百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

料理は愛情! お弁当コンテスト

リアクション公開中!

料理は愛情! お弁当コンテスト

リアクション



第2章 戦闘糧食をつくろう?

「本日はお弁当コンテストに参加していただき、皆さんにはお礼を申し上げますわ」
 全員が席に着くと、ラズィーヤが口火を切った。
「お料理教室に参加されている方にはその成果を発揮していただき、そうでない方も工夫を凝らしたお弁当を作っていただきました。わたくしもとっても楽しみにしてましたのよ」
「参加部門は2部門用意したけど、戦闘糧食部門の方は参加者が少なかったので、こちらから審査したいと思います」
 静香が言葉を引き継ぐ。
「では発表です」
 高務 野々(たかつかさ・のの)が中央のテーブルに、お弁当箱を二つ並べる。
 たった二つのお弁当箱。その後ろに制作者が立つ。
「はーい、こちらはイルミンスールからやって来ましたリポーターのはるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)です」
 マイクを顎の下に当てたらいむが、さっそくお弁当の前にやってくる。パラミタ一のアイドルになる修行の一環としての食レポだ。ちなみにらいむ自身は料理がヘタである。
「こっちに参加してくれた二人は、どっちも百合園女学院の生徒さんだね。それもお二人とも白百合団の団員さんだねー。……ええっと、あれ、こっちはお弁当、なのかな?」
「戦場と言えばスタミナ。それに食べ物に大事な鮮度を重視しましたわ」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の前に置かれているのは、箱に入った新鮮な──つまりは生のレバーである。おろしにんにくと、湯通しした韮を添えた一品料理だ。
 彼女は、そもそもお弁当というものがよく分かっていない。というより、料理など生まれてこのかた作ったことがないというお嬢様である。それでも器用なのか、見た目も焼き肉屋や酒屋で出てくるものとは一線を画し、高級料亭ででてきてもおかしくないような風情を漂わせていた。
「レシピを見て、レバ刺しというものを作ってみましたの」
「こ、これは詰め合わせたものっていうお弁当の概念を根底から覆す意欲作だね! ……もう一人のご参加は、こちらはおにぎりと……スープ……みたいな?」
「はい。戦場で食べるということで、片手でも食べられるものにしました」
 フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が作ったのは、一口サイズの色々な味のカラフルなおにぎりと、肉のパイ皮包みだ。別容器に入っているのは、何が入っているのか不明なくらいじっくり煮込まれたスープである。こちらも何故か不気味な色合いである。料理は飛び抜けて得意ではないかもしれないけれど、大切な人に作るつもりで心を込めて作ったのが伝わる。
 審査員達は早速二つのお弁当を食べに来る。今日の審査員はラズィーヤと静香に百合園生だけでなく、他校生も混じっていた。教導団の面々はやはり軍事学校だからか、見る目が厳しいようだ。
「オレは味が良ければそれでいいぜ! こっちのレバ刺しのが美味いかな。元々俺は辛いのが好みだしな」
「見た目で審査するなら、綺麗なものがいいですね。個人的には可愛い方が好きですが、糧食となると……料理に見えればそれで良いと思います」
 {SFL0010615#李 ナタ}の単純明快な感想とソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)の曖昧な感想。が、パートナーと審査で見るべきポイントを分担したグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は、栄養面で考えているので、二人の意見とは違うようだ。
「栄養価が高いものが大事なのは前提として、このにんにく臭はいただけないな。戦場では嗅覚が鈍る可能性があるモノは良くない」
 ややあって、審査員の間で結論が出たようだ。
 ラズィーヤがらいむから借りたマイクを握る。
「戦闘糧食部門の優勝はフィル・アルジェントさんに決まりましたわ。……わたくしとしては、やはり保存に重点を置いて審査させていただきましたが、ここは教導団からいらした方にご講評いただきましょう」
 マイクを手渡されたのは、百合園とも縁が深い宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。
「軍人として見れば、最後の食事になるかもしれないから、美味しさも欠かせないわね。味の面では、崩城さんのレバ刺しが勝っていたわ」
 通りの良い声で講評しながらも、彼女はちょっとがっかりしていた。計画では、教導団の金団長も、ここに一緒に参加しているはずだったのだ。両校の交流促進、お嬢様のお弁当の糧食採用が叶えば士気向上になる……と祥子は説得したのだが、忙しいらしくて断られてしまった。
「ただ、糧食ならば必要なのは栄養バランス。見た目と美味しさはやはり二の次になるわ。それに、食事が美味しいのは志気や戦うため。このスープは理に適っているわ」
 フィルの作ったスープの正体は、ギャザリングヘクス──魔女の大釜で煮た、ちょっとグロテスクな、謎物体が浮いたスープである。飲んだ者の魔力を増大させるといわれていた。
「そうですわね、戦場では保存のきく食材でないと持って行けないし、新鮮なレバーってどこでも手にはいるわけではありませんものね」
「崩城さんのレバー美味しかったから、今後お料理教室で色々なお料理作ってみてね」
 静香がそう添える。
「では、ちょっと早いですけど、五分間の休憩にいたしましょう」
 ラズィーヤが告げると、審査員の面々はさっそく小夜子が“ティータイム”でいれたお茶を口にした。
 お弁当に飲み物がないとつらいかもしれないと、あらかじめ彼女が用意していたのは、お弁当の味を邪魔しないようなお茶だったが、スープとにんにくの口直しには、味の濃い飲み物の方がよいだろう。 最初からクセの強いものを食べてしまったので、味が残っては次の審査に差し支えるからだ。
「ありがとう」
 ラズィーヤと静香は小夜子からミルク少なめのアッサムCTCのティーカップを受け取って、お礼を言う。
 そこに休憩と聞いて、審査員席にロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)がやって来た。
「先ほどの件お忘れではありませんよね?」
「うん、僕のお弁当だよね?」
 静香は審査員席に用意してあった、朱塗りのお弁当箱を取り出した。
 ──ふふふ、難癖をつけてやりますわ……。そして校長の権威を失墜させましてよ! 意気込んでロザリィヌは蓋を開ける。
 そこにあったのは、どこにでもあるお弁当だった。混ぜご飯に卵焼きにたこさんウィンナー、いんげんのごま和えに、りんごのうさぎ。見た目は料理が得意な女の子、といった感じだが、内容自体は大したことはない。これは勝ったと思って箸を付ける。が。
「こ、これは……」
 明らかに、自分のつくったお弁当よりも美味しい。確かに変哲のないお弁当なのに、ご飯の炊き方、野菜の切り方茹で方ひとつとっても、かなりの腕前であることがわかる。味だけなら料理でお金を取って充分やっていけるレベルに達している。
「いつもお世話になってるロザリィヌさんに感謝を込めてつくりました」
「……う、嘘ですわ!? 男の娘ごときのお弁当がこんなに美味しいなんて……キーッ! ぐやじいですわー!」
 にこっと笑う家庭的な美少女姿に、ロザリィヌは敗北感を味わい、地団駄を踏んで悔しがる。だが、こんな失敗一回ごときで引き下がる彼女ではない。
「見てなさい校長……いつかその座から引き摺り下ろして見せますわ!」
 ロザリィヌはびしっ! と指を突きつけて、静香にライバル宣言、もとい小姑宣言をしたのであった。