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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!
伝説の焼きそばパンをゲットせよ! 伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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「はいはーい! こちら羽瀬川 まゆり(はせがわ・まゆり)です。伝説の焼きそばパンの話題でもちきりですが、こちらでは移動喫茶エニグマも開店しています。ちょっとお話を伺ってみましょう」
 まゆりは、ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)にマイクを向けた。
「こちらでも焼きそばパンを扱っているそうですね」
「そうだよー、焼きそばバーガーって言うんだ。とーっても美味しいから、みんな食べにきてね」
 ソーマはカメラに思いっきり近づくとニパッと笑う。
「もう1つ、韓国風焼きそばパンも販売しております。どちらかを買っていただいたお客様には、もれなくエニグマコーヒーをサービスしております。ぜひお越しくださいませ」
 ナギは優しい笑顔でアピールした。
「伝説の焼きそばパンも50個限定ですが、こっちの焼きそばパンもそれぞれ50個限定なんだそうです。まずはこっちから狙ってみるのも面白いかもしれませんよ」
 カメラが移動喫茶エニグマを大写しにすると、その前を数人の生徒が駆け抜けた。
「あっ、そろそろあちらこちらから購買部に集まっています。さてこの中の何人が、伝説の焼きそばパンをゲットできるでしょうか。まずは争奪戦をご覧ください」

 すぐにでも売り切れると思われた伝説の焼きそばパンだったが、あまりの混乱に逆に売れ行きが鈍かった。
 つまり「焼きそばパンください!」と言える者がめったにいない。「焼きそばパン」と言えれば、まだマシな方。中には「やき」と口にしたところで、横から後ろから引っ張られてどこかに追いやられてしまう。これでは売り手も焼きそばパンを渡すわけには行かない。
 もちろん新風 燕馬(にいかぜ・えんま)黒木 カフカ(くろき・かふか)ら風紀委員が「走らないでください!」「4列でお願いします!」と呼びかけるものの、まともに聞き入れるものはほとんどいない。仕方なく風紀委員も、ある程度の混乱は見逃すことにして、よほどの乱暴な行為のみに絞って排除を行うことにした。

 赤羽 美央(あかばね・みお)を始め、雪だるま王国の4人が購買部近くに姿を現した。
「はははは、まだ間に合いそうですね」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、ここぞとばかり筋肉に力を入れる。校門から走ってきたため出遅れたものの、伝説の焼きそばパンは、まだほとんど売れていないようだ。
「それでは計画通りに行くでござる」
 童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)は、スキルブリザードを発動。局地的に気温を下げて手がかじかんで小銭が上手く出せない作戦を取る。同時に赤羽 美央(あかばね・みお)が、スキルアイスプロテクトを4人にかける。これで寒い中でも動ける、はずだった。しかし4人にとって想定外の事態だったのは食欲にかける人の欲望だった。購買部に集まった人のあまりの熱気にブリザードはたちまち無力化され、アイスプロテクトがあろうがなかろうが無意味になった。
「えーい、こうなったら突撃です!」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、スキル先制攻撃で全力ダッシュ。童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)も「突撃でござる!」と購買部に駆け出す。ルイ・フリード(るい・ふりーど)もスキル歴戦の必殺術を発動し、「突撃あるのみ!」と突っ込んでいった。

「うわっ! すごい人だ!」
 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、購買部の混乱に、思わずバーストダッシュの足を止める。
 時間が経つごとに、購買部前の人だかりは大きくなっていく。そのほとんどが、たった50個しかない伝説の焼きそばパンを求めていた。
 パートナーのアインス・シュラーク(あいんす・しゅらーく)は、紅鵡の耳元でささやいた。
「危険かと」
 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、力強く「大丈夫」と答える。
「一緒に伝説の焼きそばパンを食べようねって言ったよね。ここで待ってて」
 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)は、人ごみに向かっていく。
 その言葉のうれしさにアインス・シュラーク(あいんす・しゅらーく)は、かすかに頬を赤らめる。その一方で青い瞳が冷たく光り、意識が彼女のマスターに集中する。笹奈をピッタリと追走した。
『笹奈様を邪魔する人は全力で排除します!』

「マナーもルールも無いんですね」
 夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)も購買部にたどり着いた。既に100人を越える人間が購買部に集まっている。その後も続々と生徒が群がってくる。
「昼の購買は戦場です! 敗者に情けなどありません! 勝者だけがその栄光をつかめるのです!」
 スキル歴戦の防御術を発動させると、ためらうことなく群集へと向かっていく。
「焼きそばパン! ついでに蒼空きなこパンと野菜ジュース!」
 そんな彼女の掛け声も、たちまち怒声と嬌声にかき消された。

「じゃあ、ひとっ走り行って買ってくる!」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は、チャイムが鳴ると、先生の声も日直の号令も聞かずに教室を飛び出した。忍者の彼女は、千里走りの術でスピードアップすると、廊下や階段を駆け抜けた。
「みんな、待ってて、伝説の焼きそばパンを買ってくるからね。絶対、みんなで食べた方が何十倍もおいしいよ!」
 教室に残されたクラスメイトが、郁乃のことを噂する。
「ほんと、あの子がいると空気が明るくなるんだよね」
「そうそう。小さいし、可愛いし、かまいたくなるのは反則だよね」
 そんな声を聞きながら、郁乃のパートナー、秋月 桃花(あきづき・とうか)蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は、お茶の準備を進める。
「郁乃、焼きそばパン、買ってこられるかな?」
 クラスメイトの問いかけに、秋月 桃花(あきづき・とうか)は、ニッコリ微笑む。
「どうでしょうか? でもこうして頑張って下さるだけで十分幸せで、嬉しいことですよね」
「そうだよねー」と言いながらクラスメイトは机を寄せる。そこに桃花がテーブルクロスをかけた。
「あの子のおかげで、美味しいお茶にもありつけるし……ネ」
 マビノギオンが並べた皿に、それぞれが持ちよったお昼を盛り付ける。今日はビュッフェスタイルの昼ご飯。
 校舎内を走り抜けた芦原 郁乃(あはら・いくの)は、購買部前の人だかりを目にした。
「うっわー、予想以上だー」
 郁乃のすぐ横を、男子生徒が飛び込んでいく。ちょっとかすっただけだが、郁乃はよろめいた。
「ちっちゃいからってバカにすると痛い目みるんだからぁー」
 郁乃はスキルちぎのたくらみを発動。小柄な体を利用して、人ごみの足元をすり抜けていった。
 
 購買部の混乱を前にユイ・マルグリット(ゆい・まるぐりっと)の足は、完全にすくんでいた。
「ホントに行くの?」
 パートナーのアトマ・リグレット(あとま・りぐれっと)は、そんなユイと混乱とを見比べる。
「だって……、今日昼食の用意をしてこなかったんです」
「だからと言って、何も伝説の焼きそばパンじゃなくっても良いんじゃない? 学食だって他のパンだって……」
「それは分かってるけど、もう伝説の焼きそばパンの口になっちゃってるんです!」
 アトマ・リグレット(あとま・りぐれっと)が「僕、弁当作ってきてるし」と言おうとしたところで、ユイは一歩踏み出した。
「あの山葉さんやマリエルさんを虜にするんだって聞いたら、私……」
 二歩、三歩と足を進める。ちょっとずつ人ごみをかき分けていった。
『多分、手に入らないと思うけどな』
 苦笑を隠すことなく、ユイを守るためにアトマ・リグレット(あとま・りぐれっと)も、集団をかき分けていった。

 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は、集団を前に更なる闘志を燃やした。
「チャイムが鳴ったら即バーストダッシュしようと思ったのに、号令を何度もやり直しさせやがって」
 パートナーの君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)は肩をすくめる。
「仕方ないよ、5分前に騒ぎすぎたんだから。だからって諦めるんじゃないよね」
「当然だ!」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は力任せに突き進んでいった。
「やれやれ、気合はわかるけど、やっぱりあたしがカバーしてあげなくちゃね」
 君城 香奈恵(きみしろ・かなえ)は、スキル情報攪乱を使用し、勇刃の居場所を紛らわす。そして勇刃の後について集団をかき分けていった。
『銃は……さすがにまずいか』
 
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、スキル空飛ぶ魔法を解くと、地上に降り立った。
「凄まじい混乱だな。やはり伝説だけのことはある」
 銀髪をかき上げると、赤い瞳で周囲を睥睨する。
「これほど人気のものの仕入れを可能にするとは、なかなかの政治手腕だな、山葉校長よ」
「お兄ちゃん……」
 パートナーのミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は心配そうに見上げる。
「どこにあるか分かるか?」
 エヴァルトの問いかけに、ミュリエルはスキルトレジャーセンスで周囲を探る。財宝と違って確率は低いものの、ある程度の道筋を示した。
 それを聞いたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、自信たっぷりに笑みを浮かべると、スキルドラゴンアーツを発動させた。ただし他者に攻撃するのではない。身のこなしのみを活用して混乱に身を躍らせた。
「どうか無事で帰ってきて」
 ミュリエルはちょっと離れた所まで退避すると、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の安全を願った。

 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、人垣の凄さに一瞬「うっ」と、どん引いた。
 パートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、ほとんど残っていない体力で、立っているのすらやっとの状態だ。
「こんなトコで負けちゃいられない。アデリーヌ! 行くよ!」
「え?」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、気を取り直して突撃する。巻き込まれた形でアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も、人ごみに埋もれていった。

「完全に出遅れた!」
 四谷 大助(しや・だいすけ)は、購買部前の人だかりにすっかり諦めていた。
「ルシオンが手伝って欲しいって言うから来てみたんだけど、ムリだろ……普通に考えて」
 ルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)は、涙目になって深くため息をつく。
「あぁ……伝説の焼きそばパン、田舎の妹達にも食べさせてあげたいッスねぇ……」
「そんなの、お前がバカで補修なんか受けてるのが悪いだろ……はぁ、もう諦めて別の機会にしろよ」
「大さんの鬼! 悪魔! 困った人を助けるのがアルバイターという者ッス!」
「オレがいつの間にアルバイターになったんだよ。もうムリだって、諦めろ」
「心配ないッス! あたし達が力をあわせれば、どんな困難も乗り越えられるッス!」
「なんか良い方法があるのか?」
 ルシオンは大助に体を丸めるように言う。理由を聞かないままに、大助は体を小さくする。
「大さん! 後は任せたッスよ! (あたしの)家族のために、健闘を祈るッス!!」
 ルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)は、力任せに大助を放り投げる。
「さて、あたしは隠れて様子を伺うとしますか」

「お昼ごはー……にゃああああ?」
 佐々良 縁(ささら・よすが)は、あまりの混乱に、空いた口がふさがらなかった。
「なんかすげえ騒ぎ、そいや新商品出てるんだっけ」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、気負うことなく群集を眺める。スキルスウェーを駆使して、人ごみの中に歩みを進めていった。
「人気だろうけど、俺は自分の好きなパンを買いたいかな……まぁカガチ、佐々良さん、互いに無事で……」
 椎名 真(しいな・まこと)も、体格を活かして混乱に分け入った。
「かがっちゃん! 真くん!」
 取り残された佐々良 縁(ささら・よすが)は、しばし呆然としていたものの、「イチゴのためなら火の中水の中ーッ」と飛び込んでいった。直後に「ぬあーっ!」との悲鳴が聞こえたようだが、それもすぐにかき消されてしまった。