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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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四条河原町を巡る『木』のコース



 四条河原町。
 その名が示す通り、四条通と河原町通が交差する所にある、京都最大の繁華街である。

 人の賑わう通りを歩くのは『木』を司る十二神将、六合(りくごう)
 チョビヒゲをたくわえた大兎で、シルクハットに蝶ネクタイを締めている。その姿は紳士的と言えばそう見えるし、うさんくさいと言われればそう見える。そんな大兎が繁華街を歩いていては、なにやら一騒ぎ起きそうなものであるが、世間様はゆるキャラの着ぐるみだと思ってスルーしているようだった。
「ハンドバッグの業者ってのは、いざ探してみると見つからんもんやなぁ……」
 ため息まじりで呟く六合の横で、大きなキャリーバッグがかたかたと揺れた。
「ちょ、ちょっと。あんま動かんとってや、青龍(せいりゅう)はん」
「あのぅ、まだ美味しい京料理のお店には着かないんですかぁ?」
「あ、ああ。もう少しや。今日はごちそうしたるさかい、そこでゆっくり眠っとって」
 と言うのは勿論嘘だ。
 六合は青龍をハンドバッグにして売り飛ばすと言うビジネスプランを持っているのだ。
 嘘八百で青龍をだまくらかし、革の加工業者を捜して通りを右往左往しているわけである。
「業者を捜してるんですか?」
 ふと、六合に声をかけたのはガーデァ・チョコチップ(がーでぁ・ちょこちっぷ)だ。
「……もしかして、さっきの独り言を聞いとったんか?」
「ちょっと聞こえてしまって。良かったら探すのを手伝いましょうか?」
 金持ちそうな外見のガーデァを見つめ、六合はなにやら不純な考えを巡らせた。
「じゃあ、一つ頼むわ、お坊ちゃん」
 ……金持ってそうな奴とは友達になるに限るわ。後でなんかおごらせたろ。
 悪い顔を浮かべる六合であるが、しかしまあ、お互い様である。
 ガーデァも単なる善意で、こんな申し出をしているわけではないのだから。
「絶対に助けてあげます! 青龍ちゃん!」
 ガーデァは内心そう呟いたのだった。


 一見、仲良く通りを歩いている二人は、ふいに茶店の前で呼び止められた。
 呼び止めたのは、茶店の前の長椅子に腰を下ろす蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)だ。
「……わいになんか用か?」
「あんたが噂の六合ね……。耳寄りな儲け話があるんだけど、ちょっと聞いていかない?」
 素性の知れない少女にそんな事を言われても、ちょっと聞いていきたくない。
 しかしながら、金にまつわる言葉に滅法弱い六合は別であった。
「……ビジネスって、どんな話や?」
「難しい話じゃないわ。あたしが、あんたを、買収するって話よ」
「な、なんやて!」
「落ち着いてください、六合さん」
 路々奈のパートナーのヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)が優しく声をかけた。
 場を和ませるために、彼女は大正琴で古風なメロディーを奏でている。
「良かったら、八つ橋はいかがですか? 美味しいお茶もありますよ?」
「いらんわ。ちゅーか、買収するってどう言う事やねん?」
「だから、お金をあげるから、あたしの言う事を聞けって事よ」
 路々奈はお金の詰まった鞄を無造作に置いた。
 彼女がパラミタ大陸の冒険で稼いだ大金。その額、約13000G。
 実に魅力的な話ではあるが、あまりにも魅力的過ぎる話だった。
「ま、まさか……、お前ら、わいの身体を狙って……!」
「んなもん狙うか!」
 思わずツッコミを入れる路々奈であるが、関西圏で行うツッコミはなんだか緊張するものである。
「お金をあげるから、青龍を解放しなさいっての!」
「……ははあ。お前ら、力試しに来たっちゅー、蒼空の生徒やな!」
 事態を理解した六合は、大金の入った鞄を引ったくり、慌てて走り出した。
「あたしのお金!!」
「まあ、ちいと考えてみるさかい、なんぼか前借りさせてくれや!」


