百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

料理は愛情! お弁当コンテスト

リアクション公開中!

料理は愛情! お弁当コンテスト

リアクション



第6章 お弁当に想いを込めて


 お開きになったコンテスト会場、残っているのはラズィーヤと静香、そしてスタッフだけとなった頃。
 挙動不審な一人の生徒が、食後のお茶を楽しむ静香の前に立った。
「お疲れ様でしたっ!」
 声をかけたのは、百合園女学院の真口 悠希(まぐち・ゆき)だ。周りに人が居るのはしょうがない、今を逃しては、と、声をかけるやいなや、胸に抱きかかえている箱をテーブルに置き、さっと包みをほどく。
 現れたのは手作りプリンだった。審査後でお腹がいっぱいだろうと思って、デザートにしたのだ。コンテストに出なかったのは静香にだけ食べて貰いたかったためである。
「先日の静香さまの勇気、本当に尊敬ですっ……ボクも打ち明けなきゃ……です」
 顔を真っ赤にして、声を振り絞るように悠希が言う。
「ボクも……普通の女の子なら、よかったのにっ……」
 桜井静香が普通の女の子であれば、男の子である真口悠希には問題がなかった。彼は異性が恋愛対象である。
 しかし桜井静香は普通の女の子ではなかった──同性だった。それでも、悠希の気持ちは変わらなかった。
「静香さま、あーん、してください。もし良かったら……ボクにもあーんって、食べさせて下さいっ……」
 だが、静香の恋愛対象が女だけとは限らない。それを確かめるために、ここに来たのだ。
 勿論静香はそんな彼の意図は知らない。
「うん、いいよ」
 あーん、してもらい、あーん、する。お腹はいっぱいだったが、するっと胃に入ってしまう美味しいプリンだった。
「ボク静香さまと出会えて、本当に良かったです……ずっと静香さまの味方です」
 静香は、過日の船旅のことを思い出す。もしかしてもしなくても、これってやっぱり告白なのだろうか。
 ますます顔を赤くする悠希に、静香はちょこっと首を傾げて呟く。
「え、ええっと……何か変だな……僕にはそっちの趣味はなかったハズなんだけど……」

 そんな二人に、躊躇しながら近づくもう一つのか細い姿。
 彼女の歩みを柱の影から見守って、テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)がぐっと拳を握りしめる。
「ロザリー、勇気出して」
 ただでさえ勇気が必要なのに、こんな状況では、ますます言い出しづらいに違いない。
 それでも至ってノーマルな性的嗜好のテレサには本当のところは分からないが、男性が苦手なロザリンドが決心するだけでも大変だったに違いない。
 だからこそ、ここで逃げてしまってはダメだ。
 テレサはロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)の奮闘を思い出す。
 家事をそつなくこなすロザリンドにも苦手な物はあって、それが料理だった。お弁当コンテスト開催のプリントが張られたときもてっきり関係ないと思っていたのに、突然出る、と言い出して、しかも悩み顔。何か変だと感じつつ、テレサは、開催までの間、付きっきりで彼女のお弁当の特訓をした。 
 手を出せば、それこそ素晴らしいお弁当ができただろう。でも、ロザリンドが自分でやらなければ意味がないと思っているのは明らかだった。
 無理しないで失敗しないレシピを考え、材料の分量から時間配分から細かくメモをしてあげ、錦糸卵の集中特訓。

 ロザリンドは特訓の間、ずっと悩んでいた。
 以前から大切に思っていた“校長”が、男性だと知ってしまったから。そして大切な方だけではないと気付いてしまったから。
 異性であるのだから、この点悠希と違って、傍目には問題はないように見えるが、男性が苦手なだけでなく女性しか恋愛対象でなかったロザリンドにとって、この事実は大きな悩みの種だった。
 けれど大量に積み上げたパックから卵を取り出し、ボウルの端にぶつけて割り、黄身と白身をかき混ぜて。繰り返すうちに、悩みはまとまっていった。
「もう迷いません」
 男性は苦手だった。今でも苦手だ。ただ、殻に入っても割っても溶いても、どんな形でも卵は卵。校長もまた校長であると。
「決めました」
 ロザリンドは顔を上げ、再び静香の元へと歩みを進める。
「校長、私のお弁当も食べてください……」
 テーブルに置いたお弁当箱の蓋を開ける。
 蓋の中には、静香とロザリンドの姿があった。
 錦糸卵とパプリカで静香の髪とティアラが、ほぐした鮭でお気に入りのピンクのドレスが。
 薄く切ったイカで、ロザリンドの鎧が。
 背景は、百合園女学院の校舎。
 ロザリンドは静香を見つめ、ずっと考えていた台詞を一気に解き放つ。
「桜井校長……いえ静香様。あなたが好きです! 一生傍でお護りしますから!」
 言った──そう思った時、ロザリンドは会場を飛び出していた。テレサがその後を追う。
「……あ……あのっ!」
 慌てて立ち上がった静香は、後を追えずに呆然と立ったままだった。
 しばらく場に沈黙が降りる。やがて口を開いたのはラズィーヤだった。優雅に紅茶のカップを傾けて、おもしろがるような目を向ける。
「静香さんったら、モテモテですわね」
 静香はラズィーヤの視線も目に入らず、とりあえず椅子に座ると、しばらくあわあわしていた。
 性別も同じだったり違ったりするし、百合なのに薔薇だし、そもそも校長と生徒だし、自分には借金のことだってあるし……。
「……ぼ、僕どうすればいいんだろう……」


