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秋のスイーツ+ラブレッスン

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秋のスイーツ+ラブレッスン

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「えっ皆芋大福知らないのか?」
 蔵部 食人(くらべ・はみと)は驚いた顔をした。同じ調理台のグループに、芋大福という故郷のお菓子を知ってるかと聞いたら大半が知らない、というのだ。
「普通は小豆の餡子だろ? けどサツマイモを練って餡にするんだ」
「へぇ、あなたもサツマイモですか。私も和風にサツマイモのケーキをと思いまして……。後で是非味見させてくださいね」
九十九 昴(つくも・すばる)は和かに食人に笑いかけながら、調理台に着いた。
「え、ああ……かまわない」
 別に自分の物を食べてもらうのは大歓迎だ。けれどお礼に、と九十九の料理を食べることになったらどうしようと気が気でない。
今更調理台を移るのも変だし、何でもないふりをして作業をしようと決めた。
 昴と同じ材料仲間ということで、食人とサツマイモの皮むきをすることになった。
 芋を蒸すために蒸し器にを用意して、その中に入れる。蒸かした方が柔らかくて皮もむきやすくなるのだ。
「そちらは偶然にも芋菓子がそろったでございますか」
九十九 天地(つくも・あまつち)は器用にくるみと栗を割っていく。栗は日常的に食べることが多いし、割と慣れているようだ。
「天地はモンブランとかでしたっけ。和洋折衷でいいじゃないですか」
 芋を蒸す間に、昴はリンゴを切って火にかける。手際の良さに食人は感心した。
「リンゴも使うのか?」
「ええ、余裕がありそうなんでアップルパイも」
 だいぶ火が通ってくると、芋のほくほくとしたにおいと、リンゴの甘いにおいが混ざってなんとも言えないにおいになった。
「凄いにおいでございますね。甘ったるいというか」
「お菓子を作っているのですから、辛抱です」
「そしてもう一つのお楽しみももう少しの辛抱でございます」
 もう一つって? その場の誰かは聞きたかったけれど、天地の含みのある言い方は、聞けるような内容ではないかもしれない。
 天地は作業が早いのか、もう栗をペーストじょうにしていて、垂らすようにケーキに盛り付けていく。
「あ、モンブランの少し残っているから味見してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
 昴は天地の材料を味見させてもらい、「美味しいー」と満足気のようだ。傍のグループから、食べたそうな視線も少し感じる。
 芋の処理をした後は、食人は水飴などを混ぜて餡に。昴は角切りにして、そのあとスポンジ記事に混ぜたあとはどこで焼いているのか芋ケーキの姿が見えない。着々とパイ生地を捏ねている。
「昴さん、ケーキはどこで焼いてるんだ?」
「炊飯器です。なんでもオーブンを使っては場所を取るでしょう」
 食人は芋餡に、大福の餅を捏ねなければならない、という重労働で作業が遅くなり初めていた。
「手伝おうか?」
 浅見 享(あさみ・とおる)が、苦戦しているところに話しかけてきた。
「ホントか? 助かる。今回、思ったより餅生地が必要みたいで」
「大福か。美味しそうだな」
「もちろん出来たら食べていいからな!」
 享の手伝いもあり、遅れを取っていたが何十個もの芋大福が完成した。「故郷のお菓子なんだ」と言いながら、享と二手に別れて皆に配っていく。



「皆この季節だから冷たいものは少ないですよね」
鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は梨の皮を向いていた。パートナー達はシフォンケーキを作るらしいので、それに添えるサッパリデザート、というわけだ。
「主様、わらわは何かすることあるかのう?」
医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)は貴仁の手元をのぞき込む。作り方はわからないので、どうするのだろうと観察していた。
「じゃあ、房内さんは剥いたものから剃りおろしてくれますか?」
「よし、わかったぞ。わらわも手伝うのじゃ!」
「あ、剃りおろし器終わったら貸して下さいね」
常闇 夜月(とこやみ・よづき)は使うはずのものが見当たらない、と思ったら、房内の手にあったのだ。
「夜月、準備だけはしちゃいましょうよ」
鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)はその内に芋をなんとかしようと圧力鍋で火を通す。夜月と一緒に安納芋を使ってケーキに混ぜるのだ。余る分を見越して、スイートポテトの準備をする。
「そうですわね。私は生地作ります」
 夜月はホットケーキの元をさーっとボウルに流し込むと、卵などを入れて混ぜ合わせる。
 梨は剃り終わったようで、早々と芋を剃り潰せることができた。
「蜂蜜を混ぜて……、それじゃあ僕たちの方はこれ凍らしてきます」
貴仁たちは作業をもう終えてしまい、冷凍庫へとペースト状になった梨を入れにいった。
「もうできたんだー、こっちはクリーム混ぜてるとこなのに」
 白羽は焦って生クリームをがちゃがちゃと混ぜ始めたせいか、夜月に少しだけべちょ、と顔にかかってしまった。
「あ……、気を付けて下さいね」
「ごめんっすぐ拭くから……」
「ふふ、そこは白羽が舐めてやるとこじゃないかのう?」
「バカ言わないで。空いている炊飯器に、バターを塗ってもらえますか?」
 貴仁に付いていかなかったのか、その場にいた房内はくすくすと二人をからかう。けれど口を出したせいで用事を任されてしまった。
「むぅ、もうちょっと見物させてくれんかのう」
「まぁまぁ。貴仁の分もあるんだし、美味しいのできる予定なんだから」
 少し残念だけれど、主様のためなら、と快く引き受けた。
 芋クリームと芋生地が揃うと、慎重に炊飯器の中へと流し込む。中にクリームを入れるので、3人ががりで頑張った。

「皆ちゃんと進んでるかな……」
貴仁が持ち場に戻ろうとすると、「よかったらどうですか?」と九十九 昴に呼び止められる。トレイに乗せられたアップルパイをひと切れ取り、礼を言った。
「後で僕たちのところにも来てくださいね」
「ええ、是非」
 昴はにこりと微笑み、去っていく。隣にいた天地はにやりと笑った。
「うん、リンゴもいいですね……っ!? さかな……?」
 美味しいと思って口に入れたのだが、途中から魚介類の味がして思わず貴仁はしゃがみ込む。
「(何これ……でも吐くわけには……っ)」
 アップルパイをくわえたまま、倒れてしまった。そこに具合の悪そうな蔵部 食人が、屍のように貴仁の安否を確認するために這っていく。
「くそっ……犠牲者が……忠告しておくべきだったか……ぐぁあっ」
≪50年前の恨み……晴らしてくれるわ≫
 どこからか怨念のような声が聞こえた。銀色の鱗が二人の脳裏を過ぎり、泡をぶくぶく吐いている。あまりの事態に女子生徒の悲鳴があがった。
 倒れた二人はシャケ……シャケ、とわけのわからないことを呟いている。
 貴仁のパートナーたちを知る者が知らせてくれたおかげもあり、急いで夜月、白羽、房内が駆けつけた。
「主様……!?」
「夜月、ヒールとナーシングを!!」
「わかってますわ!」
 房内の激昂の協力で、夜月はヒールとナーシングを使い、直ぐ様二人を治療する。同じような症状で倒れている人を見つけては、手当をしてあげた。
「皆ありがとう……。何があったんだ……」
「九十九たちにやられたのさ……、ううっまだ気持ち悪い」
「応急処置みたいなもんだから……。食人さん大丈夫ですか」
 とりあえず起き上がる貴仁と食人。熊にズタズタにされた鮭の怨霊が一瞬取り付いたせいで、口当たりが生臭い。
食べたものは芋やリンゴ、小麦粉など原材料は魚介類とは関係ないのに、どうしてなんだと呆然と考える。
 気分が落ち着いたところで、改めて自分たちのグループお菓子を分け合い、口直し。何倍も美味しく感じられた気がする。

「……毒物でも使ったのか?」
 騒ぎを聞きつけてきた海はじろりと九十九たちを怪訝そうに見る。原因となった超本人たちは何事もなかったような顔をしてにこりと答えた。なんなら調べてくれてもかまわない。
「「いえ、全く……。どうされたんでしょうね」」