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砂漠の脅威

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砂漠の脅威

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第2章 灼熱の戦い

 先発で救援物資を運んで来た生徒たちのほとんどは、その日の夕方、道案内役のアイリを連れて、再び空京へと戻って行った。そしてその二日後、スナジゴク退治を担当する生徒たちを連れて戻って来た。
 「じゃあ、僕たちは先に行くね」
 小型飛空艇に積んで来た荷物の一部を降ろして、十倉 朱華(とくら・はねず)はスナジゴク退治を申し出た生徒たちを見回した。朱華はこの後、追加の物資を運んでミャオル族の村へ向かうが、スナジゴク退治の生徒たちはここに残り、スナジゴクを倒しながら村へ向かうことになっている。朱華が降ろしたのは、スナジゴク退治の生徒たちが使う物資だ。
 「一応、空京で調べられるだけのことを調べて、しおりにまとめておきましたからな」
 ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)と、パートナーの吸血鬼アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)が、小冊子を配る。が、ミャオル族のいる砂漠はあまり人から興味を持たれたことがないらしく(と言うより、「あんな所、砂以外には何もないだろう」と思われていたというのが正直なところか)、結局アイリから得た……皆も既に知っている情報と、一般的な砂漠での活動の注意点程度に終わってしまった。
 「オレもマティエも、さっさとやること片付けてミャオル族の村を見たいから、あんたたちが村に着く前にスナジゴクを退治し終わって追いつくかもなあ」
 「私はミャオル族ではありませんが、猫ゆる族として、彼らが困っているのを見過ごしてはおけません。スナジゴクなんてぶっつぶしてやります!
 うそぶく曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)の隣で、瑠樹とお揃いの日除け用外套を着込んだパートナーの猫着ぐるみのゆる族、マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)が拳を握る。
 「あまり無茶しないで、気をつけて行ってね!」
 朱華はそう言うと、パートナーの守護天使ウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)や、同じように物資の輸送をする生徒たちと共に出発した。
 「さてと……一応、ここに救護所を作っておくからの。何かあったら戻って来るのじゃぞ」
 皆と別れてすぐ、砂の上にレジャーシートを敷いてパラソルを立て、水を入れた竹筒や薬箱を並べながら、御厨 縁(みくりや・えにし)はパートナーの機晶姫サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)に言った。まだ早朝で空は薄暗く、気温も寒いくらいで、しばらくは熱射病を心配する必要はなさそうだったが、夜が明ければ気温は一気に上がって来るだろう。
 「うん、行ってくるね!」
 ぱっぱらっぱぱっぱぱー、ぱっぱぱっぱぱっぱぱー、と突撃ラッパのメロディーを口ずさみながら、サラスはカルスノウト片手に飛び出した。
 「あいつ、大丈夫か? 頭がやられるほど暑くはなかったと思うんだが」
 縁とサラスから少し離れた場所で、ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)はアサルトカービンを片手にその様子を見ていた。
 「まあ、こっちとしては囮になってくれればありがたいけどな」
 ロブはなるべく動かず、狙撃できる機会をじっくりと待つ作戦だ。だが、ポケットから葉巻を取り出すよりも早く、足元で砂が滑るような気配がした。
 「ん……?」
 ロブは思わず足元を見た。だが、砂は動いていない。
 「気のせいか……?」
 呟いたその時、サラスが向かって行った方向から水柱ならぬ砂柱が上がった。どうやら、スナジゴクはロブの足元付近を通って、サラスの方へ向かったようだ。
 「始まったな」
 ロブはアサルトカービンを構え、慎重に砂が舞い上がっている方へ近づいた。


