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戦乱の絆 第二部 第一回

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戦乱の絆 第二部 第一回
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リアクション




メガフロート/管制室

 太平洋上に浮かぶメガフロート、『ネオ・アクアポリス』。
 海底遺跡発掘の為に急きょ準備された、200メートル四方程の規模の海上建築物である。
 現在アーデルハイト・ワルプルギスが結界を張る、女王器の眠る遺跡とは、メガフロートから、二基の海中エレベーターで繋がっていた。

 破壊された防火シャッターの向こう、急遽作られたのだろうバリケードの前で、エリュシオン兵が警備兵と交戦している。
 ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)達と共に駆け付けた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)樹月 刀真(きづき・とうま)達が、すかさずそこに加わった。
「シャンバラの契約者どもか!」
 エリュシオン兵はティセラ達の姿を見とめ、苦々しく呟く。
 刀真はちら、と敵兵達を見渡した。
 ざっと見たところ、恐らく敵歩兵の戦力は高レベルの騎士や魔術師、恐らくはパラディンやメイガスといったところだった。
 シャムシエルの姿は無い。
 横目でティセラを伺えば、ティセラも同じことを思ったのだろう、落胆とも安堵ともつかない、微妙な顔をしている。
 親友2人が海底遺跡に向かい、ティセラが1人メガフロートに残ったと聞いて、彼女を心配して一緒にいることにしたが、2人が対面するような事態にはならずに済むだろうか。
「あのバリケードの向こうが、管制室ね!?」
 言って攻め込む祥子に、パートナーの魔道書、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)がパワーブレスを掛け、祥子の手の回らない敵を見逃すことのないよう、全体を見渡せるように一歩後退した。
(戦功を上げれば、ティセラの立場はもっと良くなっていくはず……。
 こういう時に頑張らないと!)
 一方で、ティセラの恩赦の為にも、と、刀真も考えていた同様のことを思いながら、祥子はティセラの補佐をしつつエリュシオン兵を排除して行く。
「手加減は、しないわよ!」
「こちらもだ」
 敵の戦力が解らない状況で、手加減や捕縛などに時間を割いていられない。
 ぽつりと低く呟いて、パートナーの剣の花嫁、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と共に、刀真も確実に敵兵達を一刀両断して行った。


「状況は!?」
 管制室を制圧しようとしていたエリュシオン兵を一掃し、バリケードを越えて、中へ踏み込む。
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)の問いに、入って来た一団を見渡して、管制室内にいた、責任者と思われる男が敬礼をした。
 中にいる人数は少ない。
 襲撃して来た敵兵に、少ない警備兵と共に応戦した為だろう。
 ティセラ達がここに辿りついた時に、既にその半分は倒れていた。
「ここを任されております、天御柱の加藤です。助かりました」
「教導団のクレア・シュミットです。……状況は」
「奇襲をかけた敵部隊は、大きくして、ここ、管制室と、海底遺跡に向かう二手に分かれたようです。
 他にも細かく分かれた少数の部隊があるかもしれませんが、奇襲だけあって、大規模部隊ではありませんでした」
 加藤の説明に、クレアと同様、情報の統括の為に管制室を目指した佐野 誠一(さの・せいいち)が眉をひそめた。
「これから、ということか」
 そう、今正に、次の手が打たれている。
 敵イコン部隊は今にもメガフロートに到着するところだ。
「海底遺跡に降りるエレベーターの内一基を占拠され、強襲してきた歩兵の多くは、既に海底遺跡へ降りています」
「ちっ……」
 誠一は目元を歪める。
「それと、特筆すべき点かどうかは解りかねますが、同じ顔を複数確認しています」
「同じ顔?」
 誠一が首を傾げる。
「画像を」
 加藤が近くの管制官に指示をすると、心得たようにその管制官は、何枚かの静止画像をモニターに表示させた。
 そのどれもに、シャムシエルが写っている。
「同一カメラでの、別時間でのものです。一方通行ですから」
「シャムシエルが、複数?」
 ティセラが瞠目する。
「……心当たりは?」
 祥子の問いに首を横に振る。
「いえ……。でも、あの人でしたら……」
 あの男になら可能なことだろう、と、思い出すのは、体半分が機械化された人物だ。
「ここ、警備システムはないの?」
 訊ねたのは高島 真理(たかしま・まり)である。
「ボクがそこを死守するよ!」
「基本的に、軍事目的の施設ではないので、そういったものはありません。
 監視カメラ程度ならばありますが……」
 無いんだ、と、真理は落胆する。
「監視カメラの映像は、何処で確認できるのでござるか」
 真理のパートナー、英霊の源 明日葉(みなもと・あすは)が訊ねる。
「モニター室は隣りです」
 管制室に、モニター室へ通じる扉がある。
 示されて、明日葉と真理は頷いた。
「では我々はそこを」
「とりあえず、あちこちどうなってるの!?」
 明日葉の断りを待たずに、真理は小走りでモニター室へ向かう。
「……前線はお預けのようでござるな」
 そんな真理に続きながら、明日葉は小さく呟いた。
 栄えある敵との戦いは、いずくにありや。

