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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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【2019修学旅行】安倍晴明への挑戦!

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鴨川を巡る『水』のコース



 鴨川。
 京都を縦断するこの川は、恋人たちの憩いの場として知られている。四条河原町の近くの、三条大橋から四条大橋までの河原には、多くのカップルが集まりおもいおもいの時間を過ごしている。


 まだ十二神将の現れていない河川敷では、生徒たちが平穏な時間を過ごしていた。
 緩やかに流れる川を見つめて、アンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)はぼんやりと散歩をしていた。
「こうしていると、シャンバラでの生活が夢みたいに思えますね……」
「あら、私の事を夢にするつもりですか、アンドリューさん?」
 パートナーのフィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)は頬を膨らませた。
「そうじゃないですよ、フィオ。なんだかほら、普通の日常って感じですから……」
「シャンバラの生活が、あなたの日常なんですよ。私がいる日常は普通じゃありませんか……?」
 フィオナはそう言うと、アンドリューの肩にもたれた。
 鴨川の特別な空気を感じ取ったのか、彼女はちょっとアンドリューに甘えているようだ。
「普通ではないですね。……特別に素敵な日常ですよ」
 二人は寄り添いながら、鴨川のほとりの散策を続けた。

 一方、御風黎次(みかぜ・れいじ)はパートナー達と、一般のカップルに混じりほとりに座っていた。
「京都って不思議です。世の中には、こんな風景もあるんですね……」
 ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)は息を漏らした。
 シャンバラにはない町並みが、彼女の目にはとても新鮮に映ったようだ。
「他にも見所はあるんだが……。まあ、忙しなく観光するよりは、こうしてるほうが俺は好きだな」
「なんじゃ、わらわをどこにも連れていかない言い訳か?」
「い、いや、時間が出来たらどこか案内するって……」
 ルクス・アルトライン(るくす・あるとらいん)に咎められて、黎次は弁解した。
「なら、わらわは一度、マイコとか言うものを体験してみたいのぅ」
「ああ、舞妓な。そうだな、明日時間が取れたら祇園にでも足を伸ばすか」
「美しいわらわを連れて歩けるのじゃ。ありがたく思うのだぞ?」
 そう言うと、ルクスは黎次の手に自分の手を重ねた。
 ルクスはからかっているだけなのだが、世の中にはそう思わない人もいる。
「……その間、私はどこかで時間を潰していましょうか?」
 ノエルが唇を尖らせると、ルクスは面白そうに目を細めた。
「そんな顔をするな。おぬしも一緒に美しさを競おうぞ」

 のんびり過ごす者もいれば、アクティブに過ごしている者もいる。
 島村幸(しまむら・さち)はパートナーのガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)と戯れていた。
「ガートナ、こっちだよー! 捕まえてごらんー!」
「はっはっは。幸、待ちなさい〜!」
 水辺で二人はぱしゃとぱしゃと水のかけっこなんかしている。
 80年代的トレンディードラマ世界がそこには広がっているのだった。 
「きゃ! 水が冷たいー。やったなぁー」
「そーれ、あはははっ!」
 文句のつけようもなく、仲睦まじいカップルである。
 ただ一つ、一般のカップル達の視線が不可思議なものであったのは、デートと言う事でお洒落して来たにも関わらず、相も変わらず幸が男にしか見えなかったためである。それは真に語るに忍びない。

 水辺で戯れる影はもう一組あった。
 白波理沙(しらなみ・りさ)リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)である。
 河原の小石を拾い上げると、リュースは川へ向かって投げた。
 石は水を切り、一段、二段、三段……、七段目を切った所で石は水面に沈んだ。
「七段ですか。少し腕がなまったみたいですね……」
「そんな事ないよ。すごいすごい。リュースにこんな特技があったんだね!」
「まあ、あまり自慢する機会のない特技なんですけどね」
 些細な特技であったが、褒められると悪い気はしない。それが理沙のような女の子ならなおさらだ。
「よーし、勝負だよ!」
 そう言うと、理沙は小石を拾って、どう投げようか考えた。
「水切りはあまりやった事がないんだけど……」
「なに、ちょっとしたコツがあるんですよ」
 リュースから石の投げ方を丁寧に教わると、理沙は大きく振りかぶって小石を川へ放り投げた。
 石は水面を跳ねて、一段、二段……、ガンッ……、十九段、二十段。
 二十段目で、石は水の中へ吸い込まれて消えた。
 途中、なんだかおかしな音が聞こえた気もするが、二人は特別注意は払わなかった。
「あれれ……、もしかして私すごい?」
「……て、天才!?」
 彼女の思わぬ才能を垣間見て、驚きと恥ずかしさにリュースは包み込まれた。
 もう水切りが特技だとは語るまい、プロフィールに書く情報が一つ消えた瞬間だった。
「ううん。リュースの教え方が良かったんだよ」
 少しばかりへこむリュースに、理沙は明るい笑顔を向けてくれた。
「理沙ちゃん……」
 その笑顔に魅せられて、リュースは自分の胸が高鳴るのを感じた。
 自然と伸びた手は彼女の肩にかかり、抱き寄せたいと命令してきている。
 ……ああ、身体が勝手に。彼女の気持ちも確認せずにこんな事……、卑劣だ。でも……。
 自問を繰り返すリュースに、理沙はどこか遠くを見る目で声をかけた。
「……リュース、あれなんだと思う?」
 きょとんとしてリュースが振り返ると、穏やかに流れる川の上に女性が立っていた。