 砂柱が上がったのは、悪いことにちょうど輸送隊が向かった方向でもあった。
 「危ないッ!!」
 『禁猟区』で一瞬早く砂柱が上がるのを察知したウィスタリアがとっさに叫び、朱華を降って来る砂からかばう。
 「地上の皆は?」
 朱華は地上を見た。今日輸送隊に参加しているのは、小型飛空艇や空飛ぶ箒だけではない。白馬や軍用バイクに乗ってきた生徒もいるのだ。
 「おおーい、みんな大丈夫?」
 「大丈夫です!」
 何と徒歩で参加している百合園女学院のヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が手を振る。
 「スナジゴクが来たら、ボクのこのランスで串刺しにしてやります!」
 振っていない方の手に持っているのは、自分の身長の倍はあるランスだ。可愛い外見に似合わず、何とも勇ましい。とても、『可愛い水着美女で賞』を取っているとは思えない。
 しかし、そんなやり取りの間に、足元の砂にだんだんと変化が現れた。行く手で何度も砂柱が上がるにつれて、砂漠の一部が陥没し始める。
 「うわっ、来ましたよ!」
 シャンテ・セレナード(しゃんて・せれなーど)が、乗っていた白馬を慌てて斜行させ、崩れ始めた砂から逃げる。
 「ここで立ち止まっているのはまずいのではないか? 早く進んだ方が……」
 シャンテのパートナー、吸血鬼のリアン・エテルニーテ(りあん・えてるにーて)がぼそぼそとした口調で皆を急かす。普段は無口なリアンだが、今回は報酬のコーヒーとドーナツをものすごく楽しみにしているので、失敗はしたくないのだ。
 「戦場を突っ切るのは危険ですし、スナジゴクの出没地帯は砂の起伏が激しくなっているそうですから、馬やバイクで通るのは大変でしょう。少し大回りをして、このあたりを迂回しませんか」
 朱華を戦わせたくないウィスタリアが提案する。
 「えええーっ、大丈夫ですよ! ボクのランスで……」
 ヴァーナーは戦う気まんまんだ。だが、
 「いえ、僕たちの役目は、スナジゴクと戦うことではなく、皆から預かった物資を無事に村まで送り届けることです。戦いが回避できるなら、その方が良いと思います」
 シャンテの意見に、リアンがこくこくと頷く。
 「そうだね、迂回しよう。上から見れば、村の方向も、どっちが安全そうかもわかるから、僕たちが誘導するよ!」
 朱華が小型飛空艇の高度を上げる。何とか戦いを回避できそうで、ウィスタリアはほっと胸を撫で下ろす。


 その頃、砂柱が吹き上がっている下では、激しい戦いが繰り広げられていた。
 スナジゴクは完全に地面上に姿を現すことはない。砂の中を進んできて、地表面付近で砂を吐き出し、掻き出しして例のすり鉢状の穴を作る。口突撃ラッパと共に飛び出したサラス・エクス・マシーナは、見事にそのすり鉢にはまってしまった。
 「アリジゴクならね、腹が、弱点だと思うんだけどねっ」
 ばさっばさっと降りそそぐ砂が目に入って視界もままならないが、すり鉢の底にうっすらと見えるスナジゴクは、頭の先と足が数本見えるだけで、腹は砂の中に埋まったままのようだ。何とか体制を立て直したいが、まさしく「地獄」で、斜面を上がろうとすればするほど、足を取られてずるずると滑り落ちてしまう。
 「サラス? 大丈夫か?」
 さすがに心配になったらしいパートナーの御厨 縁に呼びかけられても、返事をする余裕もない。
 「だから言ったこっちゃない」
 ゆっくりと穴の側まで近寄ったロブ・ファインズは、おもむろにアサルトカービンを構え、スコープを覗いた。
 「弱そうなのは目か、甲殻の継ぎ目か……」
 せわしなく動いて砂を蹴散らす足が邪魔に思えたので、とりあえず足の関節を狙うことにする。乾いた銃声と共に放たれた銃弾が、スナジゴクの関節を打ち抜いた。驚いたのだろうか、スナジゴクはジタバタと暴れ始める。
 「うわ、わ、わ」
 盛大に砂が舞い上がり、サラスはそれに巻き込まれてすり鉢の底まで落ちて行く。『ちょっと痛かったけど、ラッキー!ごはんが転がり込んできたー!』とばかりに、スナジゴクが首を持ち上げ、サラスに襲いかかる。ロブは続けて二発目、三発目を撃った。スナジゴクの足が一本吹き飛ぶ。が、サラスは半分以上砂に埋もれかかった上、暴れるスナジゴクと砂にもみくちゃにされて目を回している。……機晶姫のサラスは、装備込みの体重が重く、沈みやすいのだ。
 「これ、もうちょっと頑張るのじゃ」
 縁はヒールやSPリチャージを飛ばすが、サラスを引っ張り上げる気はないらしい。
 「ああもう、しょうがないなぁ」
 「サラスさーん、スナジゴクを倒したら引っ張り上げてあげますからねー」
 足元を警戒しながらやっと近づいてきた曖浜 瑠樹が、パートナーのマティエ・エニュールと共に攻撃に参加する。二人の放った精密射撃が、もう一本スナジゴクの足を吹き飛ばす。やっと砂が吹き上がらなくなり、視界がクリアになった。しかし、じたばたと暴れているおかげで、狙いがつけにくい。
 「くそっ、外れた!」
 瑠樹が珍しく声を荒げて悔しがる。
 「目は……ああ、砂の中に居ることが多くて退化してるのか。あれが、そうか……?」
 頭部に目らしき場所を見つけて、ロブは引金を引いた。目は関節よりはるかに小さく、狙いにくかったが、何とか的中させることが出来た。
 スナジゴクの動きが止まる。
 「やったー!」
 マティエが歓声を上げた。
 「やれやれ。……さて、埋まってる奴を引っ張り上げに行くか」
 ロブは軍用バイクの所へ行くと、ウインチからワイヤーフックを伸ばし始めた。