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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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第四章 ドキッ! 変態だらけの夜間飛行!?

「ふぅ〜イイお湯だったですぅ」
 朔夜が用意してくれたハーブ風呂で身体の芯まで温まったエリザベートは、やっと寒さから解放されたのだった。
「それにしても……やっぱり、温まったら温まったで熱帯夜だってのを実感させられますねぇ。クーラーがないと、本当に不便ですぅ!」
 脱衣所の熱気に向かって、エリザベートは悪態づく。だが、それだけはどうにもならなかった。
「まぁ、とりあえずいちるの用意してくれた浴衣に着替えて、もう一度みんなにカキ氷でも作ってもらうですぅ――って、何なんですかこれはぁ!?」
 自分の衣服が入った脱衣カゴを見て、エリザベートは驚愕した。
「び、ビショビショですぅ!?」
 彼女がさっきまで着ていたはずの浴衣は、何故かビショ濡れとなっていて、とても着れそうになかった。
「だ、誰なんですかぁ! こんな悪戯をする奴は、絶対に許さないですぅ!」
 カンカンに怒ったエリザベートは、タオル姿のまま脱衣所を飛び出そうとした。
 だが、その瞬間――
「ヒャッハー!! おはようじょ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!? よよよよ妖怪『ょぅι゛ょ拉致犯』ですぅ!!」
 今まで光学迷彩で姿を隠していた南 鮪(みなみ・まぐろ)が、突然エリザベートの目の前に現れた。
 鮪は光学迷彩で隠れていただけなのだが、混乱するエリザベートはその事に気付かない。
「よよよよよよよ、妖怪ですぅ!? ら、拉致だけは勘弁してほしいですぅ!」
 エリザベートは少し前まで熱帯夜を嘆いていたのに、今ではガタガタと震えている。
「ん? 妖怪って、俺のことか?」
 もちろん鮪は、自分が詩穂によって妖怪扱いされたことなんて知る由がない。ただただ、怯えるエリザベートに首を捻るばかりだ。
 だが、鮪にとってはエリザベートの怯える理由なんてどうでもいい。
「ヒャッハー!! エリザベート、どうやら着替えがビショ濡れみたいだなぁ!」
「そそそ、そうですけどぉ……拉致だけは本当に止めて欲しいですぅ」
「ヒャッハァ〜! そんなお前には良いものがある! 浴衣だぁ! 賢いエリザベートなら知ってるだろう? 日本じゃ何百年も昔から暑い夏にはこれを着るんだぜぇ〜」
 会話は全く噛みあっていなかったが、鮪は一着の白い浴衣を取り出した。
「そそそ、そんなの知ってるに決まってますぅ! 自分で帯まで結べますぅ!」
「おぉ、そいつは賢いな。ついでに下着も用意しておいたから、さっそく着替えるんだ。ヒャッハー!!」
 どうして鮪が自分の着替えを用意していたのか、一瞬だけ疑問に思ったエリザベートだったが……実際に元々着ていた浴衣がビショ濡れだったのと、迫る鮪の恐怖でそんな事はすぐに忘れてしまった。
 エリザベートは、ガタガタと震えながら鮪から浴衣を受け取ると、彼から見えない位置で着替えを済ませたのだった。
「おぉ、似合ってるぜぇ。ヒャッハー!」
 少し帯の結び方に悪戦苦闘したエリザベートだったが、何とか浴衣を着ることはできた。
 しかし、鮪はエリザベートの浴衣姿を一瞬見ただけで、そそくさと踵を返したのだった。
「あ、あれ? ないですぅ!?」
 ここで、エリザベートが違和感に気付いた。
「私の下着がないですぅ!? って……なに持ち帰ろうとしてるんですかぁ!?」
 ふと鮪の手を見ると、彼は先ほどまでエリザベートが着用していた下着を、しっかりと手に握っていた。
「か、返すですぅ!」
