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見えざる姿とパンツとヒーロー

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第六章

 インヴィジブルポーズを見失っていた。
 更衣室、廊下、階段の順で現れた変態紳士は今どこにいるのか?
 彼、彼女らはやはり、探すよりおびき寄せる方が効率がいいと考えた。


 
 目つきの悪い銀髪をショートにしたセイバー樹月刀真(きづき・とうま)もその一人。下着を餌に、屋上に罠を仕掛けていた。
「これでよしっと」
 刀真が餌として用意した下着は彼のパートナーのを勝手に拝借してきた物だった。それは黒や赤といった派手なものから少々刺激の強い物まであった。
「それにしても派手でエロいですねー。でも、これなら確実に成功しますね」
「何が?」
「それはもちろん、罠の餌としてに決まどぅわァァ!?」
 いつの間にか、背後にいたパートナー、長く綺麗な黒髪に儚い印象を与える剣の花嫁、プリーストの漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)は、見れば全身から陽炎のように何かを立ち昇らせている。
「ない……」
 下着が、ということはすぐに分かった刀真。
「月夜サン? これはですね、なんと言いますか……そう、変態が盗んで行ったのを今見つけたんですよ! ですから、その光条兵器をしまって、すぐに変態を探しに行きましょう?」
「変態発見」
「いえいえいえ、違います違います、これは何かの誤解ですから、その黒い光の断頭斧はしまって、ね? そんなものでおしおきされたら、俺は死んでしまいますよ」
「わかった……」
 光条兵器をしまう月夜。
「ああ、わかってくれて何よりです。さぁ、ここは俺が見張っていますから、君は犯人を捜しに……」
「素手なら死なない」
「いえ、あの月夜? 死ななければいいのではなくてですね? なんというか、その……一言だけいいですか?」
「なに?」
「ガーターベルトはエロすぎると思いまプゲラァッ!!」
 月夜の右ストレートは、それはそれは綺麗なフォームで、刀真も、それはそれは綺麗な放物線を描きました。


 殴り飛ばし大会があれば優勝するほどの記録を出しているのを背景に、乳白金の髪をポニーテールにした胸が大きい以外は普通のウィザード周藤鈴花(すどう・れいか)は、自分の下着を餌に罠を張っていた。
 建前上の理由として、屋上で乾かす為に干しているが、その下着の中には鈴が仕掛けてあり、盗ろうとすればすぐにわかってしまう。更にその下にはトリモチが仕掛けてある。近づくだけで足が地面とくっついてしまうというものだ。
「ペンキも仕掛けたかったけど、他の人たちが掛る可能性が大きいわね」
 屋上の入り口にペンキを撒き、足跡を付ける罠だったが、他の人の出入りが激しい為、断念する。
 頑張って作った罠だが、彼女の本当の目的は捕まえる事ではない。むしろその逆。しばらく泳がせ、捕まえようと躍起になっていいる人たちを見て楽しみたいのが本心だった。
「さ〜てっと、どうなるかなぁ〜」
 自分の罠に掛るもよし、他の人の奮闘を高みの見物するもよし。
 ただ、簡単に捕まえられてはつまらないので、一つだけ、仕掛けを用意した。それが、どうなるかはまだ解らない。


「まぁてぇ〜」
「きゃ〜〜助けて〜〜!」
 少なくはない罠が仕掛けられた屋上で、奇妙な光景が展開していた。
 それは、熊が女性を襲っているようにしか見えない。しかし、その熊は獣という意味では合っていたが、中身が違った。
