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秋のスイーツ+ラブレッスン

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秋のスイーツ+ラブレッスン

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【1章 海グループ】

「うーん、どうしよう。何にしようか?」
 ボードに書かれたレシピと、材料が並ぶ机を見比べて綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は悩んでいた。秋の食材、と言えども様々あり、どうしても迷ってしまう。
「どーれーにしよーうかな……」
 目をつぶって指を指していき、神様の言う通り、でカボチャの切り身に当たった。
「よし、これにしよう!」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、レシピ本を読んでいて、さゆみが選んだカボチャを見て、パンプキンケーキのページを開いた。
「カボチャだったら、これがいかがですわ」
「そうだね!」
 さゆみとアデリーヌが決めたところに、火村 加夜(ひむら・かや)が話しかけてくる。
「あの、私たちもケーキにしようと思って。よかったら一緒に作りませんか?」
 アデリーヌの手にあるレシピ本を見たミント・ノアール(みんと・のあーる)は、「これ美味しそうだねぇー」と言っている。
「ええ、是非。ご一緒しましょう」
「やったぁ! あのねー僕たちはカボチャじゃなくて梨なんだー」
「わかった、じゃあこれもいるね」
 材料台に一番近かったさゆみは、ミントに梨を手渡す。レシピを見ながら材料の調達をすると、さっそく調理にとりかかった。
手慣れない感じでかぼちゃと梨を切るさゆみに、アデリーヌは心配しながら見守る。私も最初はこうだったなぁ、としみじみ思った。
「じゃあ私たちは生地作ります。これ基本は一緒だからまとめて作っちゃいますね」
 加夜は大きなボウルを取り出して、サーッと小麦粉を入れていく。
「卵、砂糖、牛乳だね。加夜、力仕事なら僕がやるよ」
「ホント? じゃあミントお願いします。かぼちゃと梨の方はどうですか?」
 加夜はミントの方に作業を任せると、さゆみたちの様子を見る。ようやく切り分けられたところで、これから火にかけるようだ。
「えっと、加えるのはこれでいいんだよね?」
 さゆみがレシピと用意した調味料を見比べながら加夜に聞く。何分初めてなもので、何が何やらと右も左もわからない。
「ええ、そちらはカボチャに砂糖だけでいいみたいですよ」
 カボチャは砂糖のみの甘煮だが、梨の方はハチミツ、レモン汁、バニラビーンズ、白ワイン、水などを加えねばならなかった。
 アデリーヌが火加減を見てくれている間に、あとの2人はクリームを作る。
「ん〜、結構美味しい」
 混ぜているクリームの中に、梨の煮汁を加えてみたのだがミントが味見をしてみると梨のほのかな風味が広がり一味違ったクリームとなった。
「こら、ダメですよ摘み食いは! あ、でもクリームは成功ですね」
何度もクリームを舐められたらなくなってしまう。加夜はいけません、とミントの手をぺしんと叩くが、クリームは上手くできあがっていたのでその手で頭を撫でてやった。



