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砂漠の脅威

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砂漠の脅威

リアクション

 
 氷魚 司、フレミー・アンシャンテと協力することにした本郷 翔は、持って来た油をビニール袋に詰め直し、それを巣穴の底のスナジゴクめがけて投げつけた。牙に引っかかれば……と思ったのだが、砂が吹きかけられる中ではさすがにそれは不可能で、頭に当たって巣穴の底にたぽん、と油入り袋が転がった。
 「袋が埋まる前に!」
 司がドラゴンアーツで遠当てして袋を割る。そこへ、フレミーが火術で火をつけた。
 ところが、思ったより火力が上がらない。食用油は揮発しにくいため、常温で火をつけてもそう爆発的には燃えないのだ。油が砂に吸収される速度が速く、炎が広範囲に広がらなかったのも災いした。火と熱に驚いたスナジゴクは、砂煙を上げて砂の中に潜ってしまった。
 「しまった、逃げられた!」
 「次はどこに出る?」
 司とフレミーは慌てて周囲を見回した。少し離れた場所で囮として歩き回っていたヴァルキリーの紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)の前で、砂が舞い上がる。
「来ましたよっ!」
 紫桜はバーストダッシュを使って飛び退った。
 「スナジゴクはどこ!?
 紫桜のパートナー緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はスナジゴクの姿を探した。しかし、穴を掘るスナジゴクが吹き上げる砂が邪魔で、なかなかその姿を捉えることが出来ない。その時、大きくなってきた巣穴に、機械油をかぶった高潮 津波(たかしお・つなみ)が駆け込んだ。……と言っても、顔にもべったりと砂がついたため、途中から目を開けていることが出来なくなって、斜面の半分以上は転がり落ちていたのだが。
 「痛い……目が開かない……」
 体じゅうリアルデザートカモフラージュになって、巣穴の底でうめく津波。一方、スナジゴクはエサが落ちて来た気配を感じて砂を吹き上げるのを止め、『いっただっきまーす♪』と津波に襲いかかろうとした。
 「今ですわ!」
 津波のパートナーナトレア・アトレア(なとれあ・あとれあ)が轟雷閃を放つ。カルスノウトからほとばしる稲妻が、スナジゴクの片方の牙の根元を直撃した。スナジゴクはじたばたと暴れながら、再び砂に潜ろうとした。
 「逃がしませんよ!」
 緋桜も、雷術でスナジゴクを攻撃する。そこへ司とフレミーも加わって、何とかスナジゴクを仕留めることができた。しかし、
 「しーびーれーたー……」
 戦いが終わった後、雷と炎でコゲコゲになったスナジゴクの残骸と共に、砂まみれでぶすぶすと煙を吹く津波が巣穴の底に残されることになってしまった。その様子を見て、ナトレアは思わず吹き出した。
 「ひどい……」
 津波は弱々しい声で抗議した。
 「ごめんなさい、つい。皆さま、申し訳ございませんが、彼女を穴から引き上げるのを手伝って頂けませんか?」
 そこで、生徒たちは皆で力をあわせ、津波を穴の底から助け上げた。
 「お嬢様、ひとまず後方の救護所へ行かれては? お茶を出して差し上げたくても、そのお顔では、お茶を楽しんで頂くどころではありませんでしょう」
 翔が津波の顔を覗き込んで言った。吹き出さないのはさすがと言うべきか。
 「ええ。顔だけでも洗わせてもらって来ます……ナトレア、連れて行ってください」
 津波はナトレアと翔に付き添われて、救護の生徒たちが居る方へよろよろと歩いて行った。