 黒髪を角刈りにした学生に見えないセイバーベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は、熊のきぐるみを着て、パートナーである黒髪ロングの美少女の剣の花嫁、プリーストマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)を追いかけ回していた。
 これが、ベアの考えた囮だった。一部からはヒーロー、変態紳士と言われ、女性が襲われているのを放っておく筈がない。っと言う訳で、熊に襲われている女性を演じているのだが。
「食ぁべちゃうぞぉ〜! ジュルリッ」
「今ジュルリッて言わなかった? 空耳?」
「くま〜〜!!」
 一瞬の隙に熊男に捕まり、押し倒され、圧し掛かられるマナ。
「ぐふふ……さぁて、どうしようかなぁ〜?」
「こら、このバカ熊、離して、ちょっ、その笑い方いやらしい」
「むふふ」
「あまり変わって無い!」
「それじゃぁ、いったっだっきま〜す!」
「きゃ〜! 本当に襲うな〜!」
 その時、ゴンッという音が鳴った。続いてドサッ、ゴロリ。
 誰かがベアを後ろから殴り、気絶したベアがマナの上に倒れ、それを横に転がした音だ。
「大丈夫か?」
 そこには二人の男子がいた。
 一人は緋桜ケイ(ひおう・けい)と言う名のウィザード。ぼさぼさの黒髪、顔はかわいいが目つきが悪く、見た目は女の子だが男だ。
 もう一人は顔を縞模様のマスクで隠しているため誰だか分らない。二人は襲われていると思い、助けた様だ。
「今のは囮で……ううん、本当に襲われてからありがと」
 熊のきぐるみを足蹴にしつつお礼を言うマナ。
「いえ、当然の事をしたまでです」
 覆面男がそういうケイが何かに気づく。ケイは今この男にあったばかりだが、今の言葉は聞き覚えがある。
 それは、情報を集めている一葉とラッセからの注意。
「奴の口癖?」
 そう思った次の瞬間、ベアがゴロゴロと転がり、マナの足から逃げる。
「わははあははぁ! このベア様を捕まえるのは一万光年以下略!」
 あははと笑いつつ、ゴロゴロと逃げるベア。その前に人影が立ち塞がる。
「我流太極図【離の太刀】」
 それは「爆炎波」だった。ベアを襲う衝撃は宙を舞わせ、全身をミディアム(丁度いい焼け具合)にした。
 そこにいたのは緑色のボサボサ頭の不良っぽいセイバー武神牙竜(たけがみ・がりゅう)と、金髪をポニーテールにしたパートナー、可愛いけど胸が小さいヴァルキリーのセイバーリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)だった。
 二人の格好は普段とは違い、牙竜は白と黒がバランスよく色分けされた、リリィは白を基調としたフリルのコスプレ服を着ていた。
 そして二人は叫ぶ。
「ケンリュウガー!」
「仮面乙女マジカル・リリィ!」
「「我らが居る限り、正義に仇為す者に明日は無い!!」」
 ドゴーンと、後ろの方で派手な爆発が起きる。
「さあ、インヴィジブルポーズ! 俺と勝負だぜ!!」 
 突然の出来事に全員がポカンとしていた。
 なぜベアを【インヴィジブルポーズ】と勘違いしたのか。それは、鈴花の仕掛けだった。ゆる族が【インヴィジブルポーズ】という偽の情報を流した鈴花。牙竜はベアを見て、きぐるみをゆる族と見てしまった。
 とりあえず、マナが誤解を解こうとし、ケイも事情を察し、説明を試みる。
 その時、音楽が鳴り響く。
「ちょぉっとぅ〜! まったぁ〜!」
 BGMを携帯から鳴り響かせながら、ゴスな感じの黒いペアルックの般若面と天狗面を付けたその二人は言う。
「日のいずる国より現れし風の支配者と!」
「鬼の中の鬼と以下略! はい起爆!」
「えっ!? 承知!」
