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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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「カキ氷、美味しかったですぅ。今度から、学食のメニューに取り入れるべきですぅ!」
 カキ氷に大満足のエリザベート。
 しかし、そんな彼女にも一つだけ不満があった。
「でも、冷たい料理は食べ終わったら暑さが戻ってくるのが難点ですぅ! もっと、継続的に涼しくなる方法はないんですかぁ?」
 たしかに、納涼料理は美味しさと涼しさをエリザベートに与えてくれたが、どうしても時間が経つとジワジワと暑さが戻ってきてしまうのだった。
 と、そこで再びドアがノックされる。
 コンコン。
「校長先生、失礼します〜」
 現れたのは咲夜 由宇(さくや・ゆう)だった。
「校長先生、こんな納涼方法はどうですか〜?」
「それはぁ……タライですかぁ?」
 由宇が用意してきたのは、氷水の入ったタライだ。
「ちょっと原始的な方法ですけど、ヒンヤリしてて気持ちがイイですよ〜? ホラ、こちらへどうぞ〜」
 由宇は応接ソファーの足元にタライを置くと、エリザベートの手を引いて案内した。
「な、なんだかドキドキするですぅ」
 チョコンとソファに座ったエリザベートは、恐る恐るタライへと足を伸ばしていく。
 そして、チャプンと足が氷水に入った瞬間――
「あ……たしかにヒンヤリしてて気持ちイイですぅ」
 由宇の氷術によって冷たすぎない適温に保たれた氷水は、ゆっくりとエリザベートに涼しさを与えていく。
「どうですか〜? 涼しくなりましたですか〜?」
 エリザベートの隣に座った由宇は、うちわまで取り出してパタパタと緩やかな風を送りつつ、その小さな頭をなでる。
「はぁ〜まさに天国ですぅ……なんだか、お姉さんができた気分になってきましたぁ……」
 食後ということもあってか、エリザベートはとてもリラックスしている。
 こうして、由宇とエリザベートは互いに満足のいくゆったりとした時間をすごしたのだった。
 
 コンコン。
「エリザベート、入るぞ?」
 校長室のドアが開かれ、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が入ってくる。
「って、気持ちよさそうに涼んでんなぁ?」
「本当に涼しいですぅ。由宇のおかげですぅ」
 入室したアキラの目に飛び込んできたのは、タライに張った氷水で涼むエリザベートの姿だった。
「うーん……それじゃあ、あんまりコレは意味ねぇか」
「何ですかそれはぁ?」
 エリザベートは、アキラが手に持っていた奇妙な形の物体を見て首を捻る。
「これはな、風鈴って言ってな。まぁ……なんていうか、涼しくなるための楽器みてぇなもんだ」
「楽器ですかぁ? 楽器で涼しくなるなんて、聞いたことがないですぅ! ちょっと、演奏してみてくださぁい」
 英国生まれのエリザベートにとって、風鈴は初めて知る存在だった。
「よしっ。それじゃあ、窓辺にでもくくり付けて……っと。ちょっと熱気が入ってくるかもしれねぇけど、窓開けるぞ?」
 カーテンレールから風鈴を垂らし、アキラは窓を開け放つ。
 すると――
 チリーン、チリンチリーン。
 穏やかな風が風鈴を揺らす。
「どうだ? いい音だろ?」
「むぅ……別に、涼しくもなんともないですぅ!」
「いやいや。これは、体感温度がどうこう。っていうわけじゃねぇんだ。いいか、心を静めて音色に耳を傾けてみ? 涼しくなろうってんじゃなくて、純粋に音に耳を傾けてみろ」
「わ、わかりましたぁ」
 再び、窓から吹く穏やかな風が風鈴を揺らす。
 チリーン、チリンチリーン。
「あ……」
 風鈴の音に、エリザベートが何か気付いたようだ。
「なんだか、心に波紋が広がっていくような感じでしたぁ」
「お、そうだ。そんな感じだ!」
 アキラは、風鈴の音を理解したエリザベートに心底嬉しそうな笑みを向ける。
「これが日本の納涼ですかぁ……なんだか、今日一日で日本が大好きになりましたぁ」
 どうやら、今日はエリザベートの日本へ対する評価が上がった一日となったようだ。