 ところ変わって、ヴァイシャリーの公園。
 暖かな日差しに深まる紅葉を透かし見ながら、高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、落ち葉で柔らかい土の上を歩いていた。
 馴染んだザンスカールの森の風景とは違う、ほどよく人の手が入った公園。
「綺麗ね」
「そうだな」
 しばらくたわいもない雑談を続けていたが、会話が途切れる。
「あそこでお昼にしましょう」
 アメリアは運河を望むベンチを指さした。
 二人の間にアメリアが広げたのは彼女持参のお弁当。鮭や焼きたらこのおにぎり、おひたし、ごま和え、佃煮、たけのことふきの煮物等々。顔がほころぶ芳樹を見て、アメリアも微笑する。彼の好きな和食を選んだのは正解だったようだ。
 芳樹からしてみれば好物もさることながら、パラミタ人、それもヴァルキリーだから詳しくはない和食を頑張って作ってくれる、そんなアメリアの心遣いが嬉しい。
 運河に浮かぶ大小のゴンドラを眺め、しばらく黙々とご飯を食べる。木々を渡る風のざわめき。
「たまにはこんなのもいいな」
「そうね」
 いつも何かと事件に巻き込まれてばかりの学生達。トラブルだとか政治だとか軍事だとか、文化衝突だとか、色々あるけれど。
「これからも、ずっと続けばいいな」
 色々あっても、パートナーと共にいて。
 この小さなお弁当箱に詰めた想いが、互いに伝わるような日々が……。


担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 有沢です。シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。
 今回はお弁当コンテストということで、入賞の方には個人称号をお贈りしています。
 入賞など審査の基準ですが、事前にお伝えしました
  ・音楽、美術、家庭科の能力値
  ・審査員側のアクションに書かれた審査ポイント(味・栄養・見た目)
  ・お弁当の中身や調理法についての工夫
 の他に、審査員がその他個人で重視するポイント、
  ・出場者の弱点や自由設定の「料理が苦手」や、料理が得意であること
  ・審査員の弱点や自由設定の「辛いもの/甘いものが苦手」「舌が鈍い」
 等々を踏まえて判定しています。
 本当は料理漫画ばりのオーバーリアクションをひとつひとつさせたかったのですが、字数も限られまして羅列になってしまうと思い断念しました。
 戦闘糧食部門については、こちらの説明が足りないこともあって、出場者が少なくなってしまったのが反省点です。各国の糧食は宗教やベジタリアン用のものがあったり、調べるだけで面白いものが色々あるんですよね。 
 
 それから、口うるさくなってしまいますが、アクションについての注意を一つだけ。
 アクションをかける際、色々なものを参考にされて書かれるかと思います。
 ただ、実際にある商品名や他のサイトの説明を引き写して……となってしまいますと、そのまま載せることができません。別の表現に変えるなどしてご投稿ください。宜しくお願いいたします。
 たとえばですが、紅茶党なので紅茶にまつわるシナリオなどやってみたいと思ったことがあるのですが、ある種のブレンドや産地(農園)名等を載せてしまうと実在の会社等が特定できてしまうので、二の足を踏んでしまったりしています(そもそも需要がなさそうですが……)。

 私個人の次回の予定ですが、前回お伝えしたように、一旦マスタリングを休止させていただくことになっています。
 復帰は春以降を目指していますが、体調と状況次第になってしまうので、残念ながらはっきりとお約束できません……申し訳ありません。
 その間は、キャラクタークエスト等他の形で皆さんとお会いできるかと思います。せめて今まで通り百合園女学院及びヴァイシャリーの設定周辺を少しずつ固めつつ、設定だけでも(掲示板等で)遊んでいただけるようなものにしたいと思っています。
 それでは皆さんに、良きパラミタでの日々があることを。