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砂漠の脅威

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第3章 宴の始末と宴の顛末

 村の外でスナジゴクが次々と倒されていた頃。スナジゴク退治の生徒と別れて村に向かった輸送隊の生徒たちは、無事に村に到着していた。
 青 野武(せい・やぶ)は、学生たちが滞在している間の水をまかなうため、村に浄水施設を作りたいと考えていた。材料も自分たちで用意出来そうなものを色々と考えていたのだが、トラックや大型の飛空艇が調達できなかったおかげで、肝心の、貯水槽がわりの風呂桶が村まで運べなかった。
 「人が2・3人入れるような、大きな樽はないのかな?」
 野武は村の職人を訪ねたが、
 「この村では、木はとっても貴重ニャ。早く育つ木をオアシスの周りに植えてるけど、家や家具に、保存食や飲み物を入れる樽、水くみ用の桶なんかをを作ったら、もう残らないニャ。水浴び場にたらいはあるけど、使えなくニャるまで使うものだから、余分はないニャ」
 と、使えそうなものはないという答えだった。
 「ううむ、材料から運び直すべきか……しかし、往復している間にスナジゴク討伐が終わりそうであるな」
 結局、自分の分の水を持って来た生徒も多かったことから、スナジゴク退治に日数がかかりそうなら、水そのものを運ぶことになってしまった。
 一方、野武のパートナーの守護天使黒 金烏(こく・きんう)は、仮設トイレと野戦診療所を作りたいと考えていた。だが、やはり輸送方法ネックになって、野戦診療所はともかく、トイレ設置用の資材や機材が運べない。そこで、ミャオル族にトイレはどうしているのか聞いてみることにした。
 「トイレ? ほら、あそこの小屋がそうニャ。用を足した後は砂をかけておけば、すぐに乾いて匂いもないニャ。一杯になったら、場所を移すニャ。元トイレだった場所は、しばらく置いておいてから、木の実を植えると良く育つのニャ」
 「天然の猫砂トイレでありますか……」
 金烏は唸った。考えてみれば、ミャオル族はずっと、このオアシスで不自由なく暮らして来たのだ。
 「では、あなたがたのトイレを増設し、我々も一緒に使わせて頂くということでよろしいでありますか?」
 「当然ニャ! でも、一杯になったら、場所を移す手伝いはして欲しいニャ」
 「もちろんであります」
 そんな話をしていると、スナジゴク退治をしていた生徒たちが村に到着し始めた。
 「おや、もう来てしまったのですかな。まだこれから、スナジゴクについての情報を集めようと思っていたのに……」
 村長たちにシャンバラ教導団謹製の煎餅『檄せん!教導団』を配っていたミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が微妙な表情になった。
 「おお、もうスナジゴクを退治して下さったのですかニャ? ありがたいことですニャ」
 一方、ミャオル族たちは、ひれ伏さんばかりに生徒たちに感謝している。
 「いや、まだ残っているスナジゴクが居ると思う。飛空艇とか空飛ぶ箒を持ってる奴に、上空から良く探してもらった方が良いだろう」
 一仕事済ませてきたロブ・ファインズが言う。
 「願ってもないことですニャ。よろしくお願いいたしますニャ」
 村長は生徒たちに向かって、深々と頭を下げた。


 スナジゴク退治は数日間続いた。そしてついに、村の周囲には生きているスナジゴクは居なくなった。
 「よーし! スナジゴクの殻を剥ぎ取りに行くニャー!」
 ミャオル族の大人や青年たちは、鉈や斧を手にいそいそと準備を始めた(何と彼らは、砂鉄から鉄を精製する技術は持っているのである)。普段はこうやって、砂漠にいる小動物を狩ったり、死骸から骨や皮を採取して、生活の糧と道具を得ているらしい。
 「ちょっと待ってください!」
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が、砂漠に出かけようとするミャオル族を呼び止めた。
 「今回はスナジゴクを退治することが出来ました。ですが、また襲ってくることがないとは言えません。とは言え、ミャオル族だけでスナジゴクと正面から戦って勝てるかどうかと言うと、正直に言って難しいと思います。そこで、スナジゴクが居ても、ある程度安全に行動が出来るような『訓練』をしませんか?」
 「どんな訓練ニャ?」
 生徒たちに助けてもらったミャオル族たちは、生徒たちの言うことを素直に聞くようになっていた。わらわらとイレブンの周囲に集まって来る。
 「ボクたちも、混ぜてくれないだろうか」
 そこへ、桐生 円(きりゅう・まどか)とパートナーの吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がやって来た。
 「さあ猫ちゃんたち、訓練の時間よ〜。まず、返事は元気に『サー、イエッサー』よぉ〜」
 オリヴィアが間延びした声で命じる。ミャオル族たちは怪訝そうに顔を見合わせたが、
 「さー、いえっさー……ニャ?」
 と、素直に復唱した。
 「声が小さぁい。もっと大きい声じゃなきゃダメよ〜」
 そこで、イレブンは円とオリヴィアが何をしようとしているのかに気付いた。
 「ちょっと待ってください、ミャオル族に間違った知識を刷り込まないでください!」
 「軍曹ごっこはお約束ではないか」
 オリヴィアさまがやりたいとおっしゃっているしー、と円は平然としている。
 「私が教えようとしているのはごっこ遊びじゃない、生き残るための訓練です」
 「一応、真面目に考えてたものも用意して来たのだぞ?」
 円は手に持って来たものをイレブンとミャオル族たちに見せた。簡単な造りのボウガンだ。
 「これなら、この村でも造れるのではないか?」
 すると、一人のミャオル族が進み出て、ボウガンを手に取った。
 「うーん、この金具は、村では作ることが難しいと思うニャ……。台になる木も、こんな固い木はこのオアシスには生えてないニャ。仕組みを教えてもらえば、組み立てることは出来るんじゃニャいかと思うんニャけど、せっかく持って来てくれた学生さんには申し訳ニャいけど、この村で手に入る材料で、これを作るのは無理ニャ」
 村の鍛冶屋だと言うミャオル族は、そう言ってボウガンを円に返した。
 「そうか……残念だ」
 「それに、私がしようとしているのは、『抜き足・差し足・忍び足』の訓練です。掛け声など教え込まれてはかえって困るのです。遠慮して頂けませんか?」
 言葉遣いは丁寧だが、有無を言わせぬ態度でイレブンは円に言った。
 「むー、つまらないわねぇ……」
 オリヴィアは唇を尖らせたが、イレブンの態度が変わらないのを見て、円と共に引き下がった。
 「やれやれ……さあ、それでは訓練を始めましょうか」
 イレブンの見込んだ通り、ミャオル族は非常に忍び足が上手かった。もう少し手先が器用なら、優秀な盗賊になれるだろうと思われた。……砂漠の盗賊団になられても困るが。
 「これで、助けを求めに来る時にもスナジゴクに気付かれにくいと思うんですが、どうでしょう?
 「普通の獲物に近づく時にも役に立つニャ! 学生さん、ありがとうニャ!」
 ミャオル族たちは大喜びだ。