 「そろそろ、引っかかってくれないかしら……」
 黒レースの日傘をさし、側に積んだ石を砂に向かって投げながら、セラ・スアレスは呟いた。
 「周りで大騒ぎしてますからね……みんなそっちに行ってしまったんでしょうか。でなければ、自分にはかなわない大物が居ると思って、逆に逃げてしまったか」
 フィル・アルジェントが周囲を見回す。日が昇り、周囲はすっかり明るくなっている。さっきから空飛ぶ箒を持って歩き回っているヤジロ アイリも、時折持って来た水を飲んでいるが、かなりばてて来たようだ。
 「砂袋も、もうなくなりますし……」
 人間の足音を装うために小型飛空艇から小さな砂袋を落としていた荒巻 さけ(あらまき・さけ)がため息をつく。
 「回収して来ましょうか? ……って、あれ??」
 さけのパートナーのヴァルキリー日野 晶(ひの・あきら)は、前方を横切ったものを見て目をぱちくりさせた。
 「隠れるとは卑怯だぞ! 出て来い!!」
 今のところはまだ最初のテンションを維持したまま、砂煙を上げてにぎやかに走って行く『パラミタ刑事シャンバラン』こと神代正義。その後ろの砂が、何やらもこもこもこっと動いているのだ。そう、まるで、砂の中で何かが後を追いかけているように……
 「あれって、まさか……」
 「所詮虫ですもの、たいした知恵はないだろうと思っていましたが……」
 さけは肩を竦めた。つまり、正義の足音に反応したスナジゴクが砂の中で彼を追いかけているのだが、スピードの関係で追いつけず、ずっと正義を追い掛け回しているのだろう。
 「あのお面の人を止めれば、スナジゴクはあの人を襲いそうですよね。でも、声をかけても聞いてくれなさそうな……」
 「そんなの、簡単ですわ」
 どうしたものかと悩む晶にあっさりと言うと、さけは出せる限りの大声で、
 「きゃあああああああっ!!!」
 と悲鳴を上げた。
 「むんっ、天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ、悪を倒せと俺を呼んでいるッ!!」
 正義は立ち止まり、悲鳴の主を探した。
 「ね、簡単だったでしょう?」
 さけは、晶に向かってにっこりと笑ってみせた。その向こうで、立ち止まった正義はスナジゴクに思い切り砂を浴びせられていた。
 「ここに居たかアリジゴク怪人! 不意打ちとは卑怯だぞ!」
 大袈裟な仕草で正義は顔にかかる砂を防いでいるが、その足元がどんどん崩れて行く。
 「行きましょう、セラさん!」
 アサルトカービンを構えて、フィルは走り出した。
 「ええ!」
 セラがその後を追う。
 「くそ、ゴーグルがあっても、あの砂じゃスナジゴクの姿が良く見えないな」
 空飛ぶ箒に乗って、見る見るうちに深くなって行く巣穴の底を透かし見ながらヤジロが言った。
 「中に人が居ますから、やみくもに火術を打ち込むのは危険ですね」
 同じく、空飛ぶ箒に乗ったセス・テヴァンが眉を寄せる。
 「おい、大丈夫か!?」
 腰まで砂に埋まり、ずるずると穴の底に飲み込まれて行く正義に向かって、ヤジロは叫んだ。
 「何のこれしき……ッ!」
 歯を食いしばる正義の前に、砂の中から巨大な牙が姿を現した。
 「俺は、この時を待っていたんだぁッ! 食らえ、『爆炎波』ッ!」
 砂の中から現れた頭めがけて、正義は片手剣型の光条兵器を振り下ろした。炎を纏った光条兵器が甲殻にぶち当たり、ガチーン!といかにも痛そうな音を立てる。次の瞬間、怒ったのか、痛いのか、スナジゴクが砂を舞い上げながら猛然と暴れ始めた。砂を蹴散らす前足が正義の身体を引っ掛けて、正義はぽーい、と穴の外へ投げ捨てられる。
 「これでやっと攻撃できる!」
 ヤジロは穴の底で暴れるスナジゴクの口めがけて火術を放った。だがやはり、砂に視界を遮られて、正確な場所が判らない。フィルの精密射撃も効果半減だ。
 「わたくしの出番のようですわね……明日の酒池肉林のためにっ!」
 さけがソニックブレードを放った。かまいたちが砂を吹き飛ばし、スナジゴクの前足を斬り飛ばす。
 「今だ!」
 「今です!」
 砂の切れ目から、ヤジロの火術とフィルの精密射撃もやっと決まり、スナジゴクはしばらくもがいた後動かなくなった。
 「これで、村に着いたら肉球触り放題ですわ。……と、その前に」
 さけは潰れたカエルのように砂の上にのびている正義を見下ろした。
 「この方を、救護所に連れて行ってあげなくてはいけませんわね」