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秋のスイーツ+ラブレッスン

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秋のスイーツ+ラブレッスン

リアクション

「あーあれが女子力の鏡という奴かぁ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、詩穂を見て感心する。さっきも褒めたけれど「いやー、大人の女性の色気には勝てないよー」と詩穂に言われた。あまり年齢差はないのだけれど……。
「あの子は可愛いしぴったりだけど、セレンはスイーツかっこ笑い、になるだけよ」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は忠告する。かっこ笑いって何! と問い返すと嘲笑的な意味だそうだ。
 セレンフィリティは見た目こそスレンダーだけれど、料理が苦手なもので女子力を上げたかった。
「アップルパイならセレアナも食べるでしょ?」
「出来によるけどね。生焼けとか黒焦げなら、何もしないで丸かじりした方がいいもの」
「見てなさいよ! 美味しいの作るんだから!」
 まずはリンゴの皮むき。まだらになりながらもやってる本人は慎重なつもりだ。ガッと一気に剥こうとしたら、少し手を切って血が出てしまった。
「〜〜〜〜っ!」
「手の皮剥いてどうすんのよ、ほら」
「ううっ……ありがと」
 傷を作ってしまったが、セレアナがすぐにヒールで治療する。時間はかかるが包丁よりマシ、ということでピューラーを使って剥いた。リンゴの下処理をし、簡単なレンジで加熱。次は生地作りだ。
「すばやく混ぜなくっちゃねぇ。とりゃああっ!」
 セレンフィリティは指示通りに材料を入れたはいいものの、とにかく力任せに生地を混ぜる。器材がちょっと心配になってくるくらいだ。女子ってレベルじゃない。
「もっと丁寧に扱いなさいって。こうすんの」
「でも時間かか……」
「勢いで生地が吹っ飛ぶかと思ったわよ? プロでもやらないでしょ」
 そうだね、とセレンフィリティは反省する。
それ以降は、レシピ本とにらめっこしながら、丁寧に作業をするようになった。レシピ本の一言アドバイスを元に「こうした方がいい」と言えば素直にやり通す姿に、内心、集中すればできるじゃないのとセレアナは感心する。
「ね、その網取って」
 網状の小袋を取って渡すと、先ほど剥いていた皮を入れている。細かくなってしまったのでまとめて、アップルティー用に煮出すらしい。
 先ほど作業していたパイの方はというと、少し目を離した隙にオーブンで焼いているところだと言う。
「大雑把でも目的のためには頑張るわよね」
「また不味いとか言われるの嫌だもん。それなりに、私も上手くなりたいし」
 皮の煮出しに紅茶のティーバックを入れたりと、てきぱきと作業を進めている。出来上がってセレアナが食べてみると、意外に美味しくできあがっていた。
「あら、たまにはやればできるじゃない?」
「でしょっ! 女子力あっーぷ!」
「ちょっとだけね。アップルティー、おかわりもらえる?」



 皆苦戦したり楽しんでお菓子作りを楽しんでいる中、イングリットがその様子を見て回っていると瀬道 聖(せどう・ひじり)が「監視役頼めるか?」と呼び止めた。
 パートナーが凄い料理下手なんだ……と耳打ちする。
「それは気を付けないといけませんわね……」
「何話してるの? そうだ、イングリットさんも一緒に作りましょうよ」
幾嶋 璃央(いくしま・りお)はにこやかに誘う。監視役を頼んだが、聖は犠牲者を増やすのでは? と心配になった。
「まだ決まっていないようなら、このページの葡萄のチーズケーキとかどうでしょうか。用意はしたけど、葡萄が余ってるんですわ」
「美味しそう! 私葡萄好きだし」
「焼かないで冷やすやつか。これならよさそうだ」
 イングリットの勧めにより、決まったところで材料を集める。クリームチーズの塊をなめらかになるまで混ぜるのだが、璃央は上手く崩せずに苦労していた。
「そんなんじゃパンに塗った方が早くないか? ほらこうやんだよ」
 貸してみ? と聖はボウルを抱えると、手際良くかき回してあっと言う間になめらかクリーム状になった。
「聖は力があるからなぁ……。でも裁き技じゃ負けないんだから!」
 璃央は負けじと巨峰を手に張り切る。まんまるな巨峰を半分に切るのだが、ころころと逃げて切れさせてくれない。
「本の通りじゃないけど、皮剥いてからのほうがいいかもですわ」
 皮付きのせいで余計に転がる。イングリットのアドバイス通りで多少は転がらずに切れた。
 聖はヒヤヒヤしたが、無事に切れて安心した。
 先程のチーズには溶いたゼラチンと葡萄ジュース、レモンなどを入れてよくかき混ぜる。柔らかくなったので、これは璃央にもできた。
「タルト生地は俺が作っとくか? ボロボロになりそうだし」
「大丈夫よ、聖はアシスタントしてくれればいいわ」
 そうとう酷い、とは言うものの確かに璃央の手つきは危なっかしいが初めて安全なものができるんじゃないかと思ってしまう。一人だと適当に作ってしまうが、傍でじっと見ていられると「ちゃんとやろう」という意識が高まっているのかもしれない。
 型にはできたタルト生地を貼り付け、生地を流し込む。冷やしてちゃんと固まったらあとは切り分けて完成だ。
「冷やす間、ちょっと暇になるな。俺は見回ってくる」
「じゃあ巨峰があまってるから何か作るね!」
 大丈夫かよと心配そうに聖は言うが、璃央はコツを覚えて自身が付いたようだ。
「後で飾り付けにミントを持ってきますわ。お疲れ様です」



及川 翠(おいかわ・みどり)は初めてのお菓子作りに挑戦するべく張り切っていた。扱うのも初めてな器具や、レシピを眺めたりしているだけでも楽しい。
「先生! 今日はご指導お願いしまーす」
「いつものようにミリアでいいわよ。先生って言っても、今日は料理上手い人揃ってそう」
ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は周りをちらりと見て言った。
「ミリアお姉ちゃんは私にとって先生なの! それで……、この梨をどうすれば?」
「皮むいて切らなきゃね、そしたら甘く煮るの」
 梨のトルテを作るので、梨の下ごしらえだ。こうやって、こう、とミリアが包丁を使ってお手本を見せると、翠は見よう見まねで慎重にやってみる。けれどイビツになってしまった。
 ううっと苦戦していると、ミリアは後ろにまわって、手を添えて教えてくれた。
「なるほど、先生の手の動きはこんな感じだったんだ……!」
 なんだか新発見したような気分である。次は簡単なトルテ土台のクッキーを潰す。翠がそれをやっているうちに、梨を火にかけてクリーム作りに入った。
「カスタードクリーム? 舐めてもいい?」
「味見程度には。一口だけね」
 シュークリームに入っているのよりも、ちょっと硬めなクリームは甘くて美味しい。さすが先生。その代わり梨を見ていてと頼まれた。
「えっと……砂糖とレモンを入れて……こんな感じかなぁ」
「慣れてくれば分量はからなくてもできるようになるわよ」
 作業に集中していると、どこからか悲鳴だの、器具を落とす音だの、それに混じって甘いとか美味しいとか聞こえてきて、翠はうずうずしてしまった。
 他のグループは何が起きているんだろうと、心配と好奇心で意識がそっちに行ってしまう。
「他も見てきていいかなぁ。タルトとか、言われたところまで終わったから」
「いいけど、巻き込まれないようにね?」
 わーい、と翠はその場を離れる。戻ってきた時には、梨のタルトは無事完成していた。ただちょっと梨を甘くしすぎてしまったので、また先生に習おうと思う。



秋と言えばキノコ。それ以外ってなんだ? と花京院 秋羽(かきょういん・あきは)はスイートポテトならぬスイートキノコを作ろうとしていた。
キノコスープもあるんだから、お菓子もあって不思議ではないだろう。
 とりあえず潰すことはできないので、フードプロセッサーにかけ、途中で生クリームを入れてペースト状にする。
 やってみたことはないが、スイートポテトの応用ならなんとかなるだろう。
「大丈夫なのか? キノコとか……」
ティラミス・ノクターン(てぃらみす・のくたーん)が心配そうに眺めてくるが、自信満々に秋羽は言う。シャルロッテに美味いもの作るんだと張り切っている。
「料理作りは得意なんだ。だからお菓子は俺に任せてシャルロッテとシェリオの面倒を見てやってくれ」
 いや自分も料理できますけど? とティラミスも言いたいが、善意をここで否定するわけにはいかないだろう。
「俺は可愛い子いないか探してくるぜ」
 シェリオ・ノクターン(しぇりお・のくたーん)は、はなからお菓子作りには興味がないようで、女子が多いからという理由で付いてきた。
「探検ですか? シャルちゃんも付いていってやるですよ」
「そーか? んじゃあフォローよろしくな」
 シャルロッテ・マミルナ(しゃるろって・まみるな)は、自分の誕生日のことを今年は触れられておらず退屈にしていた。秋羽は作業に熱中しているし、どうせならシェリオにでも同行しようと思った。
「あんのバカまた女漁りか……、シャルロッテに変なこと教えこまないだろうな」
 ティラミスはゲテモノ料理も心配だが、今回の参加の目的に反しているシェリオことバカ兄が心配なので、そっちを監視することにする。
「シャルロッテ、これ付けて回った方が可愛いんじゃないか?」
 ティラミスは数本の花をシャルロッテの衣服に刺す。
「わーい! シャルちゃんに似合うです!」
「花瓶みたいだなぁーここから抜いてプレゼントすっかぁ」
 いやだからそういう意味じゃない、バカ兄。と殴るとこだが、もう二人は姿を消してしまった。
「おいしそうな奴、発見だぜぇです!」
「おおっホントだ金髪の可愛い子〜っ」
遠くで二人の声が聞こえる。包丁とか伸ばし棒とか、武器になりそうなものはたくさんあるから、引っかかっちゃった子はそれで応戦してくれたらいいのにと思う。
 のりのりで創作キノコお菓子を作っている秋羽は、焼きあがったスイートキノコを手ににこにこと「できたぞー」とティラミスを呼んだ。
「あれ、シャルロッテは? 一番に食べさせてやろうと思ったのに」
 きょろきょろと探すように見渡して言う。一応「誕生日おめでとう」と書かれたチョコプレートが乗っている。これだけはマシそうだ。
「僕が探して、渡してくるよ。行った方向はわかってるから」
「ありがとな。んじゃあまかせる。喜んでくれるといいなぁ」
 見た目はなんでも無さそうだが材料はキノコ。お菓子にして大丈夫なのかと心配はあったが、どんな味になっているのか興味はあった。つまみぐいをすると、砂糖とキノコの味が分散して大変な味になっている。
秋羽から直接渡らずにセーフだなと思った。せっかくの誕生日なのに可哀想だ。
「けど予備があるし、チョコプレートだけ移そうか」
 こっそり持ってきたカボチャチーズケーキにそれを乗せ、あとは渡すだけだ。それとこのゲテモノキノコだけど……。
 にこやかに「よければいかが?」なんて無断で周りに分けていく。奇妙な味に苦い顔をしたとしても、知らないふり。

「秋ちゃん、(カボチャの)ケーキ美味しかったですよ! 誕生日覚えててくれたですかぁ」
「もちろんだろ? 誕生日おめでとう。 ならまた今度も作ってやるからな」
 スイートキノコの最後のひと切れは、シェリオにあげた。後味悪そうな顔をしている。
 秋羽とシャルロッテが満足そうにしているから、終わりよければそれでよし。