「ヒャッハー! それは無理な注文だせぇ!」
 追いかけてこようとしたエリザベートに、鮪は用意していた水鉄砲を発射する。
「な、なんですかこれぇ!? 浴衣が透けて、下着が溶けていくですぅ!?」
 発射された水によって、真っ白な浴衣は水に濡れてエリザベートの素肌にピタリと張り付いた。
 だが、下着が溶けるというのは、誰が見ても不可解な現象だった。
「ヒャッハ、ヒャッハー! その下着は、紙で作った下着だぜぇ! 布に近いリアルな質感にこだわって作った、逸品だぁ! おぉっと、無理に追いかけようとすれば、浴衣が肌蹴て色々と丸見えになっちまうぜ? そこで大人しくしておくのが懸命だ。ヒャッハー!」
 勝ち誇ったように笑って逃走する鮪。
 だが、彼は忘れていた――エリザベートがイルミンスール魔法学校の校長で、類稀なる魔法使いだということを。
「ウギャッハッー!? はばなばばばばああぁ!?」
 本日四度目のサンダーブラストの雷光が瞬き、鮪は……焼かれた。

「まったく……下着を奪うなんて、とんだ悪霊ですぅ!」
 鮪から下着を取り返したエリザベートは、ちょうどラムズによってスープまみれにされた服が脱衣所に干されていたので、何とか生まれたての姿という事態だけは回避できた。
「それにしても……妖怪なんてたいしたことないですねぇ! これなら、どんな妖怪もかかって来いですぅ――」
「パンツ・オア・ダーイ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!? よよよよ妖怪、パンツくれ〜ですぅ!!」
 エリザベートが脱衣所を出かけたところで、光学迷彩によって姿を隠していた国頭 武尊(くにがみ・たける)が姿を現した。
「エリザベート。オレが思うに、お前が暑さでヘロヘロになるのは蒸れたパンツを履いているのが原因だ。厳しい残暑の中で、蒸れたパンツを履き続けるのが身体に悪いのは常識だろ? だから、早急に対処しないとな。さぁ、脱げ! 今すぐパンツを脱ぐんだ!」
 怯えるエリザベートに、ズカズカと近寄っていく武尊。
 だが、当然――
「ふぶふぉぁ!?」
 エリザベートのサンダーブラストが炸裂する。
 だが――その程度の攻撃で倒れるほど、パンツ番長の異名は伊達ではなかった。
「ふふふ……まだだ、まだ終わんねぇぜ! パンツよこせぇ!!」
「ギャアアアア!? ふ、不死身ですぅ!?」
 サンダーブラストの直撃をくらってもピンピンしている武尊に、エリザベートは恐怖して逃げる。
 だが、彼女はふと思い出す。
「そ、そうだ!」
 逃げ回っていたエリザベートは、急に立ち止まり背後から迫る武尊へ踵を返すと――
「わ、私……ぱ、パンツはいてないもん☆」
 詩穂から教えてもらった魔法の言葉を、精一杯の声で発した。
 しかし――
「いいや、嘘だな。オレの鼻をごまかせると思っていたのか? さっきから、蒸れた女児パンツの匂いがプンプンしてるんだよぉ!!」
「ギャアアアア!?」
 魔法の言葉はエリザベートに羞恥を与えただけで、武尊には何の効果も生まなかった。
「くらえ! 必殺、目くらまし!」
「キャ……キャアアですぅ!?」
 隙だらけとなったエリザベートは、武尊の光術とヒプノシスをまともに浴びてしまい視界を奪われた。
「よしっ。このまま、俺と夜の空中散歩としゃれ込もうぜ! ハハハハっ!」
 何がなんだかわからないうちに、エリザベートはサイコキネシスまで浴びせられ意識を奪われてしまうのだった。
 そして――
「さてと、あとはこのまま夜の空中散歩と洒落込むぜ」
 イルミンスール上部の飛空挺発着所まで逃走してきた武尊は、拉致してきたエリザベートを待機させておいた小型飛空挺へと茶巾縛りにしてぶら下げた。
「それじゃあ、いくぜ!」
 意気揚々と小型飛空挺に乗り込む武尊。
 だが、次の瞬間――
「ふぼふぁはべあ!?」
 強力な連撃が武尊を遅い、一瞬で彼の意識を奪い去った。