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リアクション
ドラゴネット
「私は生前、戦では負けませんでしたが、イコンでも負けません。佐那、貴方には勝利こそ相応しい」
吉川 元春(きっかわ・もとはる)がパートナーの富永 佐那(とみなが・さな)にそう言うと、佐那は
「当然。あ、こちら【クレーツェト】。パートナーを組む僚機を希望します」
「こちら【ツィルニトラ】。同行します」
「ありがとう。ええと……」
「テレジア。テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)です。同乗しているのは瀬名 千鶴(せな・ちづる)」
「よろしく」
千鶴がモニター越しに挨拶をする。
「それから、魔鎧のデウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)を装着してます。パイロットスーツ替わりに」
「了解。お話はここまで。来るわよ!」
佐那が会話を止めると、イーグリット・アサルトが1機やってきた。
まず【クレーツェト】が20ミリレーザーバルカンを発射する。弾丸は吸い込まれるようにイーグリット・アサルトに命中していく。
そしてその援護を受けて【ツィルニトラ】がアサルトライフルを発射しながら敵につかづく。
だが、それだけではまだ、ダメージが十分ではなかった。
「それにしてもこいつら戦術って考えがないのかしら? 単騎で行動したり多くて2機。まあ、空賊だからそんなものかしら?」
佐那がそう言っていると、死角から熱源反応があった。
「佐那、後ろに熱源反応! 航空歩兵だ!」
「了解、殿!」
佐那は機体をS字形の軌道にのせ、千鶴も佐那の意図を察して逆S字の軌道を描く。
「生身相手なら、頭部バルカンで十分ね」
そして【クレーツェト】と【ツィルニトラ】が交差する瞬間ヴァルキリーの群れが照準に入る。
「いまだ、ファイア」
「はい!」
そして頭部バルカンはヴァルキリーの群れを羽をもがれた虫へと変える。これも、犯罪行為の報いだろう。
と――
「空よ、崩落せよ!」
エノクが『崩壊する空』でエンゲージ全体に攻撃を仕掛ける。
流れ落ちてきたのは大量のマグマ。生身で飛んでいた多くの生徒達が戦闘不能になり、【月の宮殿】に逃げ込む。
「至急カラータグでトリアージ! とりあえず『命のうねり』をかけれるだけかけるから、その後の負傷者は医務室で治療!」
ショートの黒髪を汗で濡らしながらそういって負傷者の救助に当たるのはキリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)。
白い衣を着ていて、それは聖職者か医者を連想させる。
実際に医学の知識を取得しており、生命医学研究所に所属している。
キリエは普段はのんびりとした口調なのだが、さすがにこんな火急の時には語気も荒くなる。
「キリエ、私にも《歴戦の回復術》と《応急手当がある》。手伝わせてください」
そう申し出たのはキリエのパートナーのセラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)で、銀のセミロングの頭髪と金色の瞳の美青年である。
「助かる。トリアージに従って回復を」
「了解!」
「私も『命のうねり』あります!」
それは補給のついでに軽くシャワーを浴びてきた加夜の言葉だった。
「ありがたい。10人以上いますからね。しかもひどい火傷だ。すぐに治療しないと命に関わる」
「わかりました」
そうして懸命の治療活動によって、なんとか死者を出さずに済んだ。。
一方、【クレーツェト】と【ツィルニトラ】も三割くらいのダメージを受けている。
「まずいわね。殿、20ミリレーザーバルカン準備」
「わかった」
「テレジアさん、あなたはあの魔法使いに近づきながらアサルトライフルを打ち込んで!」
「わかりました!」
そうして発射される弾丸。だが、それはドラゴネットの小龍に庇われてしまう。
「ダメージハ軽微」
小龍はそう言うとドラゴンブレスを吐き出した。
目標は【クレーツェト】。だが、そこに
「させない! 《不屈の闘志》!!」
葛葉 杏(くずのは・あん)のコームラントが割って入る。
「杏さん、損傷は軽微。かすったくらいです」
パートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)が報告する。
「大丈夫? 佐那さん」
「あ、ありがとう」
「こちら【スレイヤー小隊】のスレイヤー2 葛葉 杏。あのドラゴネットは【スレイヤー小隊】が相手をします。あなた方は別の敵の相手を」
「了解!」
「わかりました」
佐那とテレジアがそう言ってエンゲージを離脱すると、【スレイヤー小隊】全体にスレイヤー1から連絡が入った。
「こちらスレイヤー1。偵察ではあいつが一番厄介だとわかってる。一気に潰すぞ!」
西表 アリカ(いりおもて・ありか)がスイッチを入れてくれた通信機を通して、無限 大吾(むげん・だいご)が檄を飛ばす。
「こちら【月の宮殿】のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)。今からそちらにエンゲージする。みんな、空賊ごときにやられるんじゃないよ。【シャーウッド】のような義賊とは違う。奴らは正真正銘の犯罪者なんだ。がんばれ!」
リカインの《激励》が【月の宮殿】のソニックブラスターを通じて戦場に響く。
「ちっ、言ってくれんじゃないの。あたしらは自由の民さ。自由に生きて何が悪い」
敵の首領ユウナからの通信が入ります。
「他人に迷惑をかけないなら何をやってもいいさ。でもあんたらがやってるのは略奪だ。今使ってるイコンだって、どうせ空輸中に略奪したんでしょ!」
リカインが言い返すと、ユウナは
「お小言はばあちゃんだけで十分だ。行くぞ、野郎ども! 地球人を血祭りにあげてやんな!」
と叫ぶ。
その言葉を聞いてジーハ空賊団はいきり立った。同時に【月の宮殿】がエンゲージする。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
リカインの《咆哮》が戦場に響く。
それを聞いたエンゲージ内の敵兵は恐慌状態になった。そして物理的な圧力すら伴った叫びは彼らの体にダメージを与える。
だが、エノクと小龍には通じた様子はない。微量のダメージは与えたがそれほど堪えていないし恐慌状態にもなっていない。
「さて、回復しておくわね。《メジャーヒール》」
無傷のカルラがエンゲージ全員のHPを回復する。ドラゴネットは一応分類上は生物なので回復呪文も効果がある。ある意味並みのイコンより恐ろしい相手と言えた。
「旗艦には近づけさせないし、小龍もやらせないわよ。カルラ熱演舞」
カルラが踊るような剣の動きで生身の生徒たちを相手取る。
一見無軌道のようでいて計算され尽くした動きは、生徒たちに大きなダメージを与える。
「敵ノ旗艦ヲ叩ク」
小龍は魔法の投げ矢で【月の宮殿】を攻撃する。
それは確かに【月の宮殿】に命中する。
しかし
「損害は軽微。ブレスに警戒していれば怖い相手じゃない」
アポロンはそう判断して対艦ミサイルを打ち込む。
小龍に命中した対艦ミサイルも、しかしカルラの《メジャーヒール》で回復されてしまう。
そんなことをしている間にもスレイヤー小隊が集結し、ドラゴネットの小龍を撃破してドラゴンスレイヤーになろうとしていた。