 真理はモニター室に飛び込むと、管制室とマイクで繋がっているのを確認した。
 続けて、壁一面に並ぶモニターを確認して行く。
「Aモニター、Bモニター異常なし」
「C10モニターにエリュシオン兵と思われる小隊を確認。これは、エレベーター前でござるな。人数は――10人」
「F8モニターにもだよ! イコン格納庫!」
「D3モニター……これは、契約者? でござるか? D5モニターへ移行」
「こちらに向かっていますね」
 それを聞いた加藤が言う。
「フロート内の全体図はあるのか?」
 誠一の問いに、加藤は近くの管制官に指示をする。
「出します」
「真奈美」
 誠一はパートナーを呼んだ。
 強化人間の結城 真奈美(ゆうき・まなみ)は心得たように
「了解しました。皆さんに内部図を送信しますね」
と頷き、HCを通して、メガフロート内の契約者達にそれらの情報を随時提供して行く。
 そして、フロート内に散らばっている契約者達からの伝達があれば、すかさずそれを全員に回し、情報を同期するようにした。

「メガフロートというのは、ユニットの集合体なのであろう」
 クレアが言った。
 海上で複数のユニットを繋ぎ合わせてひとつの建造物にする、メガフロートとはそういう構造になっている。
「ならば、不要なユニットは切り離し、あるいは隔壁などを遮断して敵の侵入経路を限定させるようにはできないか」
 そうすれば、迎え撃つこちら側の戦力も集中させられる。
「敵の狙いが女王器であるのなら、少なくともそれが入手できるまで、メガフロートを沈めるような真似はせず、ここを遺跡への侵入路とするはずであろう。そこをつく」
「いえ、それはやめた方がいいでしょう」
 加藤は反対した。
「それはフロート上にいる味方側にとっても不利になるでしょう。
 それに、フロートはここからの操作で自動では切り離せません」
 勿論、フロート間の接続は、何かのボタンを押せばすぐに切り離せるような簡易的なものでもない。
「……そうか」
と、クレアは眉を寄せた。
「隔壁は?」
 誠一が訊ねた。
「敵の攻撃を防げるほどの隔壁というものはありません。防火シャッターならありますが」
「くそ、だが無いよりはマシだろう。時間稼ぎくらいにはなる」
 それはこちらから操作できるんだな、と問うと加藤は頷く。
「ですがシャッターの場所からも開閉操作はできます」
「ちっ!」
 それでは殆ど役には立たない。誠一は頭を抱えた。
「とにかく、全体の把握はここでできる。
 敵の動きを把握して契約者達を有利に動かすよう指示を出す」
 クレアの言葉に、確かにそうだと誠一も気を取り直す。
「敵の主目的が遺跡への侵入である以上、焦って水中戦を仕掛ける必要もないと、各イコンに通達した方がいいでしょう」
 クレアのパートナー、守護天使のハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が進言した。
「通達するまでもないとは思うが」
とクレアは頷く。
 現在メガフロートに来ている味方側のイコンに、水中仕様となっている機体は僅かだ。
 むしろ、万一味方側のイコンが海中に落とされてしまった場合の懸念をすべきかもしれなかった。



「……なぶら」
 案じるように名を呼ぶパートナーのヴァルキリー、フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)に、相田 なぶら(あいだ・なぶら)は苦笑した。
「仕方がない。ここは頑張るしかないさ。
 ……シャンバラの敵に回るのは、正直辛いけどねぇ」
 それでも自分の意志で、覚悟を持って、ヘクトルにつくと決めたのだ。
 召集がかかったからには、第七龍騎士団員として、責任を果たすつもりだった。
「……それに。やっぱりまだ、アイシャさんが女王だってことに、納得できてもいないしね……」
「……それなら、いいのです」
 後悔も迷いもないのなら。
 フィアナ自身、どちらが正しいのか、未だに解らないが、なぶらが自分で決めたことなのだから、それを支え、ついて行くつもりだった。