 カチッっと、何かを押した音、そして、ケンリュウガーを中心に巻き起こる爆発の嵐。
「うわあああぁぁぁぁ……」「きゃあああぁぁぁぁ……」「うひょおおおお! クマは不死身だぁぁぁぁ……」
 ケンリュウガーとリリィ、その他一名は爆発に飲み込まれ、ボロボロにされてしまう。
「あらぁ、登場シーンの時に火薬の近くに居るなんて、空気読めてないんじゃない〜?」
 そう言ったのは般若面を付けた銀髪ロングウェーブの吸血鬼、ウィザードのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)
 そしてそのパートナーの天狗面を付けた緑髪のショートウェーブのソルジャー桐生円(きりゅう・まどか)が続けて言う。
「そうですよ、宝くじが外れたからって売店に文句を言いに行きますか? 言いませんよね? じゃあ、この件については不問で!」
 ケンリュウガーが足を引きづりながら聞く。
「お前たちは誰だ!?」
 答えたのは天狗面。
「貴様等に名乗る名前はないが【狂い咲き快楽主義娘】と【完全マイペース吸血姫】でお願いします、いいですよねマスター?」

「センスは悪くないわ、いいセンスよ」
 と般若面。
「そうか、インヴィジブルポーズの仲間だな!?」
 ケイは覆面男をちらりと見る。首をブンブン振っていた。
「お前たちの好きにはさせない!」
「だが、パートナーは既に地に伏せ、お前一人で何ができる? さあ、インヴィジブルポーズさん、今の内に……って、更に黒こげに!?」
 べアが爆発に巻き込まれていた事にようやく気付いた天狗面。
「くっ、このままでは逃げられてしまう……」
 ケンリュウガーが絶望したその時、希望の光が射す。
「待たせましたね、牙竜さん!」
 そこに現れたのは黒髪をポニーテールにした端正な顔立ちのナイト水神樹(みなかみ・いつき)と。
「リリィのメッセージ、受け取ったぜ!」
 パートナーの黒髪をショートにした剣の花嫁、プリーストのカノン・コート(かのん・こーと)だった。
 二人は、リリィが最後の力で携帯からメールで連絡を受け、ここに来る事が出来た。
「リリィ、ありがとう」
 気絶したリリィを抱きよせながら、ケンリュウガーは言う。

 そして、マナとケイは思った、なんだこの展開は?
気づけば茶髪のオールバックの小男、蛙顔のいんすますぽに夫(いんすます・ぽにお)が祈りを捧げ、屋上から見えるか見えないかのパラミタ内海から、巨大な何かが、得体の知れない何かが出てきていた。
 ぽに夫のパートナー、ゆる族の巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)だ。とにかくデカイ。
「だごーん様、ここまで来てあいつを捕まえて下さい!」
 ぽに夫の声に反応するだごーん。
「!!!!!!!!!」
 だごーんの声は普通の人には何を言っているのか解らない。しかし、これだけは解る。パラミタ内海とここまでには、間に森が広がっている。つまり、森を踏みつぶさなければ、ぽに夫の下には辿りつけない。
 すごすごと諦めて海に帰るだごーん。
「だごーん様ぁぁぁ!!」
 とりあえず、マナとケイは見なかった事にした。それが本人の為という気遣いだった。
 
 樹が妖怪たちと対峙する。
「いきますよ、カノン……あのふざけた二人にマナーを叩きこんでやる!」
「うわぁ、落ち着けって」
 それを見ていた天狗面は考える。これ以上長引かせるのは色々とまずい、目立ちすぎだ。
「マスター! 一気に終わらせましょう!」
「アレをやるの? いいわよ、私たちの必殺技よぉ〜」 
 天狗と般若が何かを始めるようだったその時、ケイが気づく。先ほどの覆面男がいない?
