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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!
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第六章 祭りの後

 喫茶エニグマは盛況だった。テーブルは全て埋まり、ビニールシートを敷いただけの場所にも、たくさんの生徒が座っている。
 椿 椎名(つばき・しいな)不破 勇人(ふわ・ゆうと)が作った食べ物ばかりではない。ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)が入れたコーヒーは、単品でも食事とあわせても絶品だったし、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)の接客も、混雑した客の誰一人として不満を抱かせなかった。
「勝負は焼きそばバーガーの勝ちだな」
「まぁ、そうやけど、韓国風焼きそばパンの知名度を考えれば、どっこいどっこいやないか」
 焼きそばバーガーと韓国風焼きそばパン、どちらも好評だった。焼きそばバーガーが売り切れた時に、韓国風焼きそばパンが残り3つだったことを考えれば僅差、むしろ不破 勇人(ふわ・ゆうと)の大健闘とも言える。
「ところで伝説と比べて、味はどうだったんだ?」
「さぁな、3つ食べ比べる訳にもいかんやろ」
 そんな椿 椎名(つばき・しいな)不破 勇人(ふわ・ゆうと)の目に、3つの焼きそばパンを並べた夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が映った。ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)が勧めた焼きそばバーガーと韓国風ン
「おーい、自分、それ……どうしたん?」
「ダメですよ。あげません。私が必死で買ったんですから」
「いや、ちゃうちゃう、しっかり味わってや。ただ3つの中で、どれが美味いか教えてくれへん?」
「それなら構いませんが……」
 椿 椎名(つばき・しいな)不破 勇人(ふわ・ゆうと)に見つめられて、ちょっと照れながらも夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は、3つの焼きそばパンにかじりついた。
「どう?」
「どうや?」
「うーん……」
 しばし沈黙の後、夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は「全部、美味しいです」と答えた。
「どれが1番2番ってないの?」
「そうや、そうや」
 順位が返ってくると思った椿 椎名(つばき・しいな)不破 勇人(ふわ・ゆうと)は当てが外れる。
「うーん、どれも美味しいです。順番は付けられません」
 考えれば、伝説の焼きそばパンと肩を並べたことになる。2人は「まぁ、いいか」と納得した。
 ただし夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)が味音痴で、伝説の焼きそばパンと思われたものは、獣 ニサト(けもの・にさと)の作ったフェイクだったことまでは見抜けなかった。
「オーナー! 不破さーん! 注文、貯まってますよ!」
 ソーマとナギに呼ばれて2人は車に戻る。
「もういっちょ稼ごうやないか」
「OK!」

「おまたせ」
 ビンセント・パーシヴァル(びんせんと・ぱーしばる)は、蒼空学園校庭の片隅で電子タバコを吸う雉明 ルカ(ちあき・るか)に袋を差し出した。
「何?」
「今日発売の、例のヤツ」
「ご苦労なコト。こんなものが私の静かな生活の邪魔をしたってわけ? 万死に値するわ」
 フッと笑ってビンセント・パーシヴァル(びんせんと・ぱーしばる)は、袋を開ける。ソースと紅しょうがの香りが2人の鼻に届く。
 買ってきた2つの内、1つをルカに渡すと、ビンセントはもう1つを自分の片膝に乗せた。
「これは私の分ね」
「ああ」
「それは貴方の分?」
「ああ」
 ルカはビンセントの頭にショットガンを向ける。
「冗談だろ」
「貴方こそ冗談よね。1個は私のもの。貴方の持ってる1個の半分も私によこすべき。貴方のものは私のもの、私のものは私のものよ」
 ルカは右手の人差し指に力を込める。
「わかったよ……ったく、大人しそうな顔して、おっかねぇ事しやがる」
 焼きそばパンを半分に割ろうとしたビンセントの頭に、ルカはショットガンの銃口を突きつけた。
「まだわかってないようね。この私が『半分よこせ』って言ったら、『それなら全部どうぞ』って言うのが貴方の役目なの。良い?」
 再びコツンと銃口でこめかみを叩く。
 ビンセントは黙って焼きそばパンを差し出した。
「こいつも立派なパラ実生だな(ボソ」

「椎名くん、遅かったねぇ。待ちくたびれたよぉ」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)佐々良 縁(ささら・よすが)が、椎名 真(しいな・まこと)を迎える。
「悪い、ほとんど身動きができなかったんだ。佐々良さんは大丈夫だった?」
「大丈夫と言えば大丈夫かなぁ。大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないんだけどぉ」
「来たときからこの調子なんだ、一体どうしたの?」
 佐々良 縁(ささら・よすが)は、袋を開ける。話題の伝説の焼きそばパンが転がり出る。
「なんだ、あんたもそれを買っちゃったの?」
「買ったんじゃないよ。私ちゃんとフルーツサンドって言ったのに、これが入ってたの」
「奇遇だねぇ。俺もさくらたいやきパンって言ったら、これを渡されたんだ」
 袋から取り出したのは、(獣 ニサト(けもの・にさと)製)焼きそばパン。
「カガチも佐々良さんも、何買ってるんだ」
「そんなこと言ったってぇ。真くんは買えたの? 焼きうどんパン」
 椎名 真(しいな・まこと)が袋を開けると、フルーツサンドとさくらたいやきパンが転がり出た。

「「なんでそれを持ってるのぉ?!」」

 カガチと縁が絶妙のハーモニーを奏でた。
 結局、カガチはさくらたいやきパンを、緑がフルーツサンドを食べる。
「つまり外れは俺だけってことか」
「真くん、伝説の焼きそばパンが外れって贅沢だよぉ」 
「それもそうか」と椎名 真(しいな・まこと)は焼きそばパンにかぶりつく。途端に「ん?」と不思議そうな顔をして、かじったパンを見つめ直す。
「どうしたの?」
「これ、焼きそばパンだよな」
「俺の買ってきたヤツか。どう見ても焼きそばパンだね」
「見た目と香りは焼きそばパンだけど、味や食感は間違いなく焼きうどんパンなんだ」
 それで正解! 獣 ニサト(けもの・にさと)がそのように作っていたからだ。
 一口貰った佐々良 縁(ささら・よすが)も「ホントだ」と不思議がる。
「良いんじゃないの。それで俺達、全員満足できるんだから」
 それもそうだと3人は、それぞれのパンを味わった。
 そして肝心の伝説の焼きそばパンが残る。そんな時、佐々良 縁(ささら・よすが)は、自分達を見ている精霊の女の子に気付いた。手招きするとトコトコと駆けてくる。
「ねぇ、お昼ごはんは食べた?」
 佐々良 縁(ささら・よすが)が尋ねると、ティエン・シア(てぃえん・しあ)は「まだ」と答えた。
「よかったら、これどうぞ。私達、お腹いっぱいなの」
「いいの?」とティエンが聞くと、東條 カガチ(とうじょう・かがち)椎名 真(しいな・まこと)もうなずいた。
「ありがとう。お兄ちゃんが待ってるから」
 ティエンはペコンと頭を下げると走り出す。ちょっと離れたところで振り返ると、再び頭を下げた。
「かーわいいわねぇ」
 にこやかな佐々良に対して、カガチと椎名は複雑な表情だった。
「そう思わない?」
 ややあって、椎名が口を開く。
「精霊だからな。もしかしたら、とんでもなく年上かもしれないよ」
「それもそうだけどぉ」