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東カナンへ行こう! 2

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東カナンへ行こう! 2
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■エンディング

 ついにサンドアート展が終わった。
 うわさを聞きつけた人たちが続々と詰めかけ、連日大入りの盛況ぶりだった。
 ところどころで小さなアクシデントはあったものの深刻な事故は何もなく、会場から笑いが途絶えることは1分となかった。
 『東カナン共催 シャンバラ・サンドアート展』は、こうして大成功のうちに惜しまれつつ幕を閉じたのである。


 夕闇の迫った会場で撤収作業に入る工兵たちを指揮していたセテカに、後ろからリカインが近づいた。
「お帰りなさい、セテカ君」
 本当は、初日の夕方には彼は戻ってきていたのだが、その後、彼はザムグの町長や町議との会議やバァル、ネイトとの話し合い、工兵長との打ち合わせ等々イベントの期間中寝る時間もとれないほど事態の把握に追われて、今まで声をかけることすらはばかられていたのだった。
「それで、どうだった?」
 何を訊いてきているかは、明々白々。
 その好奇心に輝いた表情に苦笑しつつ、セテカは答えた。
「さあ。返事は聞いてない」
「えっ?」
「彼女はまだ眠り姫も同然だからな。追い詰めるようなことはしない。逃げる余地を与える必要もあるだろう。
 だが、しっかり誤解のないよう伝えてきた」
「ふーん。でもセテカ君、すっきりした顔してるわね」
「そうか?」
 まぁ、たしかに行ってよかったと、彼も思っていた。
 エンヘドゥの苦労がついに実を結んだか、閲兵式で女領主として着飾ったシャムスは、本当に美しかった。
 そして直後、彼のした告白に、満足に言葉も発せられないでいたシャムスの顔を思い出し、くすりと笑う。
「あーあ。がっかり。振られて帰ってきたら、みんなで残念会を開いてあげる予定だったのに」
 そんな言葉とともに、ローザマリアが後ろから現れた。
「そうよ。もう準備はほとんどすんでたんだから」
 今度はルカルカが、ウインクしつつ。
「『失恋したセテカを慰める会』って垂れ幕も作ってあるんだぞー」
 ほら、これがそうだと言わんばかりに、クマラが折りたたんだ白布を持ち上げる。
 セテカはあっけにとられた。
「……ちょっと待て。おまえたち、どうしてそれを…」
「えー。だって、北カナンで超バレバレだったじゃん」
 とは切。砂像の後ろから出てくる。
「窓からよく、下の会場にいるシャムスさん見下ろしてましたよね」
 隣の佑一が、苦笑しつつ同意した。
「そーそー。見てたらすぐ分かるよ、セテカさんがシャムスさんのこと好きなの」
「分かってないのってバァルさんぐらいだよねぇ」
 あの人、自分に好意が向けられてるのも全然気づけないほど鈍い人だし。
「南カナンへ行ったと聞いて、これはと思っていたのに、結果が分からないなんて未消化もいいとこだ」
 ケーニッヒが腕組みをして責める。
 もういっぺん南カナンへ行って、はっきり振られてこい、と騒ぐ面々に、いつの間にこんなに知られていたのか愕然となるセテカ。
「――ひとをダシにして、単におまえたちがどんちゃん騒ぎしたいだけだろう! っていうか、振られてこいって何だ! それでも友達か!」
 セテカは笑いを噛み殺し、怒るフリをした。
 きゃーっと一斉に散っていくみんなも、かなりノリがいい。
「こいつ!」
「だーって、その方が絶対面白いじゃんー?」
 一番最初に捕まったクマラが、後ろから抱き上げられてきゃははっと笑った。そのまま脇をくすぐられて、地面を笑い転げる。
「ごめん! ごめんってば!」
「じゃあほかのやつらを捕まえるの手伝え!」
「おっけー」
 2人ではさみ込み、どんどん捕まえてはくすぐり倒していく。
「やーん。ごめんなさいですぅ〜」
「やめて、やめてっセテカさん…っ! 手伝うからっ」
 睡蓮、ミシェルと、捕まった者たちが笑いながら次々セテカ側についていった。
「わーい! ボクもこっち混ざるー!」
「やはー。やっぱ、こういうのって捕まえる側になった方が楽しいよねぇ」
 とか、ティエンや要のように捕まってもいないのに転身する者もいたりして。


