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リアクション
「うっ……う〜ん」
エリザベートの意識が、ゆっくりと覚醒していく。
「お目覚めですか、校長。気分はいかかでしょう?」
となりから聞こえてきた優しい声に振り向くと、そこにはザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が座っていた。
そして、ザカコの向こうに見える窓からは――夜空に瞬く星々と、静かに流れていく雲海が見えていた。
「ここは……ひ、飛空挺ですかぁ!?」
「はい。校長が涼しくなりたいとのことなので、ナイトフライをしようとルカルカさんと一緒に計画していたんです」
「やっほー、エリザベート♪ 久しぶりー!」
エリザベートたちの座る後方シートに向かって、操縦席に座るルカルカ・ルー(るかるか・るー)が手を振った。
「で、でも……私は飛空挺に乗った覚えなんてないですよぉ!? それどころか、いつの間に寝ていたんですかぁ!? ててて、ていうか、妖怪パンツくれ〜はどこにいったんですかぁ!?」
脱衣所で武尊に襲われた所までしか記憶のないエリザベートは、今の状況に軽く混乱しはじめた。
だが、すかさずザカコとルカルカが状況を説明してくれる。
「校長。妖怪パンツくれ〜なら、自分たちが退治しましたよ」
「そうそう。ちょうど、エリザベートを呼びに行こうかと思ってたら、この飛空挺に乗り込んで来たんだよね。たぶん、暗かったから自分の用意した飛空挺と間違えたんだと思う」
「偶然とはいえ、校長の拉致を防げたのは不幸中の幸いでした」
「そ、そうだったんですかぁ。妖怪を退治してくれたのは大感謝ですぅ!」
ザカコたちの説明を聞いて、ホッと胸を撫で下ろしたエリザベート。
「それよりエリザベート、どう? 涼しい? なんだったら、氷菓子もクッキーもお絞りも有るよ?」
「え!? 本当ですかぁ!?」
「今日は、校長に涼しくなってもらうのが目的ですからね。色々と用意してきました。世界樹より高い景色を楽しんで、ぜひ涼しくなってください」
ザカコたちのもてなしですっかり恐怖を忘れたエリザベートは、ナイトフライ心行くまで堪能したのだった。
――途中までは。
「あ……」
飛空艇の限界高度に達した瞬間、ルカルカが何かに気づいた。
「どうしたんですかぁ、何かあったんですかぁ?」
「えっとね……結構ヤバメなことなんだけど、怒らないで聞いてね?」
「大丈夫ですぅ! 今、すっごく楽しいから、並大抵のことは許しちゃいますぅ♪」
「燃料ない」
「は?」
「燃料がないの。スッカラカンになっちゃった」
「「えぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」」
エリザベートもザカコも、耳も目も全てを疑った。
「ルカルカさん、冗談はそれくらいにしてください……って、本当ですか!?」
突然、飛空艇の高度がガックッと下がり、自由落下が始まる。
「ちょちょちょ、ちょっとぉ! どうするんですかぁ!! このままじゃ墜落ですぅ!」
「こ、校長は自分が命に代えても守ります!」
機内はパニックの坩堝と化していた。
エリザベートは慌てふためき、ザカコはエリザベートを守ろうと、必死に彼女を抱きかかえる。
「とりあえず、落ち着いて二人とも! 私は燃料タンクを見てくるから、大人しく席に座ってて!」
何とか状況を打破しようと、ルカルカは操縦席を立ち上がりドアに手をかけた。
そして――
「ごめ〜ん! やっぱ無理だった〜!!」
一歩外に出た瞬間、ルカルカは気流に飲まれて飛ばされてしまった。
「う、嘘ですよねぇええ!? 嘘だと言ってくださいぃ!!」
「校長は自分が命に代えても!!」
ルカルカが飛ばされたことによって、更に混乱を増す機内。
気づけば、だんだんと地面が近づいてきている。
「も、もう無理ですぅ!!」
エリザベートがギュッと目をつぶり泣き叫ぶ。普段の彼女なら、転移魔法でも使っていたのだろうが、パニックでそれどころではない。
そして、機体はイルミンスール魔法学校のグラウンドに向かって墜落――しなかった。
「な、なんですかぁ!? 操縦桿が勝手に動いてますぅ!?」
操縦席は無人のはずなのに、突然機体がコントロールを取り戻した。
混乱するエリザベートをよそに、機体は墜落ギリギリのところで奇跡の着陸を果たす。
「校長! 脱出します!」
エリザベートを抱きかかえたザカコは、着陸と同時にドアを蹴破り外へ出た。
すると――
「どうだった、エリザベート? 心胆寒からせしめるのに、落下の恐怖を提供してみました♪」
「へ?」
機体から脱出したエリザベートの前に、微笑を浮かべたルカルカが歩いてくる。
「ど、どうして生きてるんですかぁ!? さっき、飛ばされたはずじゃ……」
「あれは、演技だよ。え・ん・ぎ! 実は、燃料切れとか墜落も全部演技なの。私が飛ばされたあとは、全部アコが操縦してくれてたんだよ?」
混乱するエリザベートの前に、ルカルカのパートナーであるルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が、光学迷彩を解いて現れる。
実は、彼女は最初から飛空艇に乗っていて、ルカルカが飛ばされたあとも密かに着地地点へ向けて機体を動かしていたのだ。
「つ、つまり……これは全部ドッキリ企画だったてことですかぁ!?」
「そういうこと♪ どう? 涼しくなれた?」
やっと状況を理解したエリザベートは、恥ずかしさや色々な感情で顔色がどんどん変化していった。
「こ、恐くなんてなかったですぅ! でも、三人とも留年は覚悟しておくといいですぅ!」
「留年は無理よ。だってルカルカたち、教導団だもん」
「ぐぬぬぅですぅ!」
肝が冷えたこととドッキリに引っかかったのが悔しく、エリザベートは地団太を踏むだった。
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