 覆面男は間違いなく奴だったが、いつの間にか姿が消えていた。
 しかし、今は二人の妖怪が何をするのか気になり、視線を戻す。
 そこには般若面が出した雷が天狗の持つ銃に吸い込まれている光景があった。
「「とある妖怪コンビの超電磁砲」」
 雷が容赦なく銃に浴びせられていく。
「さぁ、発射しなさぁ〜い!」
 その場にいた全員がその言葉に身構えるが、何も起きない。
 天狗を見てみる。
「……っ、……! …………」
 痺れているようだ。銃に吸い込まれた雷は、そのまま天狗に流れていた。
「ででで、できると、思ったん、ですけどどどど、ねぇ?」
 予定では、銃に電撃を浴びせ、電気と磁気によって弾丸を打ち出すレールガンと言うモノをやろうとしたのだが、天狗に電流が流れるという形で失敗に終わった。
「そもそも、その銃じゃできないんじゃないのかねぇ?」
 失敗の原因について考えていると、樹が光条兵器と縄を手に迫ってきていた。
「貴様、覚悟は出来ているのだろうな……?」
 既に天狗の目前に迫る樹。そして、間に立ちはだかる覆面男。
「待ちたまえっ!!」
 突然の大声に思わず止まる樹。そして、全員が覆面男に注目する。
「私の事で関係の無い者達が傷つくのを見ている事は出来ない。私に用があるのだろう?」
 などと言い放つ覆面男、改め、インヴィジブルポーズ。
「まさか、あなたが変態紳士?」
 どよどよと、動揺が広がる。
 ケイは思った。お前らなんで気づかないんだ、と。
 樹がベアに問い詰める。
「それじゃあ、このクマは!? クマっ! あなたは一体何なの?」
「べ、ベアです……」
「ベア(熊)はわかってる!」
 放り捨てられるベア。マナが回収する。
「まあいいわ、あなたが本物なら、ここで捕まえるだけだ!」
 樹が動くのと同時に、その場にいた捕まえるという事を目的とした者は一斉に動いた。
 それに対し、本物のインヴィジブルポーズを守ろうと応戦する天狗と般若。
「くっ、また邪魔を……そこをどけっ! 狂い咲き快楽主義娘!」
「ええ!? 覚えてたの? 何か嬉しい!」
 激しい攻防が繰り広げられる。般若が氷の柱を破裂させ、散弾として打ちこみ、樹が光条兵器で防ぐ。
 ケンリュウガーが邪魔にならないよう足を引きづりながら太陽に向かって歩き出し、その絵になる背中をリリィが携帯で写メル。
 マナが引きずり、ベアが引きずられる。
 少し離れた所では鈴花がニヤニヤとこちらを見ていた。
 ケイはどうしようか考え、変態紳士が見当たらない事に気づく。
 透明になっているのではと、目を凝らすが、近くにはいないようだ。

 月夜は気がつかなかった。今まで罠として刀真に干されていた自分の下着が無くなった事に。
 そして気づいた。目の前の空間が揺らいでいる事に。その揺らぎが話しかけてくる。
「美しい髪のお嬢さん、失敬させて戴きます」
 ススス、とスライドするように移動する揺らぎ。そこにケイがやって来た。
「こっちに変態紳士は来てないよな?」
 顔を腫らした刀真が答える。
「いえ、奴はとんでもない物を盗んで行きました」
 首を傾げるケイ。そして月夜が答える。
「私の下着……」
 その声には怒りしか込められていない。


 その頃、異変に気付いた黒髪の前髪パッツンのロングの育ちが良さそうなウィザード朱宮満夜(あけみや・まよ)は、空から箒にのってやって来た。ちなみに、制服からミニスカートの私服に着替え、しかし、パンツが見えるという理由で黒のストッキングを穿いていた。
 続いて来たのはパートナーの、重力に逆らうかの如くツンツンした黒髪の吸血鬼、端正な顔立ちでつり目なウィザードミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)だ。
「近くにいるはずです。探しますよ」
 満夜がミハエルにそう言った瞬間、風が吹いた。
「バーストダッシュ!」
 その風は、そう叫ぶと満夜のスカートを捲りつつ吹き抜ける。