「風鈴の音が心地よいですぅ……何だか眠くなってきましたぁ」
 吹く風は生ぬるいはずなのに、その風が揺らす風鈴の音はエリザベートの心を涼やかにしていく。
 もう、このまま寝てしまおうか? そう、エリザベートが思い始めた瞬間――
 コンコン。
「エリザベートさん、失礼します」
ノックと共にラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)が現れた。
「ら……ラムズ!? いったい何しに来たんですかぁ!?」
「今日は、エリザベートさんに涼しくなってもたいたいと思いまして、こんな物を用意させていただきました」
 ニコリと微笑むラムズは、お手製の冷たいカボチャスープが入った皿を持っていた。
 スープの見た目は至って普通……というよりも、むしろ美味しそうであった。
 しかし――
「では、行きますよ?」
 ラムズは皿を持った右手を後ろへ振りかぶって――
「それっ!!」
 思い切りソレを投げた。
 もう、それは本当に見事な投球ならぬ投皿だった。
 遠心力によって、皿に張り付いたまま飛んでいくカボチャスープ。
 そして、エリザベートは咄嗟の出来事に動けない。
『あぁ……またこのパターンですかぁ』
 飛来してくるカボチャスープを見て、エリザベートは刹那に思い出していた。昔、ラムズに熱々のスープを投げつけられた最悪の思い出を。
 この、一見イジメとも見えるパイ投げならぬスープ投げだったが、実はラムズにとっては――どこに当たろうとも、相手に必ず料理を食べさせてあげる最高のおもてなし――という、信条のもと行う行動だった。なので、悪気は全く無い。悪気が無いからこそ、たちが悪い。
「がふぁ!? つ、冷たいですぅ!?」
 ラムズの投げたカボチャスープは、見事エリザベートの顔面へとストライクした。
「どうです? カボチャのスープは栄養満点なんですよ? 美味しくヘルシーに涼しくなれましたか?」
 屈託の無い笑顔で微笑むラムズ。相手を思いやる最高の笑顔だ。
 だが、最高の笑顔だからといってそれが相手のためになったかどうかは――当然なっていない。
「誰が……誰がこんなもんで涼しくなりますですかぁあああああ!!」
 本日、三度目のサンダーブラストが校長室で炸裂した。

 コンコン。
「エリザベートちゃん、元気〜? ……って、何があったんですか〜!?」
 校長室へやって来た神代 明日香(かみしろ・あすか)は、自分の目を疑った。
「うぐっ……うぅ……明日香ぁ〜……」
「ど、どうしたんですか〜エリザベートちゃん? どうして泣いてるんです〜大丈夫ですか〜?」
 エリザベートは明日香を見るなり泣きついてきたのだが――その姿は何故かスープまみれという、謎の新ファッションとなっていた。
「うぐぅ……うぅっ……ラムズに……ラムズにイジメられたんですぅ!!」
 しゃくりあげて泣くエリザベートは、校長室の隅でプスプスと煙をあげているラムズを涙目で睨み付ける。
 明日香は、その様子を見て何となく状況を理解した。
「そっかそっか〜ラムズ先生にスープを投げられたんですね〜?」
「そのとおりですぅ……」
「でもね〜エリザベートちゃん。ラムズ先生だって、エリザベートちゃんに涼しくなってもらいたかったんですよ〜きっと〜」
 エリザベートを安心させるために、ニコリと微笑む明日香。
「そうだ〜エリザベートちゃん。これから一緒にお風呂に入りませんか〜?」
「え? お風呂ですかぁ?」
「そうそう〜。私ね、エリザベートちゃんが涼しくなりたいっていうから、地下の大浴場に水をためておいて簡易プールを作ったんです〜」
 地下の大浴場は、普段は水着可の混浴場なのだが、その広さはエリザベートのようなお子様からすればプールにも等しい広さだ。
「アーデルハイト様〜大浴場、使ってもいいですか〜?」
 一応、アーデルハイトにも許可をもらっておこうとする明日香。
 もちろん――
「ん? 別に、後でワシにも使わせてくれるのなら構わんぞ?」
 アーデルハイトが不許可にするわけがなかった。
 余談だが……さっきからアーデルハイトは、エリザベートに降りかかる不幸を上手くかわして、一人だけ生徒たちの用意する納涼方法を満喫している。やはり、伊達に何千年も生きているわけではなかったようだ。
「アーデルハイト様、ありがとうございます〜。それじゃ〜エリザベートちゃん。一緒に水着持って行こうか〜?」
「はいですぅ♪」
 さっきまで泣いていたはずのエリザベートは、明日香のおかげですっかり機嫌を取り戻したのだった。