのふたりは倒した。
 この階を守っているのはソルジャーで、パートナーはゆる族だと思うな」
 姿を隠しながら狙撃してひとりひとり始末する。たったひとりで多数の敵を相手にしようとするなら、そうでもしないと勝てるわけがない。女の子のはしゃぐ美衣弛馬鈴大会ではなく、この大会運営本部こそが男たちを誘い込む魔窟であったのだ。
「実際姿の見えないスナイパーの有用性は歴史的にも証明されているんだよ。フィンランドのスナイパー、シモ・ヘイヘは第二次世界大戦中ソ連兵を500名以上殺害したと伝えられ……」
 この話を聞いて一行が思ったことを要約するとふたつ。

 一、真はホントなんでもしってるな。
 二、そんな強敵じゃ俺たち全滅だ。

「まあ待ちな! 俺ならスナイパーの居場所がわかるぜ!」
 悲壮感あふれる一行に声をかける壮太。
「“禁猟区”だ。そのかわり条件がある。おまえたち、俺のカキ氷を買え」
 拒否すれば死ぬしかない。皆粛々として(定価より高い)カキ氷を腹に収めた。満足した壮太は敵の位置を探る。
 いた。あの段ボールに隠れながら、ゆっくりと移動を続けている。
 信一郎が段ボールにむかって射撃し、パートナーであるシーマ・アール(しーま・あーる)が剣を抜いて切りかかる。信一郎の銃弾で段ボールに穴があき、そこから銃口が見えた。箱の中の狙撃手はもっとも身近にいる敵、つまりシーマに照準を合わせている。
「あぶないっ!!」
 真は皆に認められたい一心で駆け出し、銃弾を肩に受けてふっ飛ばされた。シーマはそのまま段ボールに駆け寄り、箱の上から剣をつき立てる。「あぶぅ」という断末魔が聞こえ、それで狙撃はおしまいになった。