 一瞬、満夜は何が起きたのかわからなかった。
 短いスカートは大きく捲れ、黒のストッキングを穿いているが、その下の白いパンツが透けて見える。
「ひ、きゃああぁぁぁ!」
 ようやく、事態を把握した満夜が悲鳴をあげる。
「誰だ!?」
 ミハエルが叫ぶ。その風はこう答えた。
「ゲッコーでござる!」
 それは風ではなく、桃色の髪をポニーテールにした美形の女に見えるが男のセイバーゴザルザゲッコー(ござるざ・げっこー)だった。
「黒いストッキングに浮かぶ純白のパンツ、確かにこの網膜に焼き付けたでござる」
「ななな、何ですか、なんなんですかあなたは!?」
 満夜は顔を赤くしながら聞く。
「ゲッコーでござる!」
「それはもういい!」
 ミハエルが近づくと、ゲッコーが消える。スキル、バーストダッシュによって、大きく迂回しながらだったがミハエルの背後に回っていた。
「秘技ヘブンバースト」
 説明しよう。ヘブンバーストとは、バーストダッシュの突進力を利用し、相手の肛門に自分の両手の人差し指を突き刺すという非道の技である。これを食らうと「ヘブンッ!」と叫び崩れ落ちるという。
「おまえの力、大したことないな」
 ミハエルはそれを軽く避ける。
「拙者の技を避けるとは、貴公、なかなかやるでござるな」
 自分の技が失敗した事を悟ると、背を向けて走り出す。逃げた。
「に、逃がしませんよ!」
 満夜が追うとすると、凄まじい勢いで逃げるゲッコー。
「我……神風也!」
 次の目標に向かうゲッコー。彼はとにかく楽しむ事しか考えていない。次は大技、股下潜り抜けに挑戦する。一歩間違えれば大事な所に顔から突っ込むという嬉し恥ずかしハプニングイベントに突入だ。
 その前に、ボサボサの焦げ茶色の髪にバカっぽいけどカッコいいセイバー神代正義(かみしろ・まさよし)が立ちはだかる。
「お前がインヴィジブルポーズか! うわさ通りだな……だが、これ以上好きにはさせん!」
 自前のヒーローの仮面を被った正義は、光条兵器、両刃の片手剣を構える。
 ゲッコーは気にせず進み続ける。
 光条兵器を振るう正義。しかし、バーストダッシュの速さに追いつけなかった。
 空振りした正義を尻目にゲッコーが向かう先に、綺麗な黒くて長い髪の女子がいた。それは月夜だった。こちらには気づいていない。
「パァンツゥゥゲッタァァァ!!」
 意味不明の言葉を絶叫しながら、姿勢を低くし、後ろから潜り抜けようとしたその時、月夜が振りかえる。
 気づいたら、ゲッコーは月夜に顔面を踏まれ、地面に伏していた。
「……しね」
 ゲッコーは死を予感した。
 彼の失敗は、下着を取られたばかりの月夜をターゲットに選んでしまった事だった。
 そして、その後ろには。
「逃がさんぞっ!」
「ミハエル! やっちゃって下さい!」
「おまえも、運が悪いな」
 三人が追ってきた。
「くっ……パンツ道とは云ふは 死ぬ事と見つけたり!」
 突然、倒れたままナイフを自分に刺すゲッコー。血が噴き出す。
 あまりの出来事に月夜は足の力を緩めてしまう。その隙を逃さず、ゲッコーが再び逃げだした。
 ナイフが転がっている。月夜が拾い、先端を調べると、刃の部分が押すと引っ込む玩具だった。血糊付き。
 ゲッコーの捕まったら最後の鬼ごっこが始まった。


 インヴィジブルポーズは逃げていた。囮として使われている餌を華麗に回収しつつ。
 しかし、彼も視界外からの攻撃には弱かった。
 気づかない内に近づいていた彼女は、手に持っていたバケツの中身をぶちまける。
 すると、何も無かった空間に人の姿が浮かび上がる。
 彼女は銀色の髪を頭の横で一本に束ねる形、サイドテールにした八重歯の可愛い魔女、ウィザードのアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は、予めバケツに食紅によって色がついた液体を用意していた。いまやインヴィジブルポーズの姿は真っ赤に染まり、透明になる事が出来ない。