「林田さん……、話があるってなんやろ」
日下部 社(くさかべ・やしろ)林田 樹(はやしだ・いつき)に「すまん、社長。ジーナが今後のアイドル活動について相談したいらしいんだ」……と言われて蒼空学園に来ていた。何か撮影の打ち合わせだろうと思ったけれど、スタッフらしき人は見当たらない。
「お待たせしました〜」
ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が後ろからぽんっと肩を叩いてきて、社はビクッとしてしまう。
「わっ……! ジーナ君、驚かさないでくれ」
「すみません。樹様は先に行ってるんで早く行きましょうー」
「ちょっ、用件はまだ聞いてへんよ?」
 いいからいいから、とジーナは社を引っ張っていく。ほのかな甘い匂いが漂ってくる調理室へと入らされた。料理取材なんてあったっけ?
「今時料理ヘタなアイドルってのも、バカっぽく見えるだろうしなぁ。料理上手を武器にしたアイドル育てってのもええな。そんなら言ってくれればええのに」
「でしょう? それも良いんですけど……今回日下部様はプロデュースする側じゃなくてされる側ですから! はい」
 調理台の前まで行くと、当たり前のようにジーナにエプロンとバンダナを渡された。
「おーやっと来た社長! 突然呼び出してすまない」
 林田が待ってましたと言うように社を出迎える。「される側って、何なん?」ときょとんとしていると、林田に「好きな子いるんだろう?」と耳打ちされる。
「なっなんで知っとるん……もう」
「で、皆で考えた結果、お菓子作って持ってったら喜ばれるかもって思いついたんだ。なっ?」
 林田がその場にいたジーナたちに同意を求めると、親指を立ててグッジョブ! の合図が返ってくる。
「社長―、作業取り掛からないと! いざって時に頼りになるのは社長だからなぁ」
 新谷 衛(しんたに・まもる)は、ボウルに生地の材料を既に入れて社を待っている。
「そう言われると仕方あらへんな。皆で作れば、渡せるようなものちゃんと作れそうやし」
「おー、にくいねぇ色男! そのいきそのいき!」
 りんごのロールケーキを作るので、リンゴの処理は林田たち女性陣、力のいる生地作りは社と衛の男性陣で分担することになった。
 生地が重く苦労していると、護は「こう混ぜるんだぞ、社長!」ともう一つのボウルをかき回して手本を見せてやる。
 じぃっと林田 コタロー(はやしだ・こたろう)はそれを食べたそうに見ているが、「生だからまだあかんよ」と社は止める。
「しゃしゃちょーしゃんのたべたいれす……」
「こたの助ー、俺も食べたいけどな、腹壊すぞー」
「それじゃさ、コタロー、社長の告白台詞考えてよ。こっちも考えてるんだけどイマイチ浮かばなくって」
 林田はリンゴを上手に剥きながら、コタローに言う。
「そーれすね、こたはねーたんのおてつだいするれすお!」
 挙手をするように手を上げたコタローは、持ってきたレシピノートの空いたところにぐりぐりと思いついた台詞を書いていく。
「レシピに重ねて書かないようにして下さいね」
「はいれす、じにゃ!」
 生地は混ぜ終わり、焼くとふわふわになった。リンゴの果肉が入ったクリームが舞い降りるように乗せられていく。
「こんだけふわふわなもんなら、あの子のイメージにぴったしかもしれへんな」
「あ、それ良い! 日下部様、渡すとき今の言葉も言ったらどうです?」
 ジーナが反応して提案する。
「うん。素直な言葉が通じるだろうしなぁ。きっと社長、伝わるさ」
「そっかな。ならコタローの考えてくれたのも一緒に言うことにするで」
 そっとロール状に巻いたら出来上がり。3分の2は皆で食べた。思いの他美味しくできて、あとはあの子が喜んでくれるのを祈るだけだ。



黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)はパートナーたちに誘われて、材料を料理代に運んだ。
「これで材料は全部?」
「はい、梨のタルトだから、これで十分です」
ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)は竜斗の持ってきた材料の袋から、クッキーや梨を取り出す。
「たっ、タルトってどう作るのかわからないのだよ……」
 ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)はわたわたと材料に触れる触れまいと戸惑っていた。
「大丈夫ですよ、ほらこーやって」
 ユリナは密封袋にクッキーを入れて口を閉めると、竜斗とミリーネに渡した。普段は生地を伸ばすのに使われる棒で、とんとんと叩いてみせる。
「クッキーは潰して、牛乳を混ぜて土台にするんです」
「へぇ、タルトの生地って結構簡単なんだなー」
「初めから焼く手もありますが、この方が断然簡単ですし」
 ミリーネは恐る恐る棒を持ち、「ていやぁっ!」とクッキーを叩き割った。ばきっと良い音がする。
「クッキーが増えたのだよ! あれ、でもポケットの中に入れた場合だけ増えるんだったか……?」
「増えないって。ミリーネ、そんなに強く叩かなくても大丈夫だからな」
 この調子だと袋が破れてしまいそうだ。竜斗はユリナの見よう見まねでやってみる。軽く叩くだけで、クッキーは粉々になっていく。
「ほぉ。そっか、主殿は凄いな」
「竜斗さんもいてくれて助かりました。私たちだけでは手が足りないですし」
「役立つなら良かったよ。結構お菓子って大変なんだな」
 潰し終わると、言われた通りに牛乳で練って器に貼り付けていく。
ユリナはせっせとクリームを混ぜていた。
「ねぇねぇ、まだ? お菓子まだー?」
 リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)は調理しているところにのぞき込んできた。お菓子が食べられると聞いて付いて来たのだ。
「ごめんな、ちょっと待ってくれよ。他のグループ見学とかして来たら?」
「わかった、待ってる!」
 竜斗の勧めもあり、リゼルヴィアはたたたっとかけて行った。
「竜斗お兄ちゃーん、梨貰ったよ!」
しばらくしてリゼルヴィアは梨のコンポートを器に乗せて戻ってきた。火を通したからか、甘い匂いが増しているようだ。
「そちらも梨を使うと聞いて、よかったらもらってください」
加夜の方で作りすぎてしまい、おすそわけしてくれるようだ。リゼルヴィアが見学に回っていた時に、味見させてもらうと「どうぞ」と余計にもらえることになった。
「そういえば、梨の準備がまだでした……。ありがたく頂きます」
 ユリナはペコ、と頭を下げた。クリームをカスタードとアーモンドの二種作っていたので、肝心な梨のことを忘れてしまっていた。
「一緒に作ってるさゆみさんたちがカボチャで、つい梨同じ量ぐらいになってて。無駄にならなくて私もありがたいですよ」
 後で味見し合いましょう、と加夜は言うと去っていった。