 とある喫茶店に逃げ込んだ六合とガーデァは、しきりに窓の外を確認し、追っ手を警戒していた。
「……おおきに。かくまってくれて助かったわ」
「かくまうために、ここに連れ込んだわけじゃない。おまえの計画をやめさせるためにだな……」
 テオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)は憮然として言った。
 ドラゴニュートの彼にとって、青龍ハンドバッグ化計画は他人事とは思えない。
 六合の考えを改めさせるべく、彼は説得の言葉を紡ごうとした。
「青龍をハンドバッグにして売り出すつもりとか……?」
 だが、先に口火を切ったのは、相棒のアルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)だった。
「面白い話だがビジネスとしては小さい。素材を食いつぶし一時的な利益を得るビジネスなど下の下……」
「わ、わいの商売にケチ付けるんかいな?」
「い、いや、アルフレート……。何かキャラ違っていないか……?」
 困惑する二人には構わず、彼女はは言葉を続けた。
「青龍をゆるキャラマスコットとして売り出せばどうだ。土産物のグッズからイベントへの出演依頼、果ては絵本を出して印税生活だって夢じゃない。他の四聖獣も売り出せば、バッグの利益など比較にならない。四聖獣も知名度が上がり、地域も活性化し、六合の懐も暖まる。皆にとって利益になる事こそ、真のビジネスだ……!」
 なんだか説得の方向が違うようであり、実は正しいような気もするビジネス論である。
「しかしなあ。そんな壮大なビジネス、手間がかかるわ。わいは商売が好きなんと違う。金が好きなんや」
「……私の話を聞いていなかったのか? 莫大な利益が得られるのだぞ?」
「楽に稼ぐ。それがわいのポリシーや」
 それだけ告げると、お茶代を踏み倒して六合たちは去った。
 残された二人は呆然としていたが、テオディスの呆然の中身はちょっと違っていた。
「……何か、アルフレートの新発見をした気がする」


 アルフレート達と別れた後、業者を探して街をさまよっていると、ガーデァの携帯に連絡が入った。
 業者と連絡が取れた、と言うガーデァに案内され、やってきたのはとあるホテル。
「ようこそ、お客様。信頼と実績のハンドバッグ専門店『ひやま』でございます」
 仕立ての良いスーツに身を包み、六合を迎えたのは緋山政敏(ひやま・まさとし)である。
 ホテルのロビーで二人の客と話し込んでいた彼は、六合を見つけるとにっこり微笑んだ。
「なあ、あんた。この店はどないや?」
 六合は本題に入る前に、客の女性に小声で尋ねてみた。
「私も色々とお世話になっているわ。契約面もしっかりしているし……」
「金のほうはどうや? 高く買い取ってくれるんか?」
「それは勿論。何より換金率が他のお店とは違います。お金の入り方が違いますから」
 評判は上々のようである。
 それもそのはず、この客は政敏のパートナーのリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)である。
 六合に政敏を信用させようとサクラに扮装し、サービス面の良さまでしっかり伝えた。
 話を聞いて、どうやら六合はこの店を気に入ったようだ。
 キャリーバッグのジッパーを下ろし、中でうたた寝をしている青龍を見せた。
「お客様。何と見事な。良い素材をお持ちですね」
「せやろ? ハンドバッグにしたら、ええ感じになると思うで」
 政敏はビジネスライクな笑みを返し、如何に自社が良心的かつお客様第一であるかを説明した。
 買い取り金額の高さ、専属のバイヤー契約の話。そして、似たような素材があれば買い取る旨を。
 それを聞いた六合が、他の十二神将を思い浮かべて悪い顔をしたのは言うまでもない。
「では、素材の鑑定を致しますので少々お待ちを……」
 そう言った政敏は、いつの間にか青龍が目を覚ましているのに気がついた。
 六合に気取られないように、政敏はそっと青龍に耳打ちした。
「無事で何より。今度は六合の奴を『助けて』やりたいから顛末を見ていて欲しい」
 政敏はもう一人のパートナー、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)を呼んでキャリーバッグを預からせた。
 ちなみにガーデァに連絡を入れたのは彼女である。
「こちら粗茶です。しばらくお待ちくださいね」
 政敏とカチュアはロビーから離れ、気がつけばリーンも姿を消していた。
 残されたのは、六合とガーデァ。そして、もう一人の客天黒龍(てぃえん・へいろん)である。
「青龍のハンドバッグか、興味深いな……」
 黒龍がわざとらしくそう言うと、六合は上機嫌で話に乗って来た。
「……聞きたいのだが、この店に幾らで青龍を売るつもりだ?」
「せやなぁ。相手の出方次第やけど、百万円ぐらいになれば……」
「百万? 随分と弱気だな。十二神将なら、もっと高く売れるはずだぞ」
「ほんまに? じゃあ、三百万ぐらいで……」
「三百万? 物の価値も知らずに言っているのか?」
 黒龍が値上げを促す度に、六合は調子に乗って値を釣り上げる。
 やがて、その価格が日本の国家予算を上回ると、黒龍は呆れた顔でため息を吐いた。
「まだ気付かないのか?」
「なにがや?」
「どれだけ値を釣り上げても、本来の価値に見合う金額等存在しないと言う事だ。十二神将は、人間如きの金で扱うべき存在ではない。青龍も、そしておまえもだ。金で買って良い物と悪い物がある事くらい学んでおけ」
「あ、あんたもわいの計画を邪魔する一人やな……!」
 唐突に叱られてしまった六合は、険しい目つきで黒龍を睨みつけた。
「けどもう遅いわ! 青龍はもう業者に……」
 と言いかけて、青龍を預けてから随分と時間が経っている事に気がついた。
 思い返してみれば、政敏はきちんとした書類も見せず、名刺すら持っていなかった。
 六合がある結論に到達するのに時間はかからなかった。
「し、しまった! 騙されたんや!」


 六合は慌てて政敏の臭いを辿り、着いたのはホテル内の倉庫のような部屋であった。
「くおら! クソ業者! わいの金づるを返さんかいっ!」
 暗い倉庫の中にズカズカ入っていくと、背後で扉が閉まる音が聞こえた。
 驚いた六合は引き返そうとするも、ガーデァが六合を抱きしめて放さない。
「な、何するんや、坊ちゃん!」
「ふっふっふ。この時を待っていました。逃がしませんよ、六合ちゃん」
 暗闇に包まれた部屋に、ふとスポットライトが光を落とした。
 照明の下で紙芝居を持ち、佇む彼の名前はシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)
 紙芝居には『六合の今後について』と不吉なタイトルが冠されている。
「……さて、こいつはまんまと罠にかかった性悪兎の顛末の話だ。ゆっくり楽しんでくれ」
「……な、なんや。ふざけるのはやめてや」
 ただでさえ暗闇が六合を不安にさせるのに、紙芝居からは何か禍々しいものが立ちこめている。
「ハンドバッグにこだわりがある六合に、俺たちは素敵な未来を用意してやろうと思う。つまりハンドバッグになる未来を……。よく見れば六合もなかなか上等な毛皮を持ってる。これはもしかしたら、青龍のハンドバッグより高く売れるかもしれないなぁ。ラビットファーブームもまた来るかもしれないし……」
 シルバがそう言った瞬間、シャコンシャコンと刃物を研ぐ音が聞こえた。
「ひええええええっ!!!」
 六合は恐怖のあまり頭を抱えてうずくまってしまった。
 音の主はシルバのパートナーの雨宮夏希(あまみや・なつき)である。
 巨大な出刃包丁を研いで、紙芝居に臨場感を与えている最中だ。
「どうやって毛皮を剥ぐか知ってるか? まず逆さ吊りにしてだな……」
 シルバが次の絵を見せた瞬間、六合は悲鳴を上げてわんわん泣き始めた。
「おいおい。まだビビるには早いぞ。これからお茶の間には出せない描写が嫌と言うほど……」
「……なんかもう限界みたいですよ?」
 夏希に言われて、シルバはしぶしぶ部屋の灯りを着けた。
 部屋の中をよく見れば、本コースの参加者が全員集結している。
「ううう……。か、皮を剥ぐってこんなんやったんか……」
「……おまえなぁ。青龍をこんな目に合わせようとしてたんだぞ?」
 シルバが咎めると、六合は地面に頭をこすりつけた。
「わ……、わいは他人の痛みがわからん奴やった。か、堪忍や。堪忍や、青龍はん!」
 この千年、一向に成長しなかった彼は、この瞬間少しだけ成長した。
 少し成長した六合は、大切な事を気付かせてくれた生徒たちを認めてくれる事だろう。
 だが、その前に。
 深々と反省する六合に、路々奈は静かに近づき、そしてこう言い放った。
「……って言うか、あたしのお金返しなさいよ!」