「今です、波音ちゃん!」
 すると、空から箒に跨った女の子がやって来た。
 金髪ロングの子供っぽいウィザードクラーク波音(くらーく・はのん)だ。
「んっふっふ〜、現れたな怪人インヴィジブルポーズめ〜、このホウキライダー・イルミンれでぃ〜が捕まえてやる〜!」
 全身を真っ赤に染めた紳士は紳士らしく、丁寧な口調で言う。
「おやおや、してやられましたね。だがしかしお嬢さん、私を捕まえたければ、あなたのパンツを戴けませんか?」
 訂正。変態紳士は変態紳士らしく言った。
「それが無理なら、追ってきなさい何処までも!」
 凄まじい勢いで逃げる変態紳士。それを追うホウキライダー・イルミンれでぃ〜。
「ま〜て〜!」
 空飛ぶ箒で追いかけるイルミンれでぃ〜の姿は、周りには楽しんでいるように見える。
 変態紳士は変態紳士で、距離が空くとゆっくりに、捕まりそうになるとギリギリの所で捕まらない様にしている。
 まるで鬼ごっこの様だ。それも、子供と大人の遊び。
 後ろの方で行われているリアル鬼ごっことは雲泥の差だ。
 そんな二人の前に、立ちはだかる影。
「そこまでよ!」
 そう言ったのは、茶髪をシャギーにした美形のナイト遠野歌菜(とおの・かな)
 その隣や後ろには彼女の仲間たちがいた。
「なぁおい、俺らがこんな格好する必要は無かったとか言うなよ?」
 そう呟いたのは焦げ茶の髪をボサボサにした地味でごく普通なナイト鈴倉虚雲(すずくら・きょん)
「まさか、あなた達のおかげでアレを見つける事ができたのです」
 そう返したのはパートナーの薄茶色の髪をショートにしたヴァルキリー、美形のプリースト紅射月(くれない・いつき)
 今、歌菜と虚雲はいつもとは違う姿をしていた。歌菜は改造された超ミニスカートな蒼空学園の制服に、清楚なレースのヒラヒラした一見下着に見えるアンダースコートを着用している。胸元もリボンを外し、開けているので扇情的な格好になっている。
 虚雲も同じく改造され、スリットまで入ったスカートの蒼空学園の制服を半ば無理やり着せられ、カツラに、化粧、無駄毛の処理に下着まで女物と完璧にされていた。もちろん、彼は男だ。なぜ女装を? それは些細な問題だろう。
「まぁ、抵抗して着替えるのが遅れて、ここに来たら丁度いいタイミングだったんですから、ある意味、その服は役に立ちましたね」
 聞こえるか聞こえない程度の声で呟いたのは、黒髪ショートでつり目のローグ島村 幸(しまむら・さち)
 制服を改造したのも彼女が筆頭となっていた。
「しー、聞こえたら面倒ですよ」
 そう言ったのはパ−トナーの黄色い髪をロングにした剣の花嫁、精悍な顔つきをしたプリーストガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)
 更にその後ろに、二人。
「でも、このペイント弾を撃つ手間が省けましたねぇ」
 アサルトカービンを手にそう言ったのは、焦げ茶色の髪をボブカットにした、童顔な上、眠そうな顔とよく言われるソルジャー佐々良 縁(ささら・よすが)
 そのパートナー、綺麗な白髪ロングのかわいい剣の花嫁、プリーストの佐々良 皐月(ささら・さつき)はロープを手に言う。
「後は捕まえるだけだもんね」
 合計七人の彼ら、彼女らは、【にゅーわーるど】(虚雲が新しい世界に踏み込んだの意)というチームメンバー。
 既に、変態紳士を包囲していた。
 更に後方にはイルミンれでぃ〜が迫っている。
「このタイミングでこの人数……流石にこの私も平伏するしかありません」
「動かないで下さい!」
 幸が変態紳士の動きを制する。
「何をするかわからん。さっさと縛っちまえ」
 虚雲がそう言うと、射月が動く。
「では早速、このロープで……」
「俺を縛ってどうするんだっ!」
「おや、すみません……つい」
「お前はつい、で俺を縛るのか? んん!?」
「はいはい、痴話喧嘩はそのへんにしてねぇ」
「どこが痴話喧嘩だ!」
 などとコントが展開していると、幸が前にでる。
「一つ、聞きたい事があります」
「はて、何でしょうか」
「以前、私がここを訪れた時、隣にいた女の子たちを襲って……私だけ襲わなかったのはなぜですか?」
 幸の声は冷静だったが、それがガートナは怖い。
 変態紳士は少し考えた。思い出しているのかも知れない。
 そして、答えた。
「私の目的に君は合わなかったのだが……御望みとあらば」
 幸は、今の言葉をこう受け取った。
「つまり、私は、そんなに女に見えませんか?」
 慌ててガートナが落ちつけようとする。
「落ち着いて下さい、幸」
 変態紳士はこれを望んでいた。
 わざと怒らせる事によって隙を作る。
 今、隙ができた。一気に駆け抜け、包囲網を突破する。
 しかし、そこには人影があった。
 ボサボサの茶髪に眠そうな顔に大きな胸のウィザード、魔楔テッカ(まくさび・てっか)とそのパートナー、赤髪ロングのこれまた胸の大きい機晶姫、セイバーのマリオン・キッス(まりおん・きっす)がいた。
「やっと見つけた。早く返してもらうよ」
 テッカはそう言うとロープを手に待ちうける。
「ワタシの返して欲しいですぅ」
 マリオンが続けて言うが、変態紳士は首を傾げる。
 自分の手にした物は全て覚えているが、彼女らから盗った物は何も無かったからだ。
 マリオンが盗られた物とは、股間の装甲部分だった。
 見れば一目でわかる。装甲が外され、露わになったその部分はガムテープを張るという何だか情けない格好になっていた。
 誰に盗られたのかはわからない。しかし、自分を捕まえようとする以上は何とかしなければならない。
「手荒な真似はしたくありませんでしたが、もう少しなのです。通らせて頂きます」
 迷わずテッカに向かう変態紳士。
「返すつもりは無いようですな……なら、マリオン!」
「はいですぅ!」
 テッカが呼ぶと、マリオンが輝きだす。
「「がった〜い!!」」
 辺りは光に包まれ、何も見えない。光が収まると、そこには。
「「テッカマリオン!!」」
 機晶姫と合体した人間、テッカとマリオン。合わせてテッカマリオンがそこにいた。
 甲冑の様に機晶姫の中に入ったテッカ。こうする事によって、テッカはスースーするスカートの中身を見られる心配が無くなり、戦闘力も上がるという寸法だ。
「さぁて、返して貰おうか!?」
 テッカの火術とマリオンのツインスラッシュが変態紳士に襲いかかる。
「グハァッ!」
 炎を防ぐが斬撃を受け切れずに後退する。だが、それ以上さがれば再び包囲され、今度こそ捕まるだろう。
「仕方がありません。弱点を突かせて頂きます」
 変態紳士がテッカマリオンに向かって走り出す。その時、空中に電撃が出現し、テッカマリオンに襲いかかる。
「機晶姫と合体した事で電撃を浴びせれば動けなくなる筈です」
 機晶姫で無くても電撃を浴びれば動けなくなるように、テッカマリオンは痺れて怯んでしまう。
「ひあぁぁ、痺れますぅ」
 再び逃げようとする変態紳士。それを見逃す事は出来無い。
「こうなったら……分離!!」
 マリオンの中からテッカが再び出てきた。まだマリオンは痺れているが、中にいたテッカは被害が少なかった。
 しかし、そこに一陣の風が吹く。
「っ!!」
 咄嗟にスカートを抑えるテッカ。改めて確認すると、テッカはノーパン状態だった。
 変態紳士はそれを見抜き、わざと風を巻き起こしながら逃走する。
「卑怯な手で失礼。これも、我等が悲願の為!!」
「や、やめっ、やめろってんだろぉ〜」
 なんとか立ち上がろうとするが、お尻が見えそうになり、へたり込む。
「やめろー!!」
 一部の男子が後ろの方でパートナーに叩かれたり、殴られたり、新記録が出そうになったりしていた。
 殆どが追う程の余裕が無かった。それどころか、気付いたら変態紳士は消えていた。