 2人は、メガフロート上に上陸すると早々にイコンを乗り捨ててイコンの戦闘区域を避け、何とかメガフロート内に侵攻して、その主要施設を目指していた。
 少数で、犠牲を少なく攻めるには、中心部を制圧するのがセオリーだからだ。
「……あまりシャンバラの人を傷つけたくないし……戦うしかないけど、せめて同じ第七龍騎士団の仲間は護れるようにしないと……」
 イコンで戦っているだろう彼等の援護となる為にも。
 そうして管制室に向かってみれば、既に戦闘は始まっていた。


 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、ティセラ達が管制室内に入った後も、パートナーの剣の花嫁、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)スと共に管制室の外に残り、バリケード前ではなくあえて別の物陰に潜みつつ、敵襲を警戒していた。
「とうとうこの日が来てしまいましたね」
 レジーナが憂いる。
 シャンバラとエリュシオンの、本当の全面戦争。
 何らかの建前の上で成されていた今迄のものとは違う、はっきりと宣戦布告された、本当の。
「でも、私は逃げません。
 今度こそ……本当の意味での、シャンバラの未来を」
 健勝の側で、ブラックコートをまとって身を潜め、レジーナは心に誓う。
「……いずれ、こうなることは解り切っていたことであります。
 教導団として! 国を侵略するものと、自分は戦うのであります!」
 健勝は、決意を込めて、ラスターハンドガンを握り締めた。
 それは、メガフロート施設に被害が及ばないよう、敵のみに攻撃するよう、設定してある。

 管制室は、解り難い場所にあるわけではなく、所々の通路には表示板もある。
 そんなわけで、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は、それまでのエリュシオン兵と同様、特に迷わず管制室まで辿りついた。
 何故ここを目指したかと言えば、解り易く契約者達がいそうだと思ったからである。
 ――暴れられそうだ、と。
 近付く男がエリュシオン兵ではないことは察せられたが、その獰猛な雰囲気もまた、感じ取って、健勝は、竜造を敵と判断した。

「管制室の外で交戦だよ!」
 モニター室からの真理の声に、ティセラや刀真達が素早く管制室を飛び出す。
 襲撃側に相田なぶらも加わってのその戦闘の中、リジェネーションによる自動回復中の負傷に構わず、長ドスを手に、健勝に接近戦を仕掛けていた竜造は、ティセラの姿を目にすると、にたりと笑った。
「は! てめえもここに来ていやがったのか! いいね! 俺と殺しあおうぜ!」
「……あなたは」
 ティセラは表情を曇らせる。
「フン、武器庫の大将風情が。
 お前等も物好きな奴等だ。とっくにくたばった女王の為にこんなところでセコセコ働いているんだからな!」
 剣の花嫁のことを、武器庫、という言い方を竜造はした。
 だがティセラはそこではなく、女王のことを言われて表情を険しくする。
「……女王は死んでいない」
 低く、そう口を挟んだのは刀真だった。
「はは! そうだったな。
 最近生き返ったらしいが、死んだならそのままくたばってろってんだ!」
「……」
 せせら笑う竜造に、ぐっと息を飲み込んで、ティセラが静かな動作で剣を構えた。
「……わたくしは、」
 ティセラは、今迄ロイヤルガードとしての任務にも控え目に徹し、前線に出ることを好まなかった。
 功を上げて自分の罪を軽くする為に、自分の為に他人を斬ることを潔しとしなかった為である。だが、
「その方を愚弄されることを、黙過するわけにはまいりませんわ」
「ティセラ、挑発に乗らないで」
 怒りを滲ませるティセラに、祥子が囁く。
 見守ってやりたいが、ここで“ティセラが”この男の首を跳ね飛ばすことが、ティセラにとって良い方向に働くのか判断できなかった。
 敵には違いないだろうが、竜造の立場がはっきりしない。
 第七龍騎士団ならばいい、だが違うなら?
 地球人である竜造を殺すことはティセラにとってどう影響するだろう。
「下がれ。俺が相手する」
 だから、その為に自分達がいるのだと、刀真が前に出る。
 気配を消して潜んでいた竜造のパートナー、松岡 徹雄(まつおか・てつお)が煙幕をばら撒いた。
 その瞬間、動く者達が、同時に動く。

 ――その戦闘は、長くは続かなかった。
 竜造は殆ど見境なく豪快に暴れたが、冷静に見れば結局は多勢に無勢、状況に気を配っていた徹雄が、劣勢を判断するや、無理矢理竜造をつれて撤退したからである。
 なぶら達もそれに続き、管制室は護られた。