「皆さーん、ザムグでの打ち上げの準備ができたって、フェイミィさんたちが呼んでますよー。料理が冷めないうちにおいでってー! って、聞いてますー?? ――んもー!! ばかばっかやってないで、ひとの話聞いてくださーい!」
 マティエが口元に手を添えて、ちょっと憤慨しながら、会場中まるで鬼ごっこでもしているような彼らに呼びかける。
 その上では、サンドアート展の幕が、夕方の風になびいて揺れていた。



 ひと気のなくなった翌早朝、サンドアート展会場にて。
「さあ、やるか」
 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)は輸送用トラック【スカンデル・ベク】を起動させた。
 そしておもむろに、一番手前の砂像に向かい、突撃する。
 砂像は完全乾燥後、さらに凝固剤を塗布されてカチカチに固められていたが、トラックの衝突に勝てるほどではなかった。
「子供のころ、砂場で遊んだのを思い出すなぁ……やっぱ、最後に砂の城をブッ壊す時が一番楽しかったよ」
 隣の座席に座っていた亜衣は、それを独り言と判断し、特に言葉を返すことはしなかった。
 窓を開け、入ってくる風に髪をなびかせる。
 せっかくの力作たちを壊してしまうのはもったいない気もしたが、だれも引き取り手が現れなかった以上、こうするのは仕方のないことだった。ここへ放置しておいたところでいつか崩れてしまうものだから、まさに元のもくあみ、砂に対するカナンの人々の意識の変革と東カナンとシャンバラの友好交流には役立ったかもしれないが、砂の処理には全く貢献したことにはならない。
「壊した砂は、今回採用することにした農業プラントの候補地や、砂蒸し風呂の候補地や、ガラス製品の製作工房の候補地、それにコンクリート工場の候補地へ、いつでも輸送できるように麻袋に詰めておく」
 ハインリヒの説明に、東カナン側も納得し、了解した。
「ほんと、ご苦労さん。またいろいろな形で皆の目を愉しませたり、生活の役にたったりしてくれよ」
 砂像たちに向かい、ハインリヒはつぶやいた。

担当マスターより

▼担当マスター

寺岡 志乃

▼マスターコメント

 こんにちは、またははじめまして、寺岡です。

 またもや大幅な遅刻をしてしまいました。もうしないと口にしたそばからこれです。
 自分で自分がとても情けない、くやしい限りです。
 執筆体勢の見直しと、それから体調管理を見直したいと思います。申し訳ありませんでした。



 さて。
 もうご存じの方が大多数かとは思いますが、今回のシナリオは思いがけず夜光ヤナギさんの『南よりいずる緑』と連動することとなりました。
 いつか、東カナンのシナリオでもドン・マルドゥークやシャムス、エンヘドゥが登場することもあるかもしれない――そんなふうに考えると、ちょっと楽しい。
 貴重な体験をさせていただいたと思っています。


 そして今回の皆さんのアクションについですが、わたしの予想の斜め上アクションがくるのはいつものことで、毎回それを楽しみに皆さんのアクションを拝見させていただいているのですが、今回は本当にいろいろと驚かされるアイデアが満載でした。
 東カナンの人々は今回のイベントの成功により、シャンバラの方たちに好印象を持ったでしょうし、シャンバラという地に興味を持ったことでしょう。
 このことがこれからの両国の友好関係・信頼関係につながることを、切に望みます。

 また、砂処理につきましては、何件かを東カナンでの砂処理対策として採用させていただきました。
 いつか何かの折りに、その結果をお知らせしていけたらと思っています。



 それでは、ここまでご読了いただきまして、ありがとうございました。
 次回何になるかはまだ未定ですが、そちらでもお会いできたらとてもうれしいです。
 もちろん、まだ一度もお会いできていない方ともお会いできたらいいなぁ、と思